魔法は創意工夫ね
アンナさんが倒した殺し屋“ハンマー”は、お巡りさんたちによって拘束され、警察署へ連行されていった。最初は、気絶しているから病院に、という話だったけれど「そいつは何人も素手で人を殺している奴ですよ。救急車の中で意識が戻ったら、救急退院殺して逃亡しますよ」というセナさんの忠告を聞いて、警察署へ直行することになったのだ。
「病院へ搬送する途中で脱走するなんて、海外ドラマではお約束っすよ」
「いや、知らないけど」
それはそれとして、意識が戻り次第、厳しい取り調べが行われる予定だって。
「ここで尋問すれば、すぐにでもティールの居所、聞けたんじゃない?」
「意識を戻すの面倒ですし、どうせあいつは運び屋がどこに行ったかなんて聞かされていないっすよ。少なくとも、自分ならそうするっす」
なるほど……だとすれば、ここを人海戦術で調べていくしかないのか。
「どうっすかねぇ、いつ運ばれるかも分からないコンテナの中に隠れるより、出航が決まっている船の中――コンテナの中か、船員に紛れ込んでいるか、ってとこじゃないっすか? ってことで、警察には動いてもらってます。あと、国交省と外務省、それから海上保安庁にも連絡しておくっす」
「セナさん、手際良すぎない?」
私より、ずっと仕事できる。でも、セナさんは少し寂しげな表情を浮かべて。
「そんなことないっすよ。自分、調整役ばっかりやってきたんで、ちょっとだけ手際が良くなっただけっす」
本当は、別の事がやりたかった? って、突っ込んで聞けるような雰囲気じゃないよね。
「とにかく、その船に行ってみましょう」
南本牧コンテナターミナルは、日本でもっとも水深が深いらしい。そのせいか、接舷しているタンカーも大きい。近くで見ると、本当に見上げるようだ。この中を探すのかと思うと、少し引いてしまう。そんなことは言ってられないのだけれど。
「ルシア、ここからティールの居場所、分からない?」
<パム>の鎖骨? あたりから顔を出しているルシアに聞いてみた。
「う~ん、近くにいるような気はするの。でも、なんだかボワ~ンってしてるの」
「そっか……」
やはり、私たちが乗り込んで捜すしかないかな?
「え? どういうことっすか? えぇ、えぇ……だから、そんなことは知っているっす。それでも頼んでいるんじゃないですか……わかったっす、もういいっすよ」
「セナさん、どうしたの? 何かあった?」
「あのタンカー、乗船を拒否してきたっす」
セナさんによると、外国籍のタンカーなので乗り込んで調べるにもいろいろと手続きが必要なのだとか。外務省の宮崎さんも動いてくれているみたいだけど、どうしても時間がかかる。タンカーの出航に間に合うかどうか、というところらしい。
「まぁ、出航しても日本の領海内で臨検って手段もあるっすけど……」
「船に乗らなければいいのだな? 私に少し任せてもらえないだろうか?」
ヴァレリーズさんが、何かアイディアを持っているらしい。
「以前、“ソナー”というものを見せてくれただろう? あれで新しい魔法を思いついたのでね、少し鍛錬してきたんだ」
ヴァレリーズさんは、ヴェルセン王国の中でも権力の中枢に近い場所にいるはずなのに、こうして魔法の研鑽を続けている。その姿勢はすばらしいことで、私も見習わなければいけないと思っている。でも、ソナーの魔法って?
「魔素が、足りないな。<パム>君、頼めるかな?」
『目的に適う行為と判断します。魔素の放出を開始します』
そういうと、<パム>のお腹の一部がパカッと開き、そこからヴァレリーズさんに向かって、なんだかキラキラとしたものが流れ出した。
「……□□+*_&%、風の精霊よ、響け、響かせ、我が前に明らかに。魔素共鳴」
一瞬、船全体がピカッと光ったような気がした。それ以外は、なんの変化もない。
「船の上部後方、艦橋だろうか? ……に五人、船の中に八人……ん? これは?!」
「ヴァレリーズさん、見つけたんですかっ!」
「おそらく。一際大きな反応は、妖精ティールに違いない。だが……」
「どうかしたんですか?」
「うむ。妖精ティールと人間が一人。だが、船の下小さな部屋にいるのだ。日本の船は、こんな奇妙な形をしているのかい?」




