消えた妖精
眠気が吹っ飛んだ。
ルシアによれば、今朝になって気が付いたらティールとの“つながり”が切れていたのだという。妖精同士が、精神的な? 何かでお互いを感じ取っていることは、以前にも目撃しているので知っていたので、ルシアの言葉に疑問は持たなかった。他の妖精たちも、ティールの存在を感じられないと騒いでいるらしい。
でも、確認は必要だ。私は(私にしては)すばやく身支度を終えて、ルシアとともに危機管理センターの指令所に向かった。指令所に入ってみると、すでに田山二佐がオペレーターさんたちに指示を出していた。
「昨日からの監視映像は、瀬川のチームで分担して確認、吉野は蓬莱緊急メッセージで一斉通知、寝ている奴は叩き起こせ。何か連絡があれば、お前がとりまとめろ」
「田山さん」
「あ、阿佐見さん。お疲れ様です」
「ティールに関する情報は?」
「申し訳ない、まだ何も」
いや、田山二佐のせいじゃないので謝らないでください。
「ちょうどいい、ルシアさんには、妖精を全員センターに集めてもらいたい。考えたくはないが、万が一ティールくんが魔物に襲われていた場合、他の被害を出したくない」
「わかった! ルシア、みんなを呼んでくる」
そういうと、ルシアは指令所から飛び出していった。空いた扉から、詩が入れ替わりに入ってくる。
「どう?」
「まだ何も」
心配そうな詩にそう答えて、私は正面の壁に設置されたディスプレイに視線を戻す。何十台とあるディスプレイには、村の様子が映し出されているが、妖精の姿は見えない。焦燥感が募る。
しばらくして、オペレーターの女性自衛官が、手を挙げた。
「見つけました! 昨夜22時0分の画像です!」
「メインのモニターに」
「了解」
女性自衛官が端末を操作すると、司令所のメインスクリーンに夜の風景が映し出された。
「村の東側……畑のある方ね」
画像の中に、うっすらと光る物体が移動してきた。妖精だ。形から見て、ティールにまちがいない。フラフラと飛んでいる。何か目的があるのだろうか? しばらく見ていると、途中で何かに気が付いたような仕草を見せる。なんだろう?
「音、ないんだっけ?」
「音は、はい、このカメラにマイク付いていません」
そうこうしているうちに、ティールの姿は画面から消えてしまった。
「移動先にカメラない?」
「残念ながら」
「あ、こっちのカメラに映ってます。望遠でちょっと判別は難しい感じですけど」
別のオペレーターが声を挙げた。大きなスクリーンの画像が、望遠カメラの画像に切り替わる。左から、小さな小さな影が。ティールだ。その向かう先には……。
「何あれ?」
「人……ですかね?」
黒い塊が、ゴソゴソと動いている。遠すぎて良くわからないが、二足歩行しているように見える。一瞬、魔物である尾長狒々が頭に浮かんだが、あんなに大きくはない。おそらく人間だろう。
「こんなところで何を……あ!」
近付いていたふたつの影が、あっという間に重なった。そして、ひとつになった影が、画面から逃げるように消えていく。それを確認した田山二佐が、隊員に指示を出した。
「あそこにいた者が何者か、至急確認! 並行して、全員の現在位置を報告!」
「了解!」
司令所内が慌ただしくなる。これは誘拐だ。一刻も早く、犯人を捕まえないと。
「おかしい……おかしいです、阿佐見さん。この時間、ここには誰もいないはずです」
「なんですって?」
「ログでは、21時以降に外出した人間はいません」
どういうこと?




