ヴァレリーズは目立つ
「これ」
高速道路に乗ったところで、アンナさんが10枚くらいの紙の束――資料を手渡してくれた。なにげに文字がびっしり。車内で読むには、すこししんどいかなと思っていたら、セナさんが、ハンドルを握りながら口頭で概要を説明してくれた。
「“穴”を抜けるためのDIMO調査員というIDは、巧妙に偽造されたものだったっす。で、白人の方は、裏社会では名の知れた運び屋で、本名ジーン・ヨーク、通称スクリズヌォとか言う奴です。もうひとりの方は本名不詳で、通称ハンマー。こっちは……あー、いわゆる殺し屋っすね」
「ぶ、物騒な人たちですね」
私、そんな人たちとヘラヘラ握手したのか。うぅ、ぞっとする。それにしても、運び屋と殺し屋が妖精を誘拐してどうしようというのだろう? 妖精の胆が不老長寿の妙薬! なんて伝説はなかったと思うけど。
「それにしても、短時間でこんなに情報を集められたんですね」
「ラングレー」
「え?」
助手席からの返答に、戸惑う。ラングレーさんという方が、情報を集めてくれたのかな?
「すんません、アンナは見た目かわいい系なのに口下手なんすよ。ちな、ラングレーってのは、CIAのことっす。奴ら元々、CIAからマークされてみたいなんすよ」
アンナさんもそうだけど、自身の言葉もギャップがあるセナさんの解説に、今度はヴァレリーズさんが疑問を口にする。
「CIAとはなんだい? サクラ」
「えぇとですね、異界と同じようにこの世界にもいくつか国があって、その中でもっとも力のあるアメリカという国の情報機関です」
「アメリカは知っている。王宮にも特使とやらが来たからな。上から目線で気に食わん奴だった」
あっははー、ハミルトン特使のことかな? 私の赴任前に一悶着起こした人だ。
「それはそれとして、CIAさんはなぜ彼らを止めてくれなかったんですかね?」
「目的が分からなかったからでしょうねぇ。それに、自分のとこに影響がなければ、彼らは基本、情報を集めるだけ干渉しないっす。正義の味方、って訳じゃないっすからねぇ。今回も、誘拐されたのが妖精じゃなければ、こんな風に情報を流してくれることはなかったでしょうね」
「そんなものですか」
「そんなものっす」
福島県内の東北自動車道は、わりとカーブが多い。乗り物酔いの薬を飲んでいても、ヴァレリーズさんにはキツかったみたいだ。栃木に入っても顔色が優れない。
「もうすぐ蓮田サービスエリアですね。少し休みますか?」
「すまない、そうしてもらうと助かる」
「わかりました。セナさん、悪いのだけれど、次のSAに停まってもらえる?」
「了解、っす」
しばらくして、車はSAで止まった。ヴァレリーズさんと私、セナさんが降りた。
「<パム>はお留守番ね」
『了解しました、マム……可能であれば、何か食べるものを買って来ていただけませんか?』
「いいわよ、って、あなた食べもの必要なの?」
『いえ、私は食物を摂取する必要はありません……この世界を理解するためです。お願いします』
「そう、なの? わかった」
そういってスライドドアを閉める。最近のスライドドアって、自動で閉まるのね。
「なんだか、ごちゃごちゃとしているな、ここは」
「いや、そんなことは……よくあるSAですよ?」
平日のSAだ、それほど人がいるわけではないが、ヴァレリーズさんにとってはごちゃごちゃとした印象なのだろう。
「王都の市場より、人少ないでしょ」
「言われてみれば、そうなのだが。全体的な印象というか」
「慣れてください。東京はもっとゴミゴミしていますよ」
「そうなのか。うむ、覚悟しておこう」
売店の方でセナさんが、手を振って呼んでいる。あれ、アンナさんは? と思ったら、私たちの背後にいた。いつの間に。
その後、売店でお茶を買ったり、軽食を買ったり。あぁ、ス○バのコーヒー久しぶり。ヴァレリーズさんは、自動販売機に興味を持ったようだ。
「魔法か?」
「いえ、機械です。そもそも、こちらの世界では魔法は使えませんよ」
いや、そうでもないとヴァレリーズさんが呟いた。
「ジョイラント師も言っていたが、こちらの世界にも魔素の流れがある。微かだがね」
「そうなんですか? ダニー君の時には、魔石のお陰って聞いていますけど」
「もしかしたら、彼が来た時よりも魔素が増えているのかも知れないな」
かなりの量の魔石がこちらの世界に輸入されているので、もしかしたらそのせいかもしれない。私たちには感知しようがないので、どうすることもできないけれど。
「ヴァレリーズさん、ご気分はどうっすか?」
セナさんが、ヴァレリーズさんに問いかけた。
「あぁ、ありがとう、もう平気だ」
「それでは行きますかぁ」
彼の顔色も元に戻ったし、そろそろ移動しないと。人が少ないとはいえ、ヴァレリーズさんの容姿は人目を引く。せめて服はスーツとかにしてもらえば良かった。目立つことこの上ない。
<パム>には、鯛焼きを買ってあげた。




