潜入! タルーアン
バーリアント首脳陣たちの説得は、思ったより簡単に済んだ。というより、<統括>が強権を発動して押さえ込んだ、という方が正しいかな。ゴーランなんちゃらという男は、最後までごねていたけれど、アクセス権を剥奪するなんて言われたら引っ込むしかないよね。すごい目でこっちを睨んでいたから、刺されないように気をつけないと(もちろん冗談よ)。もうひとり、ディーガとかいう若いのは、対照的にあからさまにこびを売ってきた。私が女だと思って、舐めきっているのがミエミエだ。世界が違っても、あぁいうタイプの男はいるのね。
バーリアントの方はなんとかなったので、あとはタルーアンの方ね。相手の拠点は<統括>のスパイが見つけているので、乗り込むだけだ。
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『まもなくタルーアンの首都、クーデラ上空に到達します』
この惑星に住む人類の、もう一方の勢力であるタルーアンは、民主共和制政治を行っており、国民によって選ばれた議員たちの合議によって運営されている……建前は。実際には、議席のほぼ九割を<清浄党>党員が占有しており、一党独裁体制と言っても過言ではないらしい。
タルーアン議会の第一党は清浄党といい、その最高責任者はトーショウ委員長という男で、統一議会の議長でもある。要するに、独裁者だ。どっかで聞いたことのあるような話よね。
『ターゲットは、中央の建物内で会議をしているようです』
「了解。じゃ、ドアをノックするとしましょ」
私は、大型航空機の後部ハッチから、暗い大空へと飛び出した。
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<統括>が指定した建物は、七階建てのビルだった。見た目はコンクリートと同じだから、元の世界と混同してしまいそう。構造も似ているというか、ほぼ一緒だ。私が降り立った屋上にも、ちゃんと階下へ通じる扉があった。パラシュートとホバリング装置が一体になった装具を<アテナ>から分離して、私はその扉を開けた。
【秘密会議室】
タルーアン統一議会の与党、清浄党の所有するビルにある秘密の会議室では、バーリアントの撤退について議論が交わされていた。
「敵が撤退したのなら、敵本陣を叩く絶好の機会ではないか」
「いや、罠という可能性もある」
「敵がどんな罠を仕掛けようと、我が軍の力であればたやすく打ち破るであろう」
「ふん。碌な軍備もない敵軍と一進一退していた軍に力だと? なんの冗談だ」
会議は、紛糾していた。攻めるべきか留まるべきか、議論に終わりは見えなかった。そして彼らは、いつものように最終判断を一人の男に委ねた。
「委員長は、どのようにお考えですか?」
一人のメンバーに問いかけられたトーショウ委員長は、悠然とした姿勢を崩さないままゆっくりと口を開いた。
「諸君。我々の目的は何だ?」
「それは……敵を滅ぼし、平和を取り戻すこと、です」
「そう、その通り。であるならば、やることは変わらない」
タルーアンのトップはゆっくりと椅子から起ち上がり、同志たちの表情を順番に見定めていった。それまで声を荒げていた者たちも、その視線に晒されるだけで心底から怖れを感じた。
「すでに“駆除作戦”の準備は整っている。敵が引いた? ならばちょうど良い。勇気ある偵察部隊が見つけた奴らの巣穴に贈り物を届けてやろう」
その場にいた者の口から、おぉ、と小さな感嘆が漏れた。駆除作戦とは、バーリアントの地下都市に即効性の神経毒を注入する作戦だ。無色のガスは、短時間で敵を抹殺できるはずだと彼らは考えていた。
「ただし、罠という可能性も考慮し、十分な兵力でもって一気呵成に奴らの巣穴に辿り着き鉄槌を下す」
「おおっ」
「さすが委員長」
トーショウ委員長の鶴の一声で、タルーアンの方針は決まった。後は詳細な作戦計画を構築し、怨敵バーリアントを殲滅するのみ!
「はいはい、ごめんなさいね~」
中の音は、<統括>のスパイが中継してくれていたから状況は分かっていたけれど、私がドアを開けて入っていった時の男たちの顔ときたら!
「ここは許可なく入っていい場所ではないぞ?」
凍り付いていた男たちの中でただ一人、中央にいた男――あれがトーショウ委員長ね――が私に問いかけてきた。トップの落ち着いた言葉に、帆彼の者たちも我に返ったみたいで。
「だ、誰だ!」
「そのおかしな面を外せ!」
「警備兵! 警備兵はどうしたっ!」
と、私に向かって怒鳴り始めた。やれやれ。えっと、両手を挙げるのは、ここでも敵対する意思表示になるわよね?
「まぁまぁ、みなさん落ち着いて。ちょっとお話があって伺っただけだから。あ、警備の人たちは、えーと、ちょっと眠ってもらいましたぁ」
「何を言っているんだ、貴様っ!」
「あなたがタルーアンのトップ、トーショウ委員長でしょ?」
男たちが声を荒げるなか、ただ一人騒いでいない男に向かって言った。
「……まず、貴君から名乗るべきではないか?」
どうやらトーショウ委員長は、独裁者ではあったが相手を過小評価するようなことはないようね。
「あ、ごめんなさい。私は桜、えーと、通りすがりの調整官です」
あ、いま一瞬だけど、委員長の顔が歪んだ。
「トオリスガリのチョウセイカン? ……聞いたことがないな。で、そのチョウセイカンとやらが、私に何用だ?」
「単刀直入に言うわね、戦争を止めて欲しいの」
「我が党に不法に押し入った上、警備の者を倒してここにきたのは、そのような妄言を吐くためか? くだらん。本当の目的は、じっくりと聞くとしよう。我が親衛隊が、お前を捕まえた後で、な」
彼が指をパチンと鳴らすと、部屋を囲む壁の一部がスライドして、そこから兵士がわらわらと湧いて出てきた。一斉に銃口をこっちに向けてきた。タルーアンの銃じゃ<アテナ>装備を貫く力がないことは聞いているし、竜の護りもある……けど、気持ちいいものじゃないわね。
「あ、あーっと。私が言うのもなんだけど、それは意味がないと思うのだけれど」
「大人しく両手を挙げて、床に伏せろ! さもなくば、撃つ!」
「いやいやいや、だから……」
「撃て!」
指揮官みたいな人が叫ぶと、兵士たちは躊躇いなく引き金を引いた。上岡一佐が見ていたら、「よく訓練されている」って言うかな。でも。
「な、なんだっ!」
「弾が……」
「どいうことだ」
銃弾は、私の一メートル手前くらいで停まり、パラパラと床に落ちた。
「ね? 言った通り意味がないでしょ? だから、私の言うことを……」
「下がれ」
トーショウ委員長の声で、兵士たちが後ろに下がった。
「お前が何者かは知らないが、それなりの力は持っているようだ。こちらとしても、それなりの対応をしなければならんな」
「どうやら分かってもらえたようね。なら……」
『だまれ』
突然、男の声色が変わった。
『その奇妙な兜を取れ』
何を言い出すの? 私は不思議に思いながらも、ヘルメットを脱いだ。
「ふむ。多少は見られる顔だな」
なにを失礼な。たしかに美人じゃないけれど。
『そこに跪け』
なんで、そんなこと私が。でも、身体が勝手に! なんでっ!
『獣のように四つん這いになれ』
私の惨めな姿に、部屋の中にいた議員たちの笑い声が漏れる。さっきまでは、あんなにビビっていたのに。
「サクラ、サクラ、どうしちゃたの?」
<アテナ>の隙間に待機していたルシアが、驚いて話しかけて来た。輸送機の中で、付いてくるなら見つからないように隠れていてね、といったことを守っているんだ。ごめん、ごめんよ。でも、声もだせないんだ。くやしい。くやしくて、涙が出た。
「サクラ……」
『そのまま、這ってここまで来い。そして、私に忠誠を誓え』
ズル、ズル。ダメ、なんで身体が言うことを利かないの、まるで、誰かが私の中に入って身体を操縦しているみたい。助けて、迫田さん、ヴァレリーズさん……。
「まったく、貴女という人は、どこに行ってもトラブルに巻き込まれるのだな」




