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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第四章

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ファーストコンタクト

 進むにつれて、私にも声が聞こえてきた。泣き声だ。それも、小さな子供の。誰だか知らないけれど、助けを求めているんだわ。急がないと。


『原住民との接触は慎重に、猪突猛進は感心しないな』


 そんな悠長なことを言っている場合? でも、みくりんの言う言葉にも一理ある。


「みくりん、<アテナ>の中にルシアを隠せる場所、あるかな?」

『ルシアとは、<アテナ>の近くにいる小型の生命体のことか? ふむ。呼吸は必要だろうし……よし、少し隙間を作ろう』


 両脇でモーターが動く振動がした、と思ったら胸のプレートが少し前方に動いて、私の身体との間にすきまができた。ここに入れろってことね。


「ルシア、狭いけれどここに入っていてくれる?」

「いいよールシア、ここに入る~」


 ルシアの身体が、私と胸部プレートとの隙間に収まると、再びプレートが動いてぴったり閉じた。


「苦しくない?」

「ルシア、大丈夫~」

『元々、プレートとの間に十分なスペースがあったからねぇ』

「うるさい」


 帰ったら、一発殴ってもいいよね?


□□□


 しばらく走っていると、徐々に周囲が明るくなっていった。外に出た訳じゃない。洞窟の壁が、あちらこちらで光っているようだ。


『苔のようなものが光を発しているようだ。興味深い。機会があったら、サンプルを採取して欲しい』

「機会があったらね。もうライトは消していいわ」


 <アテナ>のライトが消える。ライトなくても、十分明るい。


『前方で崩落があったようだ。原住民は巻き込まれたのだろう』


 洞窟の先の方に、苔の光よりも力強い、でも小さな灯りが見えた。あれだ。泣き声も大きくなっている。

(ザ・ホール)”出現後に設定されたマニュアルの手順に従えば、最初の接触(ファーストコンタクト)は遠方から相手に敵対しないような手段でと成っているけれど。


「あなた……だいじょうぶ?」

「うぇっ……ひやっ!」


 やっぱり驚かせちゃったか。


「ごめんね、おどろかせて。何もしないから、安心して」


 そこでハタと気付いた。言葉は、通じるかしら。見た目は、私たちや異界(インタタス)の人たちと変わらない。手脚が二本ずつ、頭があって目、鼻、口。どこから見ても、人間だわ。服の中に尻尾が生えていたりとか……ないわよね?


「うぅ……? おばちゃん、誰?」

()()()()は、サクラって言うの。あなた、お名前は?」

「メリラ」


 どうやら、この世界でも言葉は通じるらしい。教授の魔素駆動機関(マナドライブ)が動いた時点で、ここにも魔素(マナ)が存在することは分かっていたけれど、ちゃんと翻訳もしてくれるようだ。

私は、座り込んで泣いていたメリラの側で腰を屈め、できるだけゆっくりと話かけた。


「そう、メリラっていうのね。ね、メリラ。どうして泣いていたの?」

「う……お母さんが……」


 そう言いながらメリラが指さす方向を見ると、崩れた岩の隙間から脚が出ていた。崩落に巻き込まれたのね。


「メリラ、下がっていて」

「でも、お母さんが……」

「ん、わかってる。でも、岩が崩れると危険だから。あなたが怪我をしたら、お母さんも悲しむでしょう?」

「わかった……」


 卑怯な言い方だ。少し罪悪感を覚える。でも、小さな子供に、親の死体なんか見せたくないよね。


『メリラの母親は、死んでいないようだぞ』

「え?」

『微かだが、呼吸音が検知できる』


 まじか。生きているなら、助け出したい。私にできるだろうか?

 崩れた岩に近寄って、じっくりと観察する。岩を動かすことができれば、なんとかなりそう。


「この岩、どかせないかしら」

『どかせばいいだろう? なんのための<アテナ>装備だ?』


 忘れていた。<アテナ>は<ハーキュリーズ>と同じ強化外骨格(エクソフレーム)だった。武装はほとんどないけれど、出力は変わっていないはず。うん、やるだけやってみよう。まずは、この上の岩から――。


 ゴリゴリゴリ……


「ふんっがっ!」


 ドガッ!


 変な声が出てしまったが、岩をどかすことができた。中を覗くと、女性が倒れている。気を失っているようだ。ここからだと外傷は見当たらない。うまいこと、岩の直撃は避けることができたらしい。よし、後はこっちの岩を、こうして――ぬおっ!


「ねーねー、変な音が聞こえたけど大丈夫?」

「大丈夫よ、ルシア。あなたは苦しくない?」

「だいじょうぶー」

「もうちょっと我慢してね」


 メリラママの脚を挟んでいる岩を、ゆっくりと持ち上げる。


「どっせい!」


 大きな音を立てて岩が横に転がると、メリラママの全身が見えた。脚の所が少し出血しているみたい。その後、二、三個の岩を持ち上げては横にずらしていって、ようやく彼女を助け出すことができた。


「ママーッ!」


 メリラが、母親にしがみついてワンワン泣き出した。

 私は、メリラママの脈を確認し、<アテナ>の救急キットから傷薬とガーゼ、包袋を取りだして止血した。骨折している可能性もあるけど、私は医者じゃないのでわからない。少なくとも骨は飛び出していない。触ったら分かるものなのかな?


「メリラ、おうちはどこ? お母さんをお医者さんに見せないと」

「えぐえぐ……あっち」

「わかった。えらいね、もう少しだけ我慢してね」


 気を失っている人を運ぶのは、結構大変だ。たとえ力が何倍になっていても。私は、メリラママの身体をそっと持ち上げると、メリラの案内で出口に向かって歩き出した。


□□□


 歩き出してすぐに、前方から人の声が聞こえてきた。


“メリラー! エスター!”

“どこだーっ、声を出してくれー”


 メリラママは、エスターあるいはエスタという名前らしい。よかった、探しに来た人たちがいる。さて、私はどうしよう。しかし、ここで接触を避けても今更よねぇ。えぇい、虎穴に入らずんば虎児を得ず。別に虎の子供は必要ないけど、飛び込むしかないっ。


「メリラ、誰かがメリラたちを呼んでるわ」

「えっ?」


 メリラには、聞こえなかったらしい。<アテナ>のセンサーは優秀だわ。


「もう少しで聞こえると思う。返事してみて」

「うん」


 メリラはちっちゃい身体を思いっきり反らし、大きく息を吸って叫んだ。


「ここーっ! わたしは、ここにいるーっ!」


 洞窟の中で、メリラの声が木霊する。これなら、きっと聞こえる。その証拠に、メリラたちを呼ぶ声が一瞬、止まった。


“メリラーッ! メリラなのかーっ! 今、そっちに行くから待ってろーっ”


 やがて、前方に数人の人影が見えた。慌てて駆け寄ってくる……が、メリラの隣に立っているのが、メリラママではなく私だと気が付いて。


「な、なんだ、キサマはっ!」

「メリラとエスタを放せ!」

「待ってください。こちらには敵対する意思はありません」


 杖代わりに使っていたのだろう木の棒や、ツルハシやスコップのような道具を構える男たち。そこへ、「おじさんたち、やめてっ! サクラはママを助けてくれたんだよっ!」と、小さな英雄が立ち塞がった。男たちは五ポイントのダメージ!


「メリラ? 何を言って……?」

「みなさん、どうか落ち着いて。()()通りかかったので、倒れていた彼女を助けただけです」


 偶然というのは、広い目で見れば間違っていないけれど、自分で言っていて胡散臭いなぁ。案の定、男の人たちは半信半疑だ。


「まずは、メリラのお母さん、エスタさんをお医者様に見せないと」


 私に抱えられているエスタさんに気が付いたのだろう。男たちの中のリーダーと思われるひとが、「とりあえずエスタの治療が先だ」と言ってくれてその場は収まった。


 こうして私は、エスリー村に滞在することとなった。


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