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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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決着の第二海堡

 近くのおまわりさんに声を掛けて、現場の責任者である神奈川県警の橋田警部補と話すことができた。


「許可できません」


 にべもない。


「こう言っては何ですが、阿佐見さん、あなた方は妖精の対処に困った時のために、オブザーバーとして来ていただいたのです。被疑者の前に出すなんて、危険な真似をさせるわけには行きません」


 現場の判断としては、間違っていないと思う。多分、同じ立場なら私でもそうする。でも。


「では、相手の要求をのむのですか?」

「それは……今、交渉人(ネゴシエーター)を呼んでいるところです」

「どのような交渉を?」

「それは判りません」

「時間はどのくらいかかりますか? いえ、事件が解決するまでの時間です」

「それは、なんとも。被疑者が疲労を見せれば……」

「捕らわれている妖精の体調が心配です。こちらの世界は、異界(あちら)より魔素(マナ)が薄いんです。何か影響があるかもしれません」


 ルシアがピンピンしているので、これはブラフだけど、万が一ってこともあるしね。


 ですが、といいかけた橋田さんの携帯に、電話が掛かってきた。「失礼」と私に理を入れて電話に出た橋田さんは、「えぇ」とか「しかし」とか「そんな」とか、携帯電話に向かって押し問答を繰り返し、しばらく沈黙したあとに大きなため息をついて電話を切った。


 私を振り返った彼の顔は、まるで渋柿を丸呑みしたかのような顔だった。そして、諦めたような声で言った。


「……許可します」

「はい?」

「あなたが被疑者と交渉することを、許可すると言ったんです」


 いや、それはありがたいけど、どういうこと?


「私にも判りませんよ。上からの指示です。あなたの指示に従うようにと」

「よくわかりませんが、ありがとうございます」


 まぁいいわ。ヴァレリーズさんに頼まれたこともあるし、自分でもガツンと言ってやりたいと思っていたから。


「交渉は許可しますが、くれぐれも相手を刺激しないようにしてください。それから、相手の要求を拒否せずに、しかし安易な約束はしないでください」

「(なんですか、それ)……できるだけ、そうします」


そして、私は誘拐犯と対決した。


□□□


「Do you remember(覚えてる?) me?」


 (犯人)が陣取っている高台に続く階段を途中まで昇った私は、とりあえず英語で話しかけた。階段は、一人分の幅しかないので少し怖い。


Why(なんで) are you(テメェが) here.(ここに?)Get away!(消えろ!)


 よかった、英語は通じるみたい。それにしても蓬莱村で会ったときには、それなりに紳士的だったのに。まぁいいわ。相手の気をそらすことが目的だから。


「彼を連れ戻しに来たに決まっているでしょ」

「はっ! ()だと? ()()のことか? あぁん?」


 左手で、小脇に抱えていた筒を掲げる誘拐犯。やっぱり、あの中にティールがいるのね。早く助けないと。


「彼は無事なの?」

「生きてるよ、依頼者(クライアント)の要望だからな」

「会わせて」

「ここから脱出したら、動画送ってやるよ! ほら、さっさと用意しろよ、でないと、まとめてボカンだぞ」


 だんだんと、自分で自分がイライラしてきたのが判った。橋田警部補からは『被疑者を刺激しないように』と言われているけれど。


「ふっっざけんじゃないわよ」

「!」

「わたしはね、ティールを返せって、言っているの。あんたを逃がすわけないじゃない。そもそも、そこで手榴弾爆発させたからって、あんたも一緒に死ぬことになるのよ? たかだか運び屋風情に、そこまでの度胸ある? あるなら、やってみなさいよ、ホラ! 今すぐ!」


 背後で、何人かがざわめいているのが判る。英語が分からなくても、雰囲気で私が煽っているの、判るもんね。でも、もう止まらない。


「ぐっ、くそっ、やるぞ、いいんだな!」

「やればいいでしょ! やんなさいよっ!」

「う、うぉーーっ!」


 誘拐犯が、手榴弾を握った手を高々と空に突き上げた瞬間。


「凍れ!」


 ヴァレリーズさんの声が響き、誘拐犯の腕がまるごと氷に包まれた!


「ぎやぁぁぁっ!」


 聞いたこともないような悲鳴をあげる誘拐犯、その背後に飛び出したのはアンナさんだ。飛び出した勢いのまま、彼女のしなやかな脚が弧を描き、誘拐犯の頸部にヒットした。

 彼は、口と目を大きく開けたまま、その場に頭から倒れた。


「確保っ!」


 橋田警部補の叫びで、何人ものおまわりさんが犯人に飛びついた。


「ティールはっ!」


 おまわりさんのひとりが、ティールが捕らわれている筒を誘拐犯から奪取してくれていた。ほっとして、感謝しようとヴァレリーズさんを捜したら。


「ヴァレリーズさん!」


 ヴァレリーズさんが、地面の上に倒れ込んでいた。



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