美を愛でつつ、これからのことを考える
周囲がドタバタとざわついている中、私は建屋の中にいた。国土交通省の事務所らしい。事務机とパソコン、電話、給湯設備だけの殺風景な場所の一角が畳敷きになっている。私は畳の上に敷いた座布団の上に座り、私の膝の上にはヴァレリーズさんの頭が乗っかっている――つまり、魔法の使いすぎで倒れたヴァレリーズさんを、私が膝枕しているという状況だ。部屋の隅では、アンナさんがルシアとティールを相手にしてくれている。なので、私はギリシャ彫刻のような顔を、ゆっくりと観察することができる。ふむふむ、この方向から見るヴァレリーズさんというのも、なかなか貴重なモノかも知れない。綺麗な人は、どの角度から見ても綺麗というね、神様のイジワル。
そっと髪に触れてみる。普段ならこんなことしないけど。なんとなく、なんだろ、自分でもよく分からないけれど、よしよしってして挙げたくなったの。今回の騒動で、ヴァレリーズさんが一番の功労者だものね。労らないと。
それに、もしかしたら……おそらく十中八九、私は異界には戻れないと思う。良くて文科省の閑職に追いやられるか、最悪退職しなければならないかも。社会人たる者、ホウ・レン・ソウの大切さは十二分に認識しているけれど、今回、独断専行が過ぎたと自分でも思う。せめて異界局の宮崎さんとは相談するべきだった。
ま、終わったことを悔やんでも仕方ない。今は、このまったりとした時間の中にいたい。
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「ん……んんっ……」
いいかげん、膝枕が辛くなってきた頃、ヴァレリーズさんが意識を取り戻した。
「こ、ここは……?」
「ヴァレリーズさん、大丈夫ですか? あ、無理しちゃだめですよ」
「ん……おぉ、サクラか……これは夢か?」
「んもう、しっかりしてくださいよ。」
ヴァレリーズさんは、私の膝の上から私を見上げて微笑んでいる。睫毛長いなぁ、うやらましい。
「ヴァレリーズ、起きたー?」
ルシアとティールが、私たちのところに飛んできた。ヴァレリーズさんが、身体を起こして「大丈夫?」と聞くルシアに、「大丈夫です」と微笑みを返した。
「ティールさんも、ご無事なようでなによりです」
「うん、へいきー」
ちなみに、ティールは解放された直後、「ごはんまだ?」と言ってみんなを呆れさせた。村に帰ったらダイエット地獄が待っているだろう。
ヴァレリーズさんの体力を少しでも回復させるために、ゼリー飲料を無理矢理飲ませているところに、アンナさんが呼んでくれたお医者さんが来た。防衛省の女医さんで、犯人の状態を確認するために、近くにいた護衛艦からヘリで飛んできたそうだ。犯人の様子に透いては、秘匿義務があるので話せないが、アンナさんやヴァレリーズさんが責任を取らされるようなことはないだろうと言ってくれた。そして、ヴァレリーズさんの同行反応や脈を測った後、「問題なさそうですね」と言ってくれた。ただし、水分補給と念のための精密検査をするように指示された。ヴァレリーズさんの精密検査は、蓬莱村に帰ってからの方がいいわね。
「ども、ありがと」
ルシアがお医者さんにペコリと頭を下げると、女医さんは「どういたしまして」とにっこり笑った。いつのまにか、ルシアが社交性を会得しつつある。
ヴァレリーズさんが回復したので、私たちも戻ることにした。帰りは海上保安庁の巡視艇に便乗させてもらった。
「おかえりっす」
横浜の海堡基地では、セナさんと<パム>が出迎えてくれた。
「さすが、先輩っす」
「私は何もしていないわよ」
「いやいやいやいや」
そんな会話をしながら、私たちは都内のホテルへと戻った。ホテルのエントランスでは、宮崎さんが出迎えてくれた。「詳しく経緯を教えてください」ですって。
「自分たちは、ここでお別れっす」
「えっ!?」
「当初の目的は果たせましたしこれからは護衛もつくっすから、自分たちは用済みっすよ」
そんな言い方しないで欲しい。
「セナさん、アンナさん。お二人には助けられた、いえ、あなたたちがいなかったら、ティールは戻らなかった。本当にありがとう」
「照れるっす」
「どういたしまして」
私たちは、それぞれに感謝の念を伝えた。ひと目があるので、ルシアとティールは<パム>の胸の隙間から手を振っている。ルシアはアンナさんに懐いていたから、名残惜しいだろうな。
「いつか、蓬莱村にも来て。歓迎するわ」
「いつか必ず。楽しみにしてるっす」
そうして、セナさんとアンナさんは去って行った。きっとまた元の任務に戻るのだろう。カイン王子の護衛、だったっけ。がんばって欲しい。
ヴァ「膝枕……あれはいいものだな」
サコ「なにっ!」
ヴァ「不可抗力だ、許せ」
サコ「ぐぬぬ」




