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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第五章

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標準時、正午の報せ


『お集まりのみなさま。まもなく正午となります』


 ピッ、ピッ、ピッ、ポ~ン。私たちには聞き慣れた時報。統一された暦で初めての時報。同時に街のあちこちから、鐘の音が鳴り響いた。異界(こちら)の人々には耳慣れた、正午を知らせる鐘だ。

 エデンではしばらくの間、毎日正午に時報を鳴らす予定だ。正午以外は、1時間ごとに鐘の音を鳴らす。エデンと蓬莱村には、標準電波を送信する電波塔も建てられていて、セシウム原子時計に基づいた時刻が送信されている。元の世界からの移住者は、手首から前腕に掛けて直接端末が印刷されていて、受信した電波を元に時刻が表示される。他の地域の人たちには、電波時計が安価で販売されている。


「それにしても、蓬莱村が子午線の基準点でいいのかなぁ」


 正確に言えば、蓬莱村にある“(ザ・ホール)”の位置が基準になっている。地球で言えば、グリニッジ天文台に相当する。私の何気なく発した問いかけに、近くにいた階先生が答えてくれた。天文学者の階先生は、今回の暦策定委員のひとりだ。


「基準はどこかに設置しなくちゃいけないし、地球の子午線だって科学的な意味合いがあって決められたわけじゃないしね」

「そんなものですか」

「まぁ、科学的ではなくても、政治的には蓬莱村(ウチ)しかないんじゃない? 精霊の巣は基準にしにくいしね」

「我々王国の人間、いや帝国の人間もだが、“子午線”という概念を理解するところからなのだよ、サクラ」


 ヴァレリーズさんの言葉には、苦笑いで返すしかない。基準点を決める会合に私は出ていないけれど、さぞ苦労したことだろう。蓬莱村が基準になったのも、王国帝国どちらに置いても禍根を遺すことになる可能性が捨てきれないからと押し切られた、と報告を受けている。

暦の策定委員会では時差についても話合われて、大陸には3つのタイムゾーンが設定されたのだけれど、王国も帝国もこれまで時間に関してかなりアバウトだったらしく時差にはあまり関心がなかったらしい。時差についても日本が言うから導入するかという程度のことらしい。まぁ、こうしたことは時間をかけて浸透していくものだしね。エデンは、モデルケースというわけ。


 あ、このお芋の揚げたの、おいしい。でも、もうお腹いっぱいだわ。もう、スイーツに行ってもいいわよね。甘い物は、疲労回復にいいっていうし。

 クレープのように小麦粉を薄く延ばして焼いた皮に、甘い蜜を塗って巻いた王国のお菓子を食べながら周りの様子を見てみると、王国と帝国のお歴々に加えてガ=ダルガの氏族長やDIMO幹部、それに日本からも政治家やら政府の人間やら、私でも顔を知っている有名企業のトップなんかも顔を出している。ゼネコン関係が多かったのは、日本からの有償資金協力(ODA)目当てなのだろう……と思っていたら、考えが口から漏れていたらしい。近くにいた国土交通省の人――エデンに新設される国土交通省東北地方整備局異界事務所の所長さん――が「それだけじゃありません」って、教えてくれた。


「例えばですね、港に堤防を作る時に、ケーソンという中空のコンクリートブロックを作って海に浮かべ、所定の位置まで持っていって鎮めるという手法を使うのですが、土属性の魔法を使えばケーソンを作る必要もない。ほかにも、トンネルを掘ったり盛土をしたりといった土木作業が、あっという間です。これは、土木革命なのですよ」


 なるほど、地球(あっち)でも(限定的にしろ)魔法が使えることは(ダニー君の行動で)実証されているから、魔法を土木に利用することはできるかもしれないと。


「土木だけじゃありませんよ、火力や風力といった発電事業だって、魔法の方が高効率かもしれない。だから、今のうちに繋がりを作っておこうという考えなんですよ。ほら、日本だけじゃない、海外のゼネコン業者や巨大企業の人間もちらほら見えるでしょう」


 なるほど……といっても、私には区別が付かないけれど。よく観察してみると、あちこちで話し合いみたいのをしているわね。商魂たくましーわー。実を言えば、私の所にも面会の問い合わせがひっきりなしに来ているのだけれど、そんなのにいちいち全部対応していたら切りがないので基本お断りさせていただいている。そのしわ寄せは詩に行っていると思われ……すまん。


「それから、ガ=ダルガも有望ですよね。」


 日本と氏族長議会が共同でガ=ダルガの北岸に飛行場を建設している。それだけじゃなく、ロケット発射場も作る計画だ。元の世界(あちら)と違いこちらの世界では、液体水素と液体酸素による燃焼によってロケットを飛ばすことはできない。ではどうするのか? といえば、レーザー光線で打ち上げるのだそうだ。NASAとかでも検討されていたらしいけれど、異界(こちら)にはなにしろ魔法がある。魔法と科学をうまく組み合わせて、衛星を飛ばすのだそうな。

 最近は、いろいろな事柄が同時に進行しているので、私だけで全部を見ることは物理的に不可能になってきた。全部の案件に目は通しているけれど、多くは担当者に任せることになる。ガ=ダルガの発射施設については、文部科学省から出向者が来ていろいろと動いてくれている……あれ? 私も文科省出向者(同じ立場)よねぇ? ま、いっか。


 いくら人員が増えたとしても、他人に任せられない仕事もある。たとえば、王国や帝国との折衝だったり、これからの開発グランドデザインだったり。仕事の内容は少しずつ変わってきたけれど、忙しさにはあまり変化はない。


 そして、私が忙しい要因のひとつが妖精だ。妖精たちが、蓬莱村に住むことになったからなのだ。



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