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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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やっぱり黒幕はあの人

――時計の針を少し巻き戻す。


「サクラのばかぁ。私だって、お手伝いしたいのにぃ~」


 同行を拒絶された妖精――ルシアは、廊下を力なく漂っていた。人間ならば、とぼとぼと歩いているといったところか。


「なんだ、小さな貴婦人。元気が無いな」


 ルシアが顔を上げると、目の前に白衣を着た長身の女性が立っていた。彼女の事は、ルシアも知っていた。彼女の研究室(ところ)にいるビーは、ルシアのイタズラ仲間だ。


「きょうじゅ……サクラがダメだって」


 ルシアはルシアなりに頑張って、御厨に先ほどのことを説明をした。


「妖精の誘拐事件は聞いたよ。で、サクラちゃんたちが追っかけると。まったくあの()は変なところが行動的なんだから。で、おちび(ルシア)ちゃんも付いて生きたいと。ふむふむ」


 ブンブンと小さな頭を上下に振る妖精を見ながら、御厨教授はニヤリと笑った。


「むふ。こんなこともあろうかと」


 そういって、後ろに控えていた<パム>の胸を開いて――。


□□□


「で、ずっと<パム>の中にいたと」


 ウェルカムフルーツの中から出した、カットしたメロンを美味しそうに食べながら、ルシアはこちらを見上げている。


「うん。たいやきおいしかったよ。この果物もおいしい」


 まったくあの人は、何を考えているんだろう。


『私の内部構造には、妖精が快適に過ごせる十分な空間が確保されています』

「そういうことじゃなくって! もう、わかったわよ、今更還すわけにもいかないし。でも、ルシア、私以外の人間には姿を見られないようにね。<パム>もお願い」

「わかったー」

『了解しました』


 なんだか、どっと疲れが襲ってきた。


「そうだ、ルシア。ティールの気配は感じ取れない?」

「うぅ~ん、わかんない。なんとなく感じられる気がするけど」

「そっか。それじゃ仕方ない。今日はもう寝ましょう。ルシア、食べ終わったら、ちゃんと歯を磨くのよ」

「はぁ~い」


□□□


 朝、朝食はルームサービスにしてもらった。ルシアのことがあるし。

 部屋に設置されているタブレット端末から、サンドウィッチとパンケーキ、オレンジジュース、コーヒーを頼んだ。メニューの値段を見てちょっと躊躇しちゃったけど、ここは外務省持ちなので遠慮無く。


 パンケーキは、ルシア用に小さく切ってあげる。それを<パム>がフォークで持ち上げると、ルシアは器用にかぶりついた。私は、BLTサンドを手に取る。昨日はあまり食欲がなかったけれど、今後のことを考えたらしっかりとエネルギーを補給しないと。


 朝食後、ルシアを<パム>の中に押し込めて、ヴァレリーズさんたちを私の部屋に呼んだ。作戦会議だ。といっても、今の所情報待ちだ。焦る気持ちを抑えてじっと待つ。時間が過ぎていく……。


 突然、アンナさんが席をたってドアの近くへと移動し、壁に貼り付いた。何をしているのと尋ねようとした時、ノックの音が響いた。


「宮崎です」


 出迎えようと立ち上がり掛けた私を、セナさんが無言で静止する。そして、セナさんとアイコンタクトしたアンナさんが、ゆっくりとドアを開いた。


「奴らの居所が――ヒッ!」

「宮崎、驚きすぎ」


 ドアの陰にいたアンナさんに驚いた宮崎さんは、苦笑いを浮かべて「おどかさないでくださいよ」と言いながら、部屋に入ってきた。


「宮崎さん、誘拐犯の居場所、わかったんですか?」

「えっ、あっ、は、はい。警視庁の協力でなんとか突き止めました」

「どこです? 今から行きましょう!」

「いや、それがですね……」


 宮崎さんの口から出たのは、欧州B国の名称だった。六本木にあるB国大使館に、犯人たちは駆け込んだのだという。


「ご存じのように、大使館内は治外法権――日本の法律は適用されません。うかつに踏み込むことはできません」

「では、どうすれば」

「今、調整中ですが、ヴァレリーズさんに力をお貸しいただけないかと」

「私で良ければ。そもそもサクラを助けるために、私はここにいる」


 宮崎さんのアイディアは、ヴェルセン王国全権大使という立場を持つ調整官、つまりヴァレリーズさんを出汁にして、B国大使と面会しようというものだった。



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