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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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No-way-out

 南本牧を出発してしばらくの後、私たちは横浜市内のとあるビル、その屋上ヘリポートに来ていた。既に夜は明け、周りは明るくなっている。

朝方のキンと澄んだ空気の中、パラパラと音が近付いてくる。青空の中で豆粒くらいだった影が、すぐに大きな乗り物になって目の前に現れた。ヘリコプターだ。白地に青いラインの入ったヘリコプターは、屋上で待つ私たちの目の前に降りてきた。機体横のドアがスライドして、中にいた男の人が手招きをする。

 私たち――私とルシア、ヴァレリーズさん、それにアンナさんは、ヘリコプターが巻き起こす風に逆らいながら、早足で駆け込んだ。セナさんと<パム>は、お留守番だ。<パム>は自力での移動が困難なため、セナさんは本人曰く「自分が行っても役に立たないっす」ということらしい。無理強いする理由もないので、今回は受け容れることにした。そもそも、なぜ私たちがヘリコプターに乗り込んでいるのかといえば、ティールを誘拐した犯人の逃亡先に行くためなの。


 ヘリに乗った私たちに、ヘッドセットが手渡された。ヴァレリーズさんの分は、私が装着してあげた。まだ少し辛そうだけれど、顔色はいい。まだ乗り物酔いの薬は効いているわよね?

 あ、ルシア用のヘッドセットはないから、少しうるさいけど我慢してね。


『第三管区海上保安本部の瀬谷です。ご足労いただきありがとうございます』


 ヘッドセットから、私の前に座った男性の声が流れてきた。


『第二海堡には、数分で到着します。到着までの間に概要を説明させていただきます』


 第二海堡は、東京湾の真ん中に浮かぶ人工の島だ。真上から見ると“く”の字形をしている。元々は、明治時代に作られた要塞で、同時期に第一海堡、第三海堡も作られたが、第一海堡は完全に崩壊、第三海堡も半壊状態で岩礁化していたものを数年前に浚渫して、完全に撤去されている。唯一現存しているのが、第二海堡。今では、観光ツアーがあったりミュージシャンのライブが開催されたりしているらしい。


『誘拐犯は、東京湾を千葉方面へ逃走していましたが、途中で逃走を断念して第二海堡に上陸しました』

『自分から、逃げ場のない第二海堡に上陸したんですか』

『そのようです。私たち海上保安庁だけじゃなく、民間船も追跡に協力してくれましたからね、諦めたんじゃないかと』


 東京湾って、すっごく広いイメージがあったけれど、船の往来は結構激しいそうだ。潜水できなくなった潜水艇――もはや小舟――では、外洋にでることも難しかったのだろう。


『ただ、やっかいなことに妖精さんを人質――妖精質かな? にして、犯人に近寄れない状態なんです。本来であれば、あなた方を危険性のある場所にお連れすることは避けたかったのですが、我々では妖精さんに関する知識もなく』


 それで、私たちも現場に呼ばれたということか。私たちも妖精の専門家というわけではないけれど、現場に立ち会えることはありがたい。


『第二海堡が見えて来ました』


 パイロットシート越しに前方を見ると、青い海の中に浮かぶ白い小島が見えて来た。島、と聞いていたからなのか、上空から見たら意外と小さい。人工の島だけあって植物はほとんどなく、鉄塔やソーラーパネルが見えた。こんなところに逃げ込んでも、どうしようもないだろうに、


□□□


 第二海堡に到着すると、すぐにおまわりさんたちの案内で島の中央部へと向かった。やや上り坂になっている舗装されていない道を登っていくと、すぐに島の中央にある一段高くなっている場所の前についた。昔の灯台跡、というかその土台部分だそう。

 ちょうど見張り台のように高くなっている部分に、その男はいた。運び屋、ジーン・ヨーク。蓬莱村で(いけしゃぁしゃぁと)挨拶した時には、澄ました顔をしていたけれど、今はとても切羽詰まった顔をしている。そりゃそうだ。これだけの警官に囲まれ、逃げ場がないんだもの。

 彼は、左腕に金属の筒をかかえながら、右手を高く上げていた。何かを握っている?


「ルシア、感じる?」

「うん、あの銀色の筒の中に、ティールがいるよ」

「無事なの?」

「そこまでは判らないけれど、落ち着いているみたい」


 そっか、それならひと安心。


「今、どういう状況なんですか?」

「奴はティール君を人質にして、逃走用のヘリを要求しています」


 私たちの近くにいたおまわりさんが、教えてくれた。


「逮捕、できないんですか?」

「右手に、ピンを外した手榴弾を持っているので、うかつに近づけんのです」


 あれは手榴弾なのか。そんなものまで持っているなんて。


「サクラ、“手榴弾”とは何だ?」


 あぁ、異界(あちら)には爆薬がない――そもそも爆発が起きないから、手榴弾なんて知らないわよね。私は、ヴァレリーズさんに手榴弾が危険なことを説明した。


「つまり、あいつが右手を離すと、火属性魔法が直撃するような被害が起きるのだな?」

「まぁ、だいたい合っています」


 ヴァレリーズさんは、ふむ、と小さく呟くと、隣にいたアンナさんと小声でひそひそと話し始めた。声のボリュームに合わせて、通訳した音声も小さくなるなんて、御厨教授の作るモノは、無駄に高性能だわ。何を話しているのか判らなくて、少しイラッとした。いけない、いけない。


「サクラ、少しいいか?」


 アンナさんとのコソコソ話を終えたヴァレリーズが、話しかけて来た。はいはい、いいですよ、聞きますよ。


「少しの間……そうだな、2、3分でいい。あいつの注意を引いてくれるか?」

「いいですけど、何するんですか?」

「ふふっ……“こっそりやって驚かせた方がおもしろい”、とサコタが言っていたのでね。私も倣おうと思う」


 なんですか、それ!


 さっきのコソコソした態度と言い、なんだか少しムカムカするんですけど。


「いいですよ、あいつの気を引けばいいんですね」

「あぁ、頼む……そんなに不機嫌にならないでくれ。上手く行くから」


 不機嫌になんかなってませんよーだ。



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