待つだけの時間はつらいよ
「うぅ、待っているだけって、つらいわ……」
動画の件はセナさんに丸投げしてしまい、彼女からも「情報が集まるまで待っていてください」としか言われていないので、私はじっと耐えて待つしか無い。
とはいえ、待っているだけでもお腹は空く。ここは高級なホテルだけあって、ルームサービスも充実している。そして、ここのチャージは外務省持ち。となれば。
『“つらい”というお言葉に対して、召し上がっている食事量は増加傾向に思えます、マム』
「いいのよ、食べてストレス発散してるの」
『体重増加による、健康面を心配します、マム』
「うう、うっさい」
キミは母親かっ!
「私も食べ過ぎは良くないと思うぞ、サクラ。確かに日本の料理は美味しいが」
「ヴァレリーズさんまでそんなことを言うんですか?」
これは、ストレス発散、兼いざという時に動くためのエネルギー補給なのよ、と自分にも言い訳しておく。
そういえば、食事時はいつも側に来るルシアがいないなと思って部屋を見渡してみると、ルシアはアンナさんと遊んでいた。アンナさんが、菜箸のような棒をクルクルと回すのを、じっと見守るルシア。一本だった棒が二本になり、いつの間にか三本、四本と増える。ジャグリングかな? すごいなと感心していたら、棒はパッと消えた。
「さて、どこに消えたのでしょうか?」
「う~ん、う~ん……ここっ!」
ルシアは、アンナさんの左袖を引っ張って中を除いたが。
「残念、こっち」
四本の棒は、右手の指の間から突然現れた。
「ええ~っ! なんで、なんで~ぇっ。も一回、もう一回見せて」
「じゃぁ、今度はコインで。こっちの方が簡単」
「うんっ! 見せて、見せてぇ」
アンナさんがコインを取り出して、お手玉のように空中に放り投げる。ルシアはそれを食い入るように見つめていた。なんとも微笑ましい。
「あれは、何系の魔法なのだろう? 魔素の流れは見えなかったが」
「あれは、手品、いえジャグリングかな? 何にしても魔法じゃなくてテクニックです。ちゃんとタネ――しかけがあるんですよ」
そういえば、魔素で思い出したことがある。
「ヴァレリーズさん、B国大使館で魔法使いましたよね」
「……そうだな、私らしくなかった」
「いや、そうじゃなく、いえそれもそうなんですが。よく部屋の空気を揺らすくらいの魔法が使えたなって」
冷静沈着なヴァレリーズさんらしくない、ということはもちろんなのだけれど、部屋の大気を揺らすことができるほどの魔素があったということが不思議だった。私は魔法が使えるわけじゃないけれど、これまで数年間異界で魔法が行使されるところを見てきた経験から、魔素がほとんどないこちらの世界で、あんな風に魔法が使えるとは思えなかった。
「あれか――あれには、ちょっとしたタネがある」
そういってヴァレリーズさんは、なぜか<パム>の方とちらりと見た。
『マム、それについては私から説明をします』
「は? なんであなたが?」
『ヴァレリーズ師が魔法を行使できた理由は、私が魔素を供給したからです』
<パム>が言うには、彼女の装甲内部には魔素を保管しておく貯蔵装置があるという。で、大使館に言ったときには魔素を放出して室内の魔素濃度を上げていたのだとか。あの部屋の中が、なんとなく明るく感じたのは、そのせいか……。
「ちょっと待って。それって……あなたは、魔素で動いているってこと?」
『肯定します、マム』
「まさか、魔素駆動装置? あれは、教授に研究を止めてもらったはず」
『私に搭載されている小型魔素駆動装置は、御厨教授ではなくビー様の手によるものです。設計思想は初期型と同一ですが、各機構の効率化、術式の見直しなどによって小型化がなされて……』
「あー、わかった。わかったから、もういい」
ヤラレタ。御厨教授が素直に私の指示に従うとは思っていなかったけど、まさかビー君を巻き込むとは。教授だって、異界に無限の動力源を広めることがどんなことになるか、想像できないわけがないでしょうに。
それに、魔素のことだって、ほとんど解明できていないのに……。思考迷路に嵌まりかけた私の意識を現実世界に引き戻したのは、隣の部屋から飛び込んで来たセナさんの言葉だった。
「皆さん、犯人の行き先が判明したっすよっ!」




