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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第二章

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謎の巨人

 噴火口、と言ったが、実際には噴火口じゃないの。


「やっぱり、クレーターだね」


 噴火口、じゃないクレーターの縁に立ち、下を見下ろしながら御厨教授は呟いた。その後ろでは、榎田さんと海自の人たちが、観測機器や録音/録画機器を設置している。


「えぇ、中心にあるはずです」

 五十メートル程先に、私たちの目指すものがあるはず。今は、ゴロゴロところがっている岩に邪魔されて見えない。

「地磁気の乱れが観測できたけど、火山活動の兆候はみえないよ……お、ヴァレちゃん、おつかれ」

「教授、変な名前で呼ばないでくれといっただろう」


 ヴァレリーズさんが私の横に立って、クレーターの中を覗き込んだ。


魔素(マナ)の流れもおかしい。魔法もうまく使えない」

「やっぱり……」

 とにかく、中心部にいって確認しなければならない。そして、なんとしてでも()()()


□□□


 <ハーキュリーズ>が先頭に立ち、海自隊員、私たち非戦闘員が続く。といっても、戦力は<ハーキュリーズ>だけだ。海自隊員の持っている武器は非殺傷武器だし、ヴァレリーズさんの魔法も今は心許ない。あとは、上空のクレイ君とサリフ皇帝か……頼りになるのだろうか?


『サリフだ。眼下に動く者はないぞ』


 私の心の声が聞こえたのだろうか? 無線から皇帝の声が聞こえた。ちょっと罪悪感。


「それじゃぁ、行きましょうか」


 ゆっくりと、クレーターの中心部に向かって歩いて行く。一塊ではなく、互いにある程度距離を取る。

 周囲はゴツゴツとした岩だらけで、植物はまったく生えていない。昔、観光で行った那須の殺生石が思い出される。あれは、有毒ガスが原因と言われていたっけ。ここでは今のところ、有毒ガスは検知されていないけど。そういえば、殺生石は九尾の狐――妖狐、玉藻の伝説があったなぁ。これから向かう先に、出てくるのが妖怪とかじゃありませんように。


 そう、私たちは、私たちが目指しているクレーターの中心に何があるのか、何も分かっていない。聞いているのは、そこにあるものが卵から生まれ出ようとする命を邪魔しているのだということだけだ。夢の中で私にそれを伝えた存在、“命を紡ぐ者”と名乗った彼女? は、私がそこにいけば解決すると言った。信じたい。


『<ハーキュリーズ>、散開(ブレイク)


 マイクさんの指示で、四体の<ハーキュリーズ>がクレーターの中心を囲むように移動した。目的地、クレーターの中心は目の前だ。しかし、そこには何の変哲もない岩の塊があるだけ……ちょっと待って。今、動かなかった?


「全員その場で止まって! 御厨教授、何か出た?」

「あぁ。何かわからないが、電磁波の変動が……「おいっ!」」

「あれは、なんだっ?!」


 御厨教授の言葉を遮るように叫んだ海自隊員は、私たちの目の前にある岩を指さしていた。 何の変哲もない岩に見えたそれは、地震が起きている訳でもないのに、動いていた。崩れ落ちていく岩もあれば、立ち上がっていく岩も。あぁ、何かが()()()()()()いく。


 それは、巨人だった。身長は三メートル以上あるだろう。二本の腕と二本の脚。頭部と思わしき場所には、目のように見えるガラスがひとつ嵌め込まれている。所々煤けたように黒くなっている灰色のボディは、最初は岩のように見えたが、良く見ると金属製の光沢を放っている。関節と思われる部分には隙間があり、内部の物体を覗かせている。そして、胸の中央には見慣れぬマークが赤い色で描かれていた。明らかに人工物だ。


「ロ、ロボット……?!」

 誰かの呟きが聞こえる。

「みんな、動かないで!」

 相手が何者か分からない。こちらから下手に手出しすべきではない。そう判断して、全員に待機を命じた。はずだった。


『マイク!』


 日野二尉の叫びが無線から流れるのと、視界の端から黒い影が飛び出したのはほぼ同時だった。あれは、マイクさんの<ハーキュリーズ>だ。メタリックなボディを煌めかせ、謎の巨人に向かって突っ込んでいった。その手には、スタンバトン。<ハーキュリーズ>用に出力を上げたものだ。マイクさんは、巨人の前で大きくジャンプ、バトンを振り下ろした。


 ガキキィィンッ!


 金属同士がぶつかる、硬質な音がクレーター内に響いた。


『マイク! 止めてくださいっ!』


 無線で日野二尉が叫んでいる。私はどうすればいいの?


「ヴァレリーズさん! マイクさんを止められますか?」

「やってみよう――大地吹き渡る風よ、我が願いに応え暴風となりて彼の者を引き戻せ! 風の鎖(ウィンドチェイン)!」


 ヴァレリーズさんの詠唱によって、生まれた風の渦が、巨人に相対する<ハーキュリーズ>を覆った。風の勢いに押され、<ハーキュリーズ>は数メートル押し戻される。そのまま、巨人から引き離すことができる、と思ったら。


「クッ、魔法が安定しないっ!」


ヴァレリーズさんの叫びを聞くまでもなく、渦の勢いが弱まった。それをマイクさんは見逃さなかった。左腕を突き出すと、ワイヤーを発射。ワイヤーは巨人の右肩、関節部分に食い込んだ。マイクさんの<ハーキュリーズ>は、引きずられるように渦を飛び出した。そして、その勢いのまま、巨人へと跳ぶ。左腕には内蔵されている剣が飛び出している。


「!」


 巨人の首を狙ったマイクさんの剣は、しかし、巨人には届かなかった。マイクさんは、空中で巨人に捕まえられてしまった。


『マイク! 離れてっ!』


 マイクさんは、巨人の手から逃れようと必死に抵抗したが、握りしめられた巨人の手は微動だにしなかった。


「見ろっ! ロボットの胸がっ!」


 巨人の胸が、観音開きのようにゆっくりと開いていく。見たこともない形の機械と、まるで筋肉のように動いているワイヤー類が見えた。その機械の中から、鉤爪のようなものが六本、飛び出してきた。あれは、まるで……まるでマイクさんを取り込もうとしているみたいじゃないっ!


誤字のご指摘ありがとうございます。

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