冬は娯楽が少なくて
季節は、秋から冬へと移り変わる。
空から白いものがちらちらと舞い降りたその日、蓬莱村は大騒ぎになった。騒いだのは妖精たちだけどね。
「キャー、なにこれー」
「冷たーい」
「ひえひえー」
「ふわふわー」
吐く息が白くなるような寒さの中、精霊たちが雪とダンスしている。妖精たちの翅と白い雪がキラキラと陽光に反射している様は、まるで一枚の絵画のようで時間を忘れて見入ってしまいそう。妖精たちの故郷、精霊の巣では雪が降らないという。初めて見る雪に驚いているのかもしれない。
「ああっ、だめよティール、雪を食べてはだめ」
ティールは、落ちてくる雪を掴んでは口に運んでいた。本当に食いしん坊だ。
「冷たくて、おいしいよ」
子供の頃、妹とふたりで新雪を集め、かき氷のシロップをかけて食べようとしたことを、ふと思い出した。とても美味しそうに見えたのだ。
「冷たいからお腹壊すのよ」
妖精ティールに自分の経験から来る忠告をする。冷たくて美味しいと思っても、あとで公開するのだ。その時、はたと気が付いた。妖精も人間と同じようにお腹を壊したりするのだろうか?
「食堂に行って、何か温かい飲み物をもらってらっしゃい」
「そうするー」
他の妖精と比べて少し丸みを帯びている身体が、ふわふわと食堂の方へ向かって跳んでいった。
「みんなも、風邪引くからあんまりはしゃがないでね」
手遅れだった。
「寒いよぅ、サクラ~、さむい~」
「ううう、うまく、とべなぁい」
案の定である。私は、近くにいた人たちに手伝ってもらって、妖精たちを集めいそいで屋内に戻った。エアコンの暖房を最大にして入れる。残念ながら、安全面を考えて事務等にはストーブがない。とりあえず、手近にあったタオルなどを掛けてあげる。しばらくすると、気を利かせた誰かが毛布を持ってきてくれた。ありがたい。
「雪は珍しいかも知れないけれど、身体のことを考えてあまりはしゃがないこと。いい?」
「はぁ~い」
少しずつ暖かさを取り戻したらしいルシアたちが、弱々しく返事をした。これで、少し大人しくなってくれると良いのだけれど。
……と、思った自分が甘かった。
翌日。前日の曇天からすっかり晴れ上がった眩しいほどの陽光の中、妖精たちがはしゃぎ廻っていた。なにしているの、また凍えるわよという言葉が喉のてっぺんまで出かかった時、妖精たちが昨日と違うことに気が付いた。
「あ、サクラ~、みてみて~」
私に気が付いたルシアが、近くに飛んできた。
「どお? かわいーでしょ」
しっかりとコートを纏っていた。聞けば、昨日の騒動を知った移住者の中で、裁縫が得意という有志が集まり、妖精用の冬用コートを一晩で仕上げたのだという。
「みんなも服、もらったのぉ」
妖精たちが私の前にやってきて、作ってもらった服を自慢げに見せてくる。さながらファッションショーのようだ。
「よかったわね。でも、寒くなったらすぐ家の中に入るのよ、わかった?」
「「「はーい」」」
妖精たちの返事を聞きながら、よく観察する。その服は、とても一晩で作られたものとは思えない出来だった。これは想像だけど、前々から準備していた人たちがいるんじゃないだろうか。深くは追求しないけど。
□□□
妖精が村に来て困ったこと。苦情が増えた。
「重機の周りでウロウロ飛ぶのを止めさせてください。センサーに反応しにくいので、巻き込み事故の可能性が……」
「立ち入り禁止の場所に入ってくるのをなんとかしてください」
「せっかく取り寄せたアイスを、横からつまみ喰いされたのー」
いや、私は妖精たちのクレーム担当じゃないから!




