やっぱり黒幕はあの人
――時計の針を少し巻き戻す。
「サクラのばかぁ。私だって、お手伝いしたいのにぃ~」
同行を拒絶された妖精――ルシアは、廊下を力なく漂っていた。人間ならば、とぼとぼと歩いているといったところか。
「なんだ、小さな貴婦人。元気が無いな」
ルシアが顔を上げると、目の前に白衣を着た長身の女性が立っていた。彼女の事は、ルシアも知っていた。彼女の研究室にいるビーは、ルシアのイタズラ仲間だ。
「きょうじゅ……サクラがダメだって」
ルシアはルシアなりに頑張って、御厨に先ほどのことを説明をした。
「妖精の誘拐事件は聞いたよ。で、サクラちゃんたちが追っかけると。まったくあの娘は変なところが行動的なんだから。で、おちびちゃんも付いて生きたいと。ふむふむ」
ブンブンと小さな頭を上下に振る妖精を見ながら、御厨教授はニヤリと笑った。
「むふ。こんなこともあろうかと」
そういって、後ろに控えていた<パム>の胸を開いて――。
□□□
「で、ずっと<パム>の中にいたと」
ウェルカムフルーツの中から出した、カットしたメロンを美味しそうに食べながら、ルシアはこちらを見上げている。
「うん。たいやきおいしかったよ。この果物もおいしい」
まったくあの人は、何を考えているんだろう。
『私の内部構造には、妖精が快適に過ごせる十分な空間が確保されています』
「そういうことじゃなくって! もう、わかったわよ、今更還すわけにもいかないし。でも、ルシア、私以外の人間には姿を見られないようにね。<パム>もお願い」
「わかったー」
『了解しました』
なんだか、どっと疲れが襲ってきた。
「そうだ、ルシア。ティールの気配は感じ取れない?」
「うぅ~ん、わかんない。なんとなく感じられる気がするけど」
「そっか。それじゃ仕方ない。今日はもう寝ましょう。ルシア、食べ終わったら、ちゃんと歯を磨くのよ」
「はぁ~い」
□□□
朝、朝食はルームサービスにしてもらった。ルシアのことがあるし。
部屋に設置されているタブレット端末から、サンドウィッチとパンケーキ、オレンジジュース、コーヒーを頼んだ。メニューの値段を見てちょっと躊躇しちゃったけど、ここは外務省持ちなので遠慮無く。
パンケーキは、ルシア用に小さく切ってあげる。それを<パム>がフォークで持ち上げると、ルシアは器用にかぶりついた。私は、BLTサンドを手に取る。昨日はあまり食欲がなかったけれど、今後のことを考えたらしっかりとエネルギーを補給しないと。
朝食後、ルシアを<パム>の中に押し込めて、ヴァレリーズさんたちを私の部屋に呼んだ。作戦会議だ。といっても、今の所情報待ちだ。焦る気持ちを抑えてじっと待つ。時間が過ぎていく……。
突然、アンナさんが席をたってドアの近くへと移動し、壁に貼り付いた。何をしているのと尋ねようとした時、ノックの音が響いた。
「宮崎です」
出迎えようと立ち上がり掛けた私を、セナさんが無言で静止する。そして、セナさんとアイコンタクトしたアンナさんが、ゆっくりとドアを開いた。
「奴らの居所が――ヒッ!」
「宮崎、驚きすぎ」
ドアの陰にいたアンナさんに驚いた宮崎さんは、苦笑いを浮かべて「おどかさないでくださいよ」と言いながら、部屋に入ってきた。
「宮崎さん、誘拐犯の居場所、わかったんですか?」
「えっ、あっ、は、はい。警視庁の協力でなんとか突き止めました」
「どこです? 今から行きましょう!」
「いや、それがですね……」
宮崎さんの口から出たのは、欧州B国の名称だった。六本木にあるB国大使館に、犯人たちは駆け込んだのだという。
「ご存じのように、大使館内は治外法権――日本の法律は適用されません。うかつに踏み込むことはできません」
「では、どうすれば」
「今、調整中ですが、ヴァレリーズさんに力をお貸しいただけないかと」
「私で良ければ。そもそもサクラを助けるために、私はここにいる」
宮崎さんのアイディアは、ヴェルセン王国全権大使という立場を持つ調整官、つまりヴァレリーズさんを出汁にして、B国大使と面会しようというものだった。




