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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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密入国者になるのかな

 東北自動車道から首都高速に入った私たちは、まず霞ヶ関の外務省へと向かった。文科省(古巣)には、車の中からリモートでミーティング済みだ。

外務省異界局には、私とヴァレリーズさん、そしてアンナさん。<パム>とセナさんは、車の中で待機している。


「ご苦労様です」

「お久しぶりです、宮崎さん」


 異界局のオフィスには、局長のほかに宮崎さんが私たちを出迎えてくれた。宮崎さんは、迫田さんの後輩だ。蓬莱村にも、何度か訪れている。


「連絡を受けて、自衛隊はもとより検察、警察とも連携をとることになりました。で、誘拐犯の足取りなのですが――」


 宮崎さんは、テーブルの上に広げた地図を指さしながら説明を始めた。


「福島の“(ザ・ホール)”を抜けた後、2キロほど離れた山中で車を乗り換えています。その車で東北自動車道を使って東京に入ったところまでは掴んでいます」


 彼らは何をするつもりなのだろう。謎だ。そもそも、ティールの無事も確認できない。もどかしい。


「そのことですが、犯人は“妖精愛好家”の依頼で動いているのかも知れません」

「なんですか、それ」

「妖精を愛する人たちのことです。欧米には昔から少数ですが、熱狂的に妖精を追い掛けていた人たちがいたのですが、実際に妖精が存在していたことで、その、妖精の人気が爆発しまして」


 世界中で大小さまざまな、妖精を愛でる団体が生まれているのだという。わからなくもない。けれど、誘拐するなんて。


「もちろん、ほとんどの愛好家たちは誘拐なんて考えてもいないでしょう。しかし、中には自分のものにしたいという愚か者もいて、そいつが金や権力を持っていたりすれば」

「無理矢理にでも自分のものにしたいと。もはやいきすぎた美術品のコレクターですね」

「もうひとつ、妖精の法的な立場が確定していないことがあります。まだ、どこの国でも妖精の人権、というのもおかしいですが、人と同じ権利が認められていません」

「そんな。でも、ヴァレリーズさんたち異世界人は、すぐに権利が認められましたよね」


 いわゆる異界法では、我々の世界とは異なる世界の人たちについても、きちんと“同じ人間”として人権を認めている。それは<ホール2>の――吸血鬼や人狼といった人たちに対しても同じで、ほとんど抵抗なく人権が認められている。私は、妖精も法的に護られているのだと、思い込んでいた。


「まず、『妖精は人か否か』で揉めています。実に馬鹿らしいことですが」

「それならミヤザキ、結論は出ている。妖精は、人ではない」

「え?」


 私も宮崎さんも、ヴァレリーズさんの言葉に耳を疑った。


「妖精や精霊は、人に非ず。人を超えたもの。君たちの言う神や仏に近しいものだ。すべての法に優先すべきではないか?」

「あーはいはい。話がややこしくなるから、ヴァレリーズさんは少し黙っていてください」

「なんと」


 ヴァレリーズが憮然とした表情を浮かべるけれど、しょうがないでしょ、異界(あちら)とこちらでは状況が違うんだから。


「……ま、まぁ、そんなわけで、法律が制定されるより先に手にしたいと考える愚か者もいるということなんです」

「そんなこと、許せるわけない」

「そうです。だからこそ、この犯罪はぶっ潰して、ティール君を取り戻さなければならないのです」


□□□


 外務省での打ち合わせ(ほとんど何もできないことを確認したようなもの)を終えたあと、用意してもらったホテルに入った。荷物を部屋に置いて、私とヴァレリーズさん、セナさん、アンナさんの四人はホテルのレストランで夕食をとった。高級ホテルの高級ディナーだけれど、味がほとんど感じられないし、食欲も湧かなかった。


「大丈夫っす、先輩。日本の警察は日本一なんすから」

「セナ、それ当たり前」


 ふたりは場を和ませようとしてくれているらしいけど、私ははははと小さく笑うことしかできなかった。私が落ち込んでいるからか、ヴァレリーズさんも口数が少ない。初めての日本だというのに、なんだか申し訳ない。


「自分たちは隣の部屋なんで、何かあればすぐに呼んでください、先輩」

「ありがとうございます」

「敬語はいらないっす。では、明日また。おやすみっす」

「おやすみなさい」


 厚いドアを閉める、部屋の中の静寂が痛いほどだ。

 私は、キングサイズのベッドに腰を掛けて、天井を見上げた。


 誘拐を防げなかったのは、私のせいだ。あのふたりが偽物と、なぜ気が付かなかったのか。そもそもDIMOの調査という時点で、確認を取っておくべきだった。妖精たちには、もっと気をつけるよう、注意すべきだった。油断があった。魔物(クリーチャーズ)には警戒していたけれど、人間に対する警戒が足りなかった。


『マム。就寝前にカモミールティーは如何ですか?』

「ありがとう、<パム>。いただくわ」


 テーブルの上で、2客のティーカップが湯気をたてている……2客?


「<パム>、あなたもお茶を……」


 飲むの? という言葉が出る前に、彼女(パム)の胸がパカッと両側に開いた。そして、中から――。


「もうひとつは、ルシアのぶーん!」


 小さな妖精が、飛び出してきた。



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