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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第一章

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王からの依頼(1)

前半、異世界の衛生というか、シモの話なので、苦手な人は読み飛ばしてください。

 翌朝、疲れ切っているはずなのに、日の出と共に目が覚めてしまった。王都で朝を告げる鐘もまだ鳴っていない。習慣とは恐ろしい。


 部屋に備え付けのベルを鳴らすと、二人のメイドさんが木製の桶とタオル、水の入った瓶をそれぞれ持って部屋に入ってきた。一体、どこで聞いていたんだろう? 彼女たちは、部屋の片隅にあった枠に桶を置き、瓶から水を注ぐ。

「温めますか?」

「お願いします。できれば熱めに」

 やりとりがコンビニみたいだなと思いつつ、メイドさんを見ていると、瓶を持ってきたメイドさんが桶の水に手をかざし、小さな声でなにやら呟いた。手のひらに浮かび上がった光の魔方陣が水に吸い込まれると、桶の中から湯気があがった。

 そのお湯で顔を洗い、差し出されたタオルで水気を拭き取る。寝る前にちゃんと化粧落としているから大丈夫。

「ありがとう」

 メイドさんたちは、会釈をして出て行った。この一連の流れにもすっかり慣れた。最初は戸惑ったけれど。個人的には、こんなにしてもらうと恐縮してしまうので、顔を洗うにも村のように自分で井戸から水を汲んだ方が好ましい。


 ともかく顔を洗ってさっぱりしたので、花を摘みに行こう。いや、本当に摘むわけじゃなくて、隠語よ、隠語。


 異界(こちら)のトイレは前後が盛り上がった椅子といえばいいか、デフォルメした蟹爪、あるいはバル○ン星人の手というか。跨がって座った下に穴が空いている。女性はスカートを前後の盛り上がった部分にひっかける……基本、ノーパンなのよね。

 農村などでは、排泄物を堆肥として活用しているから、単なる穴になっていた。日本でも鎌倉時代から人糞を堆肥に使ってきたし、それは第二次世界大戦前まで続いていたのだから、異界(ここ)の文化が遅れているとは言えない。むしろ魔法がある分、すばやく乾燥させることができるので、衛生面では優れているかも知れない。彼らにそんな意識はなくてもね。

 迎賓館(ここ)では、なんと水洗が完備されている。屋上にはタンク代わりの人工池が作られていて、それを下水に利用している。なら、上水道も作ればいいのにと思ってしまうが、それは傲慢というものだ。

 流された汚水はどこへ行くかって?そのまま川に流されるらしい。これはさすがに不衛生なので、王に具申して下水処理施設の設置を訴えよう。実は、今回巳谷先生が一緒に来たのは、王都の公衆衛生を視察する目的と、日本(こちら)が提供できる衛生技術をプレゼンするためもある。そのために、内政を担う大臣にもアポイントをとってある。

 魔法はあっても公衆衛生という考え方がないのが、この世界だ。人口が少ないのも、それが要因の一つだろう。農村で排泄物を乾燥させることだって、衛生面を考えてではなく、そうすれば扱いやすいからだ。


 そもそも、魔法では病気の治療はできない。いや、感染やウィルス、ビタミンなどの栄養素といった医学系知識が増えれば、可能になるかも知れないが。医療系は、魔法にとって苦手とする分野だ。水属性あるいは火属性の魔法によって、体内の血液循環を改善したり、出血した血液を固めたりということはできるが、傷そのものを修復したり欠損した部位を元に戻したりということはできない。生理用品がご婦人方に受ける原因も、そうした点にあると、私は思っている。

 つまり、魔法も万能ではないのだ。科学技術がそうであるように。だが、それぞれは補完し合えると私は思う。魔法が苦手な分野に対し、日本(わたしたち)は知識や技術を提供できる。もちろん無償ではない。むしろ無償で提供するなどと言えば、怪しまれるだけだろうな。いろいろと、難しい。


 時間があれば、教育機関、教育システムについても提案したい。昨日、オールト邸で聞いた話では、魔法以外の教育を行う機会が少なすぎる。内政干渉と受け取られ兼ねないが、日本(われわれ)が今後異界(ここ)で目的を果たすためには、王国のレベルを上げてもらうことが必要になる。それは、ヴェルセン王国に限ったことではないが。


□□□


 農村では、朝食は農作業の後に食べる。しかし王都の生活サイクルでは、朝の七時から八時くらいに朝食を摂る。今朝のメニューは、果物、以上。朝は卵のイメージがあるが、こちらは流通の関係で朝に卵が出ることはない。魔法で卵を保存しておけば、朝に食べるという習慣もできたのだろうが、わざわざそんなことをする意味がなかったのだろう。

 その代わり、果物の種類は豊富だった。朝、陽が昇る前に王都内の果樹園で採取され運ばれてきたものを、それぞれの種類ごとにさまざまな技法を凝らしてあった。味も、酸味のあるものから少し苦みのあるものまであったが、総じて甘く美味しい。蓬莱村ではまだ余裕がなくて取りかかっていないけれど、いつか果実も作ろう。



 朝食後、いよいよ王との謁見だ。といっても非公式なものなので、案内された部屋は謁見の魔ではなく、会議などに使われる部屋だった。広さは二十畳ほど、窓は無く、魔石による照明が煌々と室内を照らしている。恐らく、盗聴とか侵入者を防ぐための結界も張られているのだろう。日本(こっち)には、魔法を感知する手段がないので、何も判らないが。


 部屋に通されて五分ほどして、私たちが入ってきた扉とは別の扉が、重々しい音を響かせながら開いた。王国の紋章が描かれた小さな旗を捧げ持った小姓が二人、先触れとして部屋に入り左右に分かれて待機した。私たちも起立して待つ。

開け放たれた入り口から、ゆっくりとヴェルセン王国国王、ヘルスタット・アルクーラその人が現れた。後に続くのは、内務大臣のヴィクタル・ベリアマン伯爵と魔導大臣マルコ・サバス師、そして騎士団長アロイズ・ネイ子爵。最後にヴァレリーズさんが入ってくると、扉は静かに閉じられた。ヴァレリーズさんの表情が暗い。やはり戦争協力の依頼なのだろうか。

 専用の席に国王が座り、全員に向かって着席を促す。私たちと王国の人たちは、テーブルを挟んで対面するように座った。こちらは、私と迫田さん、巳谷先生、田山三佐。双方とも面識がるので、挨拶はない。これが謁見となると、知っているのに長々とした口上とともに、面倒ないくつもの儀礼を行わなければならないので、肉体的にも精神的にも疲れる。いつか電話でやりとり出来るようにしたいな。


「異世界の方々、大儀であった。このような形での呼び出し、申し訳なく思っている」

 謝罪のような言葉だが、頭を下げているわけではないので、定例文なのだろう。国王がそうそう頭を下げるなんて、国の威信を損なう行為だしね。

 こうしてじっくりと観察すると、やはりドーネリアス王子とは目の輝きが違う。見た目は六十歳くらいにみえるが、異界(ここ)では三十歳くらいを越えると見た目よりも老いて見えるように見えるので、もしかしたら五十歳くらいなのかもしれない。どちらにしても、この世界では老齢の部類に入る。それでも矍鑠として、眼光にも力が溢れているのは、一国を束ねる王なればこそ、なのだろう。


「慈悲深きお言葉、痛み入ります。ヘルスタット王のご偉功あればこそ、我々の安寧があるというもの。一同、喜んではせ参じた次第でございます」

 相変わらず、こうした言葉がスラスラと口から溢れ出す迫田さんはすごいと思うよ。わりとマジに。私なら、あらかじめ考えていたとしても、途中で詰まる、つっかえる。間違いなく。うん。


「日本、と言ったか。貴殿らの国とは、良き関係をこれからも築いていきたいと思うておる。此度の貢ぎ物も良きものであったと聞いた。のぅ、ヴィクタル」

「は。誠に異世界の品々は、驚きに満ちております。我々からの返礼品が見合うものであれば良いのですが」

「いえいえ、偉大なるヴェルセン王国の魔石こそ、我々にとって驚異そのもの。我々の本国にも、国王の威光が届くというもの」

 ベリアマン大臣の言葉に、迫田さんが返す。外交上の儀礼とは言え、そろそろ本題に入って欲しいものだわ。そんな私の内心に気づいたのか、ヘルスタット王が切り出した。



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