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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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そして、帰る

 ティールが私たちの元に戻った、その次の日。


 私は朝早くから、異界局に呼び出されていた。文部科学省から呼び出される、あるいは電話で通知されるのかと思っていたので、少し意外だ。そういえば、文科省から異界局への出向扱いだったっけ?


 異界局は、わざわざ迎えの車を宿泊しているホテルに寄越した。<パム>もついて来ようとしたけれど、そうするとルシアもティールも一緒にくることになるのでホテルに残ってもらった。まだ本調子じゃなさそうな、ヴァレリーズさんの面倒も見て欲しかったし。


 異界局に向かう車の中で、私はこれからのことを考える。


 そもそも。私が文部科学省に入ろうと思ったのは、日本の教育――特に小学校・中学校の教育を改善したいと思ったからだ。実を言えば蓬莱村に行ってからも、少しずつ教育改革に関する提言もしてきたし、異界(あちら)では私の領地に住む子供たちへの教育に関して、かなりワガママを通させてもらったりもしている。結果が分かるのは数年後だと思うけど、無駄な努力だとは思っていない。


 なんとか文部科学省に残ることができたら、再び教育改革に取り組んでいけたらいいな。もし、退職することになったら……教員免許はあるから、故郷の教師になろうかな。


「あれ?」


 知らないうちに、涙が流れていた。

 あぁ、私は。こんなにも蓬莱村に、異界(あの世界)に引かれているのか。あそこから引き離されることが、こんなに悲しいなんて。あの世界が、あそこに住まう人々が恋しい。まだ、異界(あちら)でやることが、私にはある。何の力もない私だけれど、異界(あそこ)にいることは、きっと意味があることなのだと、なぜか確信できる。


 ……決めた。


 もしも調整官を辞めさせられることになっても、全力を持って抗おう。異界(あちら)に戻るためなら、辺境伯(マーグレイヴ)としての立場だって利用する。


 心の中で決意を固めた頃、車は霞ヶ関の外務省に到着した。


□□□


 テーブルを挟んで、私の前に江田局長が座っている。私が部屋に入ってから、妙な緊張感が漂っている……と感じるのは私だけ? あぁっ、もう、こんなの耐えられない。


「あの……」

異界局(ここ)も手狭になってきてねぇ」


 思い切って口を開いたのに、制されてしまった。私は「はぁ」と間抜けな返事をしてしまう。


「場所を移転するんですよ」

「そう……ですか……」

「ま、半年後の予定だけど。ついでに局から庁へ――異界庁になる予定だよ」

「それは、おめでとうございます」


 異界庁か。蓬莱村も大きくなっているし、エデンもできた。異界(あちら)の国々との交流機会も増えているので、異界局の業務も増えているのだろう。庁に昇格すれば、扱える予算の金額もアップするはずだし、良いことなのだろう――けど、私にはあまり関係ないような?

 局長は、話を続けている。


「それでね、五年後を目処に“省”への格上げも内定しているんだ。あ、これは秘密ね」

「結構、急なお話ですね」

「そうでしょう? 人手不足が絶対に起きるよね。そこで人員の強化も行うことにしたんだよ」

「はぁ」


 蓬莱村から優秀な人材を出せ、ということかな? それとも異界人を正式に採用するとか? それはそれでインパクトある話ではあるけれど。


「で、だ。阿佐見君にはね、今まで文科省からの出向って形にしていたけれど、これを機に正式な異界庁職員になってもらおうと思ってます。もちろん、君の働きに見合ったポジションは用意するよ」

「え? それって」

「省になるまでは、調整官を続けてもらうよ。優秀な後任が見つかれば別だけど……って、これからは後進を育てるのも、君の仕事だからね。がんばってくれよ」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 混乱する! 私は調整官を続けられるの? 蓬莱村に異界(あちら)にいていいの?


「わ、私に対する処罰はないのですか?」

「え? 処罰って何? 何かしでかした?」

「だって、ティールの誘拐をSNS使って公開しちゃいましたけど……」

「あぁ、あれ」


 江田局長は、椅子の背もたれに上半身を預けると、にやりと笑った。


「SNS使った広報なって、どこだってやっているじゃないか。防衛省だって、農水だって」

「いやでも、誘拐されたことは極秘だって……」

「それを言っていたのはDIMOだよ。日本政府(うち)じゃぁない。まぁ、偽IDでまんまと通過されちゃったということは失点だけどね、こっちはDIMOのサーバーにも紹介掛けて確認していたんだ、落ち度としては、ま、ほんのちょっぴりだ」


 そういいながら、右手の親指と人差し指で作った小さな隙間から、局長は私の方を覗いた。目が笑っている。


「そんな訳で、君にも君たちと行動を共にしていた人たちも、おとがめ無しだ。一応、アテンドしていた宮崎君にもペナルティはないよ」

「そう……ですか。それは安心しました。私は、蓬莱村に戻っていいんですね?」

「もちろんだよ。あとで事情聴取する必要もあるだろうけれど、まずは妖精たちを一刻も早く村に戻してあげて」

「はい!」


 あの覚悟は、何だったんだ。でも、戻れるんだから、結果オーライ。少し落ち込んでいた行きとは違い、晴れやかな気分でホテルに戻り、皆に帰還を告げた。


「えぇ~ルシア、もう少し日本(こっち)で遊んでいたいぃ~」

「ボクも、お寿司っていうの、食べてみたいなぁ~」


 前から思っていたけれど、妖精は少し我が儘なところがある。

結局、「魔素(マナ)の薄いここに長時間いると、どのような影響が出るかわかりませんよ?」というヴァレリーズさんの言葉で、妖精たちも渋々帰還に同意した。


「さ、帰りましょ。うちに着くまでが遠足ですよ」


□□□


「それにしても、あの時の魔法すごかったですね」


 福島ピットで通過審査を待っている時、私はヴァレリーズさんに船を持ち上げた魔法について尋ねた。


「私もいろいろと、新しい魔法を生み出そうと研究しているんだよ。あれは、別の事をしようとして編み出した魔法なんだよ」

「へぇ、元々は何をしようとしていたんですか? おっきなモニュメントを作るとか?」

「いや……空を飛ぼうと思っていてね」


 え? あの水の柱と空を飛ぶ姿が一致しなくて、思わず「どうやったらあの魔法で空を飛ぼうと考えたんですか?」と聞いてしまった。


「最初は翼を魔法で作ってみたり、強い風を起こしてみたりしたのだが、中々上手く行かなくてね。蓬莱村で見たグライダーという乗り物をヒントに、高い場所から滑空するのはどうかと思ったんだよ。まぁ、身体を持ち上げることは出来たのだが、制御(コントロール)が上手く行かなくて、そのままになっていたんだ」

「そうなんですか。あ、そうだ。飛ぶことなら蓬莱村にいるJAXAの人に聞いてみるのはどうです? 何かヒントが掴めるかも」

「そうだね。帰ったら、そうしてみよう。助言感謝する」


 いえいえ、と笑いながら、ふと、疑問が湧いた。


「でも、そもそもなんで空を飛びたいと思ったんですか? 確かに魔法で空を飛べたら素晴らしいことですけど」

「……」

「?」

「だって、くやしいじゃないか。サコタが空を飛べるのに、私が飛べないなんて」


 そこかぁ~いっ!



これでこの章は終わりです。

幕間話をふたつくらい挟んで次の章を始めたいと思っていますが、書きためた分を出し切ってしまったので、少し時間が空くかも知れません。

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