アンナさんの実力
人でできた囲いの中から一歩前にでたアンナさんの姿を見て、最初はちょっと戸惑った表情を浮かべた大男は、すぐ顔に嘲笑を貼り付けた。嫌らしい笑い方だ。
「Get out, little Girl, Huum?」
嫌らしい笑いを顔に貼り付けたまま、男はシッシッと犬を追いやるように手を振った。それに対し、アンナさんは一言。
「私、あなた、嫌い」
「Want to die?」
アンナさんの素直な感想は、男の気に障ったらしい。少しいらだったような見せると、いきなりアンナさんに向かって踏み出した。大きな身体からは想像も付かないくらい、速い。男は踏み出した勢いのまま、アンナさん目がけて腕を振り下ろす。頭を狙った、躊躇いのない拳。思わず悲鳴をあげそうになる。だけど、その一撃は、彼女に当たることはなかった。
「Damn it!」
自分の拳がアンナさんを捉えられなかったと判るや、男はすばやい動きで腕や脚を振り回す。風切り音だけじゃなく、風圧さえも感じるかのような猛攻。だけど、アンナさんにはかすりもしない。いや、当たっちゃう、と思うようなギリギリのタイミングで避けているので、かすったりしているんじゃないかと、見ているハラハラしてしまう。
しばらくして、ハンマーの攻撃が止んだ。少し息が上がっているようにも見える。超然と立っているアンナさんとは対照的だ。
「終わった?」
これまで私たちの前では、あまり表情を変えなかったアンナさんが、さっきのお返しと秤に微笑みを浮かべながら大男を煽った。男は無言で返す。さっきまでとは雰囲気が変わった。表情から笑いが消えている。そして、無言のままアンナさんに向かって、ボクシングのような構えを取ると、軽やかなステップを踏みながらすばやくパンチを繰り出していく。それをアンナさんが、華麗に避ける。
ハンマーが、ひときわ大きいモーションで左のフックをアンナさんの顔目がけて撃つ。避けるアンナさん。でも、その眼前に男の右ストレートが迫る。
バシッ!
アンナさんっ! アンナさんに男の拳が当たったと思った瞬間、アンナさんは男の腕を抱えるようにすばやく身体を捻り、するりと男の背後に立った。なんて身軽なんだろう!
男は、振り向きざまにアンナさんを殴ろうとしたけど、アンナさんはすでに離れた場所にいる。男が再びアンナさんと向き合う。その左腕は、なぜかだらんと垂れ下がっている。まるで脱臼したみたいだ。
「Fxxxxxxk you!」
汚い言葉を吐き出しながら、男がアンナさんを睨みつける。アンナさんは、それをニッコリ笑って受け流した。
「アンナ~とっとと終わらせるっす」
「了解」
そう言うと、アンナさんは男に向かって右手を突き出し、クイクイッと手招きした。あ、映画とかで見る奴だ。
「カモン、うすのろ野郎」
日本語が分からなくても、馬鹿にされたことは判ったのだろう。雄叫びをあげながら、右腕を広げてアンナさんに向かって突進した。それを迎え撃とうと、アンナさんが構えたとき、男はいきなり方向を変えて、私たちに向かって飛びかかって来た!
すかさず私を庇うようにヴァレリーズさんが、されにその前に《パム》が割り込む。アンナさんも、男を追おうと身を翻す。その瞬間、男はさらに方向を変えてアンナさんにタックルしていった!
「!」
アンナさんが捕まった! でも、それは幻視だった。アンナさんが男の目の前から消えたと思ったら、股の間をくぐり抜けて男の背後に現れた。一瞬だった。
「Greaguaaa!」
まるで魔物のような雄叫びをあげて、大男は男はがっくりと右膝から崩れ落ちた。地面に倒れた男は、なおも顔を巡らせ見つけたアンナさんを睨み付けた。
「Gat「もうお終い」」
アンナさんがハンマーの太い頸を軽く叩くと、彼は白目を剥いて気絶した。
「アンナさん……何したの? 殺してない……よね?」
「さすがにこれだけの警官がいる前で殺したりしないっすよ。気絶させただけっす。あ、アンナは銃よりも暗器の方が得意で。今日は、針っすかね」
どうやら、針を使って大男を行動不能にしたらしい。アンナ、恐ろしい娘!
「終わった」
「グッジョブっす。でも、女の子が汚い言葉使っちゃダメっすよ」
「あぅ」




