夢の邂逅、再び
いつの間にか私は、白い空間にいた。部屋じゃなくて空間。壁もなければ天井も床もない。私はフワフワと浮かんでいる……あぁ、夢を見ているんだな……あれ? 前にもこんなことがあった気がする。
“サクラ、また会えてうれしいわ”
「あ、あなたは――」
確か、私の夢の中に現れた、“命を紡ぐ者”って言ってた――そういえば、名前を聞かなかった。
「――えっと、ごめんなさい。お名前伺っても?」
私の問いかけに、彼女はほほ笑みを還した。
“私に――私たちには名前がないの。サクラ、私に名前を付けてくれない?”
「名前?そうね――」
異界に来てから、名付けの機会が増えた。これでも貴族の称号をもらっちゃったので、部下の名前を(それも日本風の!)付けて欲しいと頼まれることがある。そういえば、ルートの名前を付けたのも私だっけ。私は少し考えて、ある名前を口にした。
「アマリリス、はどうかしら? 地球の、花の名前よ。私も私の妹も花の名前に由来しているから」
“アマリリス。アマリリス――気に入ったわ。ありがとう”
私の中では、アマリリスは白い花のイメージなのよ。
“そうそう、今は名前を付けてもらうために回廊を開いたわけじゃないの”
「また、大海蛇みたいなトラブル?」
“少し違うけど、人間の言葉にするのが難しいわ――えぇと、サクラがさっきまでいた世界のことよ”
「えっ!」
“あぁっ、違うの。あの世界に危機が迫っているとか、そういったことではないの”
思わず、ほっと小さなため息が漏れた。アクシデントで飛ばされた先だったとしても、あの世界で生きる人々とふれあい、言葉を交わしたのだ。情が湧かないといえば嘘になる。でもトラブルじゃないとしたら、一体?
“サクラは、あの世界を見てどう思った?”
アマリリスの問いかけはあまりに漠然としていて、どう答えたら良い物か。
「そうね……人は、どんな世界でも人なのかなって。いい人もいれば悪い人もいる、優しい人もいれば嫌みな奴もいる――私が生まれた世界と、何も違わないなって思った」
“それを聞けて、うれしい”
「そう? 当たり前の答えだと思うけれど」
“そんなことない。あのような状況で、きちんと本質が見えている”
考えてみれば、いきなり知らない世界に飛ばされたら、パニックに陥っても不思議はないわね。でも、私はそれほど不安になることがなかった。……みんなが助けに来てくれると信じていたから。
“どんな世界でも――たとえば、サクラたちの世界と機械生命体の世界でも――根本的な部分、命のありようは不変なのよ”
「どこの世界も同じってこと?」
“本質はね”
そんなものなのか。あ、まって。そうすると、アマリリスはいくつもの世界を知っているってこと? 疑問を口にしてみると、彼女は微笑みながら、そうだと答えた。
“いくつもの世界の、過去も未来も観てきたわ。ほとんどの世界には、干渉が許されていない|けれど”
――え? それってどういう――
“ごめんなさい、もう時がないわ。あとひとつだけ、貴女が行った世界は――”
――――――
――――
――
「――さん――あさ――さん、阿佐見さん!」
「ほぇ?」
「竜の背中で寝られるなんて、やはり貴女は豪胆ですね」
はっ! そうだ、私はニブラムの背中に乗って、元の世界に戻る途中だった!
「つ、疲れていただけですっ!」
恥ずかしくて、思わず顔を伏せてしまう。迫田さんの、呆れたようなため息が聞こえた。
「もうすぐ、到着するそうです。ニブラムの言う“壁”を越える時に、衝撃がありますから、しっかり掴まっていてください」
「は、はひ」
私は何をしているんだ、まったく。
“着くぞ。よいな”
竜の時のニブラムは、なんだか言葉遣いも違う気がする。そんなことを考えながら、私はニブラムの尖った毛(にしては硬いけれど)を握りなおした。直後、ドン、と軽い衝撃を受けて思わず目を瞑ってしまった。そして、次に目を開けた時、そこには青い空が広がっていた。下を見ると砂漠の中に岩と泉と、白い楕円形――<モビィ・ディック>が見えた。
「帰ってきた、のね」
「えぇ。お帰りなさい。阿佐見さん」
ニブラムがゆっくりと降下していくと、オアシスの周りから何人もの人がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。みんな手を振りながら、何か叫んでいる。
その光景を見て安心した私の脳裏に、アマリリスの言葉が蘇ってきた。
“あの世界は、貴女たちの世界――地球が向かう可能性がある世界よ。でも、確定した未来じゃない。貴女の世界がどうなるかは――”
「あたしたち次第、ってことね。アマリリス」




