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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第四章

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異世界転移?

「……んんっ、もう……うるさいなぁ……」


 ピーピーという音が、私の耳元でなっている。いったい何よ……って! 目を開くと、視界の右下に「Low Battery」の文字がピカピカ光っている。あぁ、そうだ。私は紫色の光に包まれて。気を失っていたのか。


 慌てて警報音を切って、<アテナ>装備のフェイスプレートを跳ね上げる。真っ暗だった。


「ライト、オン」


 ヘルメットに内蔵されたライトが周囲を照らす。黒や茶色の岩が、光を反射した。どうやら洞窟の中のようだ。


「一体、何が……」

「起きたー? ニンゲン」

「うわっ! えっ、ああーっと、妖精さん?」


 私の顔の前に、小さな人がフワリと現れた。デラ・バウを追い詰めたところに現れた、妖精さんだ。妖精さんが、小さな口を開く。


「ルシア」

「え?」

「ルシアだよ。ヨウセイなんて名前じゃないよ」

「あ。ご、ごめんなさい。ルシア、ね? 私は、桜よ」

「サクラ? ルシアとサクラ、サクラとルシアーハハハハッ」


 何が面白いのか、ルシアは笑いながら飛び回る。うーん、疲れないのだろうか。そもそも、どうやって飛んでいるのだろう?


「ねぇ、ルシア。あなた、ここがどこだかわかる?」

「えっと、洞窟?」

「いや、そうじゃなく。最初に会った場所から、どのくらい離れているのかしら?」


 ちょこんと、文字通り小首をかしげて考えるルシア。あらやだ、可愛い。


「離れている? 違う、えっと、えっと……そうだ、世界! 世界が違うの!」

「それって……ここが異世界って、こと?」

「そうそう。どこからは知らないけど、別なの」


 異世界って……確かに“(ザ・ホール)”が発見されて、こうしていくつもの世界が実在することは知っているけれど。“(ザ・ホール)”を潜った感覚もなかったし、ルシアの言葉を鵜呑みにするのはどうかとも思うけれど、なんとなく感覚的にここが別の世界であることは腑に落ちてしまう。なんだか、常識の(たが)が壊れかけている気にもなる。

 私が思考の迷路に潜り込みかけた時、再び警告音が鳴った。フェイスプレートを上げたままだから表示は見えないけれど、たぶんバッテリー切れだ。ちょっと心細いけれど<アテナ>装備を外さないと。でも、持っていくには(か弱い私の細腕には)重すぎるから、ここに放置することになる。うー、国の財産なのよねぇ。後で会計監査とかで怒られるかも。しょうがないよね、緊急事態だもの。


『電圧低下および孤立状態を確認。これより異常事態モードに移行』


 いきなり、女性のアナウンスが耳元のスピーカーから流れてきた。移行って、なに?


『補助システム、起動。確認。自己診断(ダイアグノーシス)開始、実証(ベリファイ)完了。魔素駆動機関(マナドライブ)起動を確認』


 <アテナ>のバックパックがヒュンヒュン言ってる。なにこれ? 


『あーあー、テステス。突然のことで驚いていることと思うが、まずは安心して欲しい。緊急事態に備えて“こんなこともあろうかと”用意していたモードが起動した()()だ』


 この声は……御厨教授!


『バッテリー切れを確認したので、魔素駆動機関(マナドライブ)を起動した。これで<アテナ>が停止することはない。魔素(マナ)()()()()()()()ね。あ、それから、私は装着者を補助するAIだよ。“みくりん”と気軽に呼んでくれ給え』


「みーくーりーやーっ!」

 なにが“みくりん”だーっ! やりやがったな、マッドサイエンティストめっ。勝手に<アテナ>を弄ったのね。それに、魔素駆動機関(マナドライブ)の研究は停止させたのに。


『あーそれから、魔素駆動機関(マナドライブ)は御厨ではなく、ビーが小型化したので、非難は当たらないよ』


 バッテリー切れを心配しなくても良くなったのはいいけれど、私の装備に何を勝手に入れているんだか。帰ったら、きっちり文句言ってやる。帰れたら、だけど。


□□□


 いつまでもこの場所でじっとしている訳にもいかないので、行動を起こすことにした。()()|だけに。


 ……親父ギャグは、聴く能力が衰え始めた証拠だと、詩が言っていたけど、こんな状況なんだからしかたない。

 右か左か、どちらへ進む? 


「ねぇ、ここを離れようと思うのだけれど、ルシアはどうする?」

「ルシア、サクラと一緒に行く」

「そう。じゃぁ、どっちに行けばいいと思う?」

「わかんない」


ルシアに判断を委ねるのもアレね。

微かではあるけれど、風の流れがあるので、風上を目指すことにした。ルシアには、肩に乗ってもらった。


勝手に装備を弄ったことは問題だけれど、それでも御厨教授のお陰で<アテナ>装備は動いているし、いざとなれば“竜の護り”が……って、そういえば、なんであの紫の光からは護ってくれなかったのだろう?

 歩きながら考えるに、あれが迫田さんを狙ったもので、私を狙った――私に対する害意はなかった――からではないだろうか。意外な落とし穴ね。これから気をつけないと。とはいえ、同じ状況になったら、やっぱり同じ事をしちゃいそう。しなかったらしなかったで後悔するだろうし。


 そんなことを考えながら、洞窟を歩いて行く。できれば、出口に向かっていて欲しい。風が吹いているってことは、空気の流入口があるってことで、外に通じているはずだけれど、散々歩いて辿り着いたところが、昇ることもできないような穴の底だったなんて洒落にもならない。……いけない、なんだか考えが悲観的になっている。大丈夫。なんとかなる。がんばれ私。


 フェイスプレートの時間表示(もはや意味はない)が、目覚めてから一時間経ったことを示している。力をサポートしてくれる<アテナ>であっても、歩きにくい洞窟の中なので、距離としては四キロいってない気がする。しまった、目覚めた場所にマーカーでも置いてくれば良かった。ビーコンを出す発振機は、何種類か持っているのに。


「サバイバル訓練、受けとけば良かったなぁ」

「サクラ、何か言った?」

「うん、訓練を受けておけばよかったなぁって」


 蓬莱村では、自衛隊によるサバイバル訓練が定期的に行われている。以前より安全になったとはいえ、何が起きるか判らないし、今後、村の外で生活する人が出てくるかもしれない。万が一に備えて、最低限の装備でも生き延びられる知識を得るための訓練だ。でも、私は忙しさを理由に(本当に忙しかったのだけれど)、サバイバル訓練には参加してこなかった。


「訓練?」

「こうした状況に対応するために、あらかじめ似たような状況で練習するの」

「へぇ、おもしろそう。ルシアもやりたい」

「そうね、戻ることができたら、一緒にサバイバル訓練しましょう」

「♪サッバイバルゥ~ ♪サッバイバルゥ~ 訓練、訓練、サッバイバルゥ~」


 変な節を付けて歌いながら、ルシアは私の周りを飛び跳ねている。思わず笑みがこぼれた。あぁ、ルシアの明るさに救われるわ。もし、私一人で飛ばされていたら、どうなっていたか。


「ん?」


 急に空中で止まったルシアが、両耳に手を当てて耳をすますようなポーズを取った。


「どうしたの? ルシア?」

「気をつけて、何か来る」


 ルシアの言葉と同時に、小さな振動が伝わってきた。地震? 


「ルシア、しっかり掴まって」


 (私にしては)すばやく身を低くして構える。振動は徐々に大きくなり、やがてゴゴゴという地鳴りに続いてドン! という衝撃が伝わってきた。


「きゃっ! なになにぃ~」

「落ち着いてルシア、大丈夫だから」


 大丈夫かどうかは知らないけれど、日本人の私はある意味“地震慣れ”している部分がある。洞窟の中で地震に遭遇するのは初めてだけれど、そんなに大きな揺れじゃない。震度でいえば――三くらい?

 いきなり天井が崩落したりしない限り、死ぬことはないでしょう。なんて思ったら、天井からパラパラと小石が落ちてきた。肩に乗っているルシアの上に手をかざし、そっと守る。


 揺れは、それほど長くは続かなかった。よかった、崩落はしなかったみたい。


「ルシア、怪我はない?」

「うん、ルシア怪我してないよ。でも、びっくりした~」


 さて、と立ち上がり、再び歩き出そうとしたとき。


『みくりんからお知らせだよ。人の声を感知したよ』

「え? どこから?」

『向かっている先からさ。距離は反響しているので、よく分からないな。リソースを分けてくれたら計算するけれど。ちなみに、泣き声みたい』

「そんなの、行ってみれば分かるわ。ルシア、走るからちょっと揺れるわよ」

「ルシア分かった~」


 どちらにせよ、先に進むつもりだったんだ。私は全速力で走りだした。


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