サウサの中継都市
エスリー村の人たちに見送られながら、村の出口のひとつ、洞窟を歩いて行く。村と村というか、地下ドームと地下ドームはこんな洞窟で結ばれている。光る苔のお陰で、足下がおぼつかなくなるほど暗くはない。でも、気をつけなきゃいけないのは、侵入者用のトラップだ。タルーアンの侵攻を警戒して、洞窟内にはいくつかのトラップが設置されていて、中には即死系のものもあるらしい。村長さんから、トラップの目印をそれとなく聞いているので、注意していれば平気だけれど。いや、注意しなきゃいけないのは、前後を歩くアスクスたちね。私を無力化するために、意図的にトラップを作動させかねない。
だからね、こうした権力にしがみついているような男は、人前で恥をかかせちゃいけないのよ、本当は。それを文科省時代に嫌というほど体験したはずなのに、私もまだまだ若いわぁ。
それにしても、サウサ方面統括部とやらに、このまま徒歩で向かうのかしら? 随分と時間がかかっちゃう気がするけれど。
突然、アスクスが立ち止まり、洞窟の壁に手を当てて何かを操作し始めた。あ、トラップを作動させようとしている? 緊張しながらも、周囲に注意を配る。
『どうしたの?』
ルシアの心配そうな声が聞こえた。彼女は、アスクスたちに追い掛けられてから、ずっと<アテナ>の中にいる。そこが一番安全だからね。
「何かしようとしている……注意して」
『わかった。ルシア、注意する』
ほどなくして、アスクスが壁から離れると、小刻みな振動が伝わってきた。そして、ゆっくりと壁が内側へ……洞窟とは別の通路が現れた。
「こっちだ」
アスクスたちに促されて、新しい通路に足を踏み入れた。そこは、洞窟というよりトンネル、壁面が滑らかに加工されている。まるで、シールド工法で作ったトンネルのようだった。
ただし、灯りが一切なく、男たちがカンテラのような照明器具を点灯させてから、ようやく周辺の様子がわかるようになっただけだった。なんとも奇妙な……これも旧世界の遺産なのだろうか。だとしたら、洞窟の方が後付けってことになるわねぇ。
「おい、さっさと歩け」
「こちらへどうぞ、でしょ? 紳士は淑女をエスコートするものよ?」
「チッ!」
暗いトンネルの中をしばらくいくと、何か黒い塊が見えて来た。その正体は、近付く前からなんとなく気が付いた。
「車だ……」
外観は、地球の車に比べるとスマートさがないというか、弱そうな装甲車って感じだけれど、タイヤが左右に四個ずつついている。八輪車ってことね。
「驚いたか。バーリアントの叡智がひとつ、移動車だ」
明らかにバーリアントの技術じゃないでしょ、それにその名称もどうかと思うの。
移動車とやらは、二台あった。私たちが近付くと、自動的にドアが開いた。おースライドドアだ。
「さっさと乗れ」
「ほいほい」
<アテナ>を装着したままだと、乗り込むのは大変だったけれど、なんとか後部座席に乗り込んだ。私以外の男たちも、二台の車に分乗……なぜか、こっちの後部座席は私が独り占め状態だったけどね。ん? もし私が無力化されていたら、どうやって連れて行ったのだろう? まさか、車にロープ付けて引きずっていく、なんてことはないわよね? そこまで非道い奴らとは思いたくないなぁ。
車が動き出した。うん、乗り心地は悪くない。シートがちょっと堅いかな? <アテナ>の装甲越しなので、そう感じるだけかも。
「あれ? でも車のエンジン音が聞こえないわね」
『電動モーター駆動と推察』
私の呟きに、みくりんが反応した。
モーターかぁ。エスリー村にも電気はあったから、この車が電気自動者であっても不思議はないけれど。暗い中、ライトも点けずに走っているのはなぜ?
『そんなもの、自動操縦に決まっている。前方の席にいる奴らも、何もしていないだろ』
さっきまで畑を耕していたのに、今は自動操縦の電気自動者に乗っているなんて、変な感じ。
□□□
フェイスプレートを降ろして時計を確認すると、村を出てから三時間あまりが経過していた。トンネルは真っ暗なので、どのくらいのスピードで走っているのか分からないから正確な距離は出せないけれど、感覚的には東京~京都くらいかな?
ようやく車が減速を始めた。
「ようやく到着? で、ここはどこなの?」
「……サウサ方面を統括する中継都市、ニューサウスだ」
「なるほど、目的地って訳ね」
「そうだ。着いたぞ、降りろ」
ドアが自動で開いたので、そそくさと降りる。外に出て、うーんと伸びをした。ずっと座っていたので、身体が硬くなっちゃった。ついでに、ぐるっと周囲を見渡してみる。天井が高い。エスリー村よりも大きいドームね。ドーム中心の方には、ビルのような高い建物も見える。
「こっちだ。付いてこい」
男たちの後について、舗装された道路を歩いて行く。村とは随分違うな。
二、三分で、大きな門の前に付いた。門というか、検問所よね。武装した兵士が警備するなかを、男たちに囲まれるようにして歩いて行く。門の内側は、ちょっと広めの空間になっていて、百メートルくらい先にもうひとつの門が見えた。なるほど、エアロックみたいに二重になっているのね。あの門を潜れば、都市か。
「あっちの都市には、<解読者>がいるのね」
「何を言っている。<解読者>様たちが、このような辺境におわすわけがないだろう」
「ここにいらっしゃるのは、<地方統括官>様だ。直々に尋問されることになっている」
「え、尋問? あんたたち、まだ分かってないの?」
男たちが、ざっと後ろに下がって私から距離をとった。
「あの時は、不意を突かれただけだ。今度はそうはいかんぞ」
「大人しく、武器を捨てて投稿しろ」
やれやれ、懲りないなぁ。
「ふっふっふ。小娘、俺を馬鹿にした報いを受けるがいい」
アスクスが、下卑た笑いを浮かべながら現れた。そういえば、こいつしばらく顔を見なかったなぁ。なるほど、援軍を呼んだのね。
アスクスの後ろから、完全武装――といっても、自衛隊や米海兵隊のような装備じゃなく、金属製のヘルメットに胸当て肘当てという、なんだかちぐはぐな人たちだけど――の兵士が銃をこちらに向けてきた。そして、その後ろから現れたのは。
「戦車もあるのね」
戦車……うん、戦車よね。でも、私がイメージする戦車より小さい。キャタピラじゃなくてタイヤだし。さすがに砲塔をこちらに向けられると、気分が悪いんですけど。
「どうだ? どうやって銃弾を止めたのかはわからんが、これだけの集中砲火を浴びて無事にいられるかな?」
『サクラ?』
「んー、大丈夫よー、ルシアはもう少し我慢していてね」
『うん。ルシア、我慢』
さて、どうしようかな? と思ったその時、私を包囲している集団の後ろから、何か警告音のようなものが聞こえた。やがて、警告音とともに、包囲陣を割って現れたのは、金属の筒だった。ただの円筒じゃない、微妙に流線型を帯びた未来兵器みたいな感じ。それが、二台三台と増えていく。
バーリアントの兵器じゃないわね。これも旧世界の遺産? 竜の護りで守備は万全だけれど、こいつらの相手は少し厳しいかも。
「え?」
突然現れた謎の円筒が、私を取り囲んだ。そして、円筒の中から触手のようなものが飛び出したかと思ったら、なぜかやさしく拘束されていた。なんで? りゅ、竜の護りは?
思わず、指輪を嵌めている右手を見たけれど、<アテナ>を着ているので見えない。弾丸を止めた障壁は、どこへ行ったのよ~~っ!




