助っ人、登場
ここから現代日本が舞台となります。
“穴”を抜け福島の施設を出たところで、私たちは意外な人物と再会した。
「サクラ!」
「カイン王子、どうしてここに?」
ヴェルセン王国第二王子、カインが頬を赤らめながら走ってきた。
「サクラが大変と聞いて、ボクも手伝おうと思い来たのだぞ。……迷惑だったか?」
「いえ、そんなことは。しかし……」
大変なのは私じゃなく、妖精だ。
「ご無沙汰しております、殿下」
「おぉ、ヴァレリーズ師ではないか。久しいな。師もこちらに?」
「はい。これはヴェルセン王国……異界の問題でもあります故に」
「うむ、大義である」
カイン王子、留学の成果か、すっかり日本語が上手くなって……一人称まで代わって……って、違う、違う。ヴァレリーズさんを連れてきたことだって、外交的にはギリギリアウトかも知れないのに、そこに王子が加わったらとんでもない大事になっちゃう。
「殿下、お気持ちはうれしいのですが……」
「分かっているよ、サクラ。ボクが動くわけにはいかないことくらい。前にそれで、“スゲェ”怒られたからな」
そういうと、王子は背後にちらっと目線を送った。そこには、でっかい男の人と細くて綺麗な女性が立っていた。
「剣士ゾーマ殿か」
「……ヴァレリーズ師」
男の人は、ヴァレリーズさんの知り合いらしい。
「ゾーマは、ヴェンダ侯爵家に仕える剣士だよ。ボクの護衛にと、侯爵が付けてくれたのだよ」
「そうなんですか。では、こちらの方が王子の代わりに?」
「いや、違う。そろそろ……あぁ、ちょうど来たぞ」
敷地内に黒塗りのワンボックスカーが、すごい勢いで入って来た。ヴァレリーズさんと<パム>が身構える中、クルマは私たちの目の前で煙を上げながら止まった。ゴムの焼ける臭いがした。
「ボクの代わりに、彼女らが助けになるはずだ」
カイン王子の言葉を待っていたかのように、ワンボックスのドアが開いてふたりの女性が降りてきた。助手席から降りてきたのは、カイン王子と同じブレザーの制服を着ている少女だった。茶髪のショートカット、目がクリクリして可愛い。なぜか、黒い指貫手袋をはめている。運転席から降りてきたもう一人の女性は、私より少し下くらい、黒髪を後ろでひとつにまとめたメガネの女性。薄いピンクのジャケットと同色のスカート姿だ。
「サクラ、紹介しよう。私が通う学園の同級生である立花杏奈嬢と、数学担当教師の三船星菜女史だ」
「立花杏奈。アンナでもアンでも、好きなように」
「三船星菜っす。セナと呼んでくださいっす」
「は――はぁ」
いやいやいやいや、ワケがわかんない。女の子ふたりが自分の代わりって。
「あぁ、すいません、混乱させちゃいましたかね。自分ら『文部科学省就学児童学内凶悪犯罪特別対策室』の人間なんすよ、先輩」
「え? がく何? 先輩って?」
□□□
文部科学省就学児童学内凶悪犯罪特別対策室、通称「がくはん」。閉鎖的な学校という領域の中で発生する(特に凶悪な)犯罪に対処、これを未然に防いだり処理したりする文科省内の秘密部署――なのだと、後で知った。そんな組織があるなんて、この時までまるっきり知らなかったよ。
「カイン王子から相談を受けて上に聞いたら、事務次官からも先輩に協力するよう指示を受けたっす。ともかく時間がないんで、とっとと乗っちゃってください。道すがら状況を説明するっす」
「は、はいっ」
セナさんに促されて、私とヴァレリーズさん、そして<パム>がワンボックスカーの後部座席に乗り込んだ。セナさんが運転席、アンナさんが助手席に座った。エンジンがかかって、ドルンと車体が揺れた。
「あ、ヴァレリーズさん、これ乗り物酔いの薬です。口の中で融けるので、このまま口に含んでください」
「すまない」
カイン王子がわざわざ車体を回り込んで、私に声をかけてくれた。
「では、サクラ、がんばるんだぞ」
「はい。殿下もお気を付けて」
「出発するっすよ~。シートベルト締めるの、忘れないでくださいね~」
ワンボックスカーは、見事なターンを決めながら、東北自動車道へ向けて施設を出た。
カイン王子が助っ人と思わせて……。
なお、作中に登場した「がくはん」の設定は、境三保さんがカクヨムで連載している小説「ハイスクール・エスピオナージュ!」からお借りしました。さんぽさんに感謝。




