誘拐犯を追え!
他の妖精たちを避難させていたルシアが戻ってきたので、映像を見せて意見を聞いた。
「わかんない」
そりゃそうか。
「でも、ティールが村の中にいるなら、わかるはず」
村の中にいれば。悪い予感が、頭をよぎる。ティールは村の外に連れ出されたのか、それともすでに……。
「村の中にいれば……阿佐見さん、少し待っていてください」
そういうと、田山二佐は指令所を飛び出していった。5分ほどして、戻ってきた彼は、顔を真っ赤にして頭を下げた。
「申し訳ないっ! 自衛隊のミスだ、犯人を取り逃がしてしまった」
「どういうことですか!?」
村にいないというルシアの言葉を聞いて、私は村の外に出たのかと思ったのだが、田山二佐は異界からいなくなったのではないかと考え、“穴”の管理室へ行って確認したのだという。そして、今朝早くに昨日来たばかりのDIMO調査員2名が、『緊急の用ができた』と言って、“穴”を潜っていったという。
「田山二佐、2名の部屋を確認したところ、本人たちはおらずシール式端末が奇妙な装置に繋がれて放置されていたと報告がありました。位置情報を欺瞞するための装置と思われます」
「くそ! 最初から妖精の誘拐が目的かっ! 」
「はやく追い掛けないと」
「連絡員を送って、犯人を捕まえるよう連絡しました」
ここのところ、訪問客が増えてセキュリティが甘くなっていたのかも知れない。それは反省しなくちゃだけど、今はそれよりもやらなきゃならないことがある。
「犯人たちの画像データをください。あ、プリントアウトしてもらえると助かります」
「了解した」
「詩、私の代理をしばらくの間お願い」
「え?」
全員の動きがピタッと止まった。君たちは、練習でもしているのかね。
「行く気なの?」
「もちろん。責任あるし」
「あなたねぇ……しょうがないか。さくらだし。わかった、後の事はまかせて」
「ありがと。あとは……」
<アテナ>装備があれば心強いけど、アレは今御厨教授のとこでメンテナンス中だ。しかたない。迫田さんは、ガ=ダルガに行っているから、戻ってくるまで待ってもいられない。
「ルシアも行くーっ」
「だめ、ルシアはお留守番よ」
「どうしてっ?」
今、何の予告も無しに妖精を私たちの世界に連れて行ったら、何が起きるかわからない。
「まだルシアたちを連れて行く準備ができていないの」
「ルシア、じゅんびばんたんだよ、サクラと離れるのいや~っ」
「お願い、わかって。いずれ機会があれば連れて行くけれど、今はだめなの」
「……サクラのばか~っ」
ルシアが飛び出していった廊下の方を見て、そっとため息をつく。私だって、連れて行けるものなら連れて行きたい。けれど、何の準備も無しに日本に連れて行って、何かあったらと思うと。
「詩、ルシアのこと、お願いできる」
「わかったわ」
「阿佐見さん、印刷した奴らの写真です。こちらがデータになります」
田山二佐から、クリアファイルとUSBメモリを受け取る。
「阿佐見さん、止めはしませんが、うちの隊員から護衛を付けさせてください」
「え? それはちょっと大げさでは」
「大げさではありませんよ。何があるか分かりませんから」
「でも……」
「ボディガードなら、私が行こう」
声がした方を見たら、ヴァレリーズさんが部屋に入ってくるところだった。
「サクラの盾くらいにはなれるだろう」
「で、でも」
「妖精は、我が国――いや、この世界の宝だ。盗まれたのなら、取り返しに向かうのは当然だろう?
「それにまだ日本には行ったことがない、ちょうど良い機会だろう。エイメリオに土産話ができるし、な」
うぅ、ハンサムのウィンクは卑怯だ。でもなぁ。私的にはヴァレリーズさんが付いてきてくれれば心強いけど、王国の人間を連れて行くのって面倒な手続きが必要じゃ無かったっけ? そう思いながらヴァレリーズさんを見ると、爽やかな微笑みが返ってきた。うっ、眩しい。この笑顔に勝てる人などいない。
「わかりました。すぐに出られますか?」
「用意はできている」
「それじゃ、行きましょう」




