宇宙船ホワイトアロー号の日常
宇宙空間を物凄い速さで駆け抜ける一隻の宇宙船ホワイトアロー号。
この船は私の亡き父のトムが長年大切にしてきた物だ。所々年老いた人間と同じようにガタがきている。
体に伝わるエンジンの振動は時々一定のリズムを失い、不整脈のようにとぶことがある。そのたびにこの船を譲り受けた息子のマイケルは、止まらないでくれと心の中で祈るのである。
「ねえ、パパまたとんだよ」
13歳になる娘のジェニファーが、食事の手を止め。呆れた顔をして言った。
「親父のおさがりだからしかたない、これでもちゃんと動いているから大丈夫だ」
マイケルは娘の顔を見て心配させまいと少し強気の口調で言ったが、娘はミルクの入ったマグカップに視線をそらし、はぁ、と小さなため息をつき「頼りにならない、おじいちゃんなら直せたのに」と言い食堂を出て行った。一人取り残されたマイケルは右手でこめかみをぽりぽりと掻き、娘の接し方の難しさに悩んだ。
マイケルが娘のことで悩んでいる時にも、宇宙船ホワイトアロー号は不整脈を打ち、その振動が年老いた宇宙船の骨格に振動として伝わり、ギシギシと異音を立てながら体に伝わってくる。
マイケルはどうか止まらないで、と願った。
ジェニファーが残した食事を片付けようと立ち上がると。後ろから自動扉が開く音が聞こえた。振り返るとお手伝いロボットのコロが食堂に入ってきた。ロボットにコロという可笑しな名前がついているが、これは5年前に亡くなった愛犬の名前譲り受けたものだ。死んだ愛犬と入れ替わるように、お手伝いロボットT100がやってきた。T100という型式で呼ぶのは嫌だと、娘のジェニファーが言ったので、死んだ愛犬から名前を譲り受けたのである。