海上の白兵戦
「対抗勢力、いぜん進路速度ともに変化無し」
<らいこう>が霧に突入しても、ガ=ダルガ艦隊に変化はなかった。つまり、相手は、私たちを補足できていないということ。霧の中で<ノルム>が攻撃されたのは、使用した魔法が探知されたからではないかという、沢渡一尉の推測が裏付けられたみたい。
顔を海図が表示されているテーブルに向けると、自動的に<らいこう>の位置とガ=ダルガ艦隊の位置が表示された。あら、便利。みるみるうちに、<らいこう>は敵艦隊の間をすり抜けた。
「よし、回頭! 手近な艦から狙っていけ」
三島艦長の指示に従って、<らいこう>は旋回する。これで、相手の背後から近付く形になった。
『こちらCIC。目標捕捉。いつでも行けます』
「よし。タイミングはそちらに任せる。着弾を確認後、次の目標に移る」
『投射砲、一番、二番、発射、いま』
レールガンの発射音は、艦橋まで届かない。マップには、<らいこう>から伸びた光の筋が、敵艦に後ろから追いついていく様子が表示されている。
『着弾確認』
着弾した音も聞こえなかったが、明らかに相手の速度は落ちた。進路もブレ始めている。
「よし、次だ」
こうして、<らいこう>はガ=ダルガ艦隊、五隻の推進力を破壊した。
そう、五隻。たった五隻でしかなかったのだ。彼らは、数の不利を霧という目隠しによって補っていたわけだ。前回、帝国が大損害を受けた海戦でも、あちらは追撃しなかったんじゃない、できなかったんだ。
霧は人の目からガ=ダルガ艦隊の姿を隠すことはできても、レーダーから隠れることはできなかった。私たちは、邂逅した時点で相手が五隻しかいないことを、レーダーによる探知で知っていた。だからこそ、一隻一隻を狙っていくなんて作戦を実施することができた。本当に三十隻以上の艦隊に、単艦で突っ込むなんて無茶はしない。……しないよね?
「対抗勢力艦隊、停止を確認」
<らいこう>は、艦艇の機関部をピンポイントで攻撃、その推進力を奪うことに成功した。相手も驚いているだろう。これまで敵を霧の中に誘い込んで、ボコボコにしてきたのに、今は逆に見えない敵から攻撃されているんだから。これで戦意を喪失してくれると、うれしいんだけどなぁ。
「対抗勢力、砲撃を開始しました……が、本艦の位置を把握している訳ではないようです」
相手は見えないけれど、数を撃てば当たるって思ったのね、きっと。でも、こんな風に艦隊を組んでいる状態で、周囲に向かって攻撃したら……。
「どうやら同士討ち状態になっているようです。本艦は、少し離れて様子を見ます」
「結構です。あ、一番大きな船の位置を把握しておいてくださいね」
「やらせています。二○○メートル級の艦艇を確認しています。これが旗艦でしょう」
やがて、ガ=ダルガ艦隊も全方位攻撃の愚かさに気が付いたようで、砲撃は止んだ。よし、これからが「スモーク・オン・ザ・ウォーター作戦」の仕上げだ。
「旗艦とおぼしき船に接近する。装甲板、上げ。<ハーキュリーズ>およびEH-3は、展開準備」
相手の船に乗り込んで、親玉を抑える。リスクは大きいけれど、一気に紛争を終わらせることが出来るかも知れない。
「対象まで、距離一○○を切りました」
「どてっぱらに突っ込め」
大きさだけでいえば、相手の船は<らいこう>の倍はある。でも、一部を鉄で補強されているとはいえ、相手は木造艦だ。しかも、こちらは安定性抜群の三胴船に強固な装甲を装備している。日本と帝国の技師や職人が作り上げた<らいこう>の強度に、相手は抵抗できないだろう。
「対象より、砲撃再開されました」
さすがにこの距離なら、気が付くか。でも遅かったみたい。ドーンという激突音に続いて、メリメリと木がしなる音が伝わってくる。
「ワイヤーアンカー発射。前方装甲板展開、<ハーキュリーズ>は各個の判断で突入せよ」
ヘルメット内のディスプレイには、AからGまで7組の<ハーキュリーズ>がリストアップされている。延ばした指で操作し、アルファリーダーのカメラを呼び出す。傍から見たら、何もない空中で腕を動かしているだけだから、結構間抜けな構図よね。
空中に投影された(ように見える)カメラ映像は、ガ=ダルガ艦の甲板の様子を映していた。もう、飛び移ったのね。すばやいなぁ。運動神経に自信のない私には、できない芸当ね。
船の甲板に降り立ったアルファリーダーのカメラが、艦橋らしきものがある船体後部へと移動しながら、すばやく前方から後方を舐めるように写してくれる。船首と船尾の方に見えたのは、機銃?
その機銃らしきものが、<ハーキュリーズ>に向かって弾を撃ち出した。危ない! と思ったけど、誰にも当たらない。機銃みたいに見えたものは、連射が効かないようだ。こうなると<ハーキュリーズ>の的じゃない。アルファリーダーの指示で、機銃を操作していた人が無力化される。
ほっとしたのもつかの間、今度は船の中から武器を手にした男たちが現れた。剣に槍、あれは銃? あれが、迫田さんの報告にあった蒸気で発射する銃か。日本人には少し大きすぎるけど、ガ=ダルガ人にとっては問題ない大きさみたい。あ、後ろから火の玉も飛んできた。魔法を使う人もいるのね。<ハーキュリーズ>は、非殺傷武器しか装備されていない。大丈夫だろうか……信じるしかない。
視線を戦場カメラから、目の前のテーブルに移すと、表示はすでに海図からガ=ダルガ旗艦の投影図に変わっていた。ドローンと<ハーキュリーズ>からの情報から構築された図だ。<ハーキュリーズ>の位置は、光点で表示される。Cチームは、操舵室を目指して船内を移動中か。
アレ? この点は何? タップしてみると、“R”と“F”のアイコンがポップアップした。私は、慌てて通信をつなぐ。
「ルート! なぜそんなところにいるの! しかも、グ・エンと一緒にっ」
『サクラ。君からの指令は、グ・エンを護ることだ。一方、グ・エンの依頼は戦闘を終了させることだ。双方の希望を叶えるべく、私は動いている』
「そこは危険なの、すぐに戻って」
『リスクは計算した。問題ない。グ・エンの安全は確保されている』
あー、もーっ! 冷静に聞こえるのが腹立つわっ!
「そこで、何するつもり?」
ルートとグ・エンは、操舵室へ向かっていた。ちょうどCチームが制圧を完了したところだ。
『降伏勧告だ』
ルートの返事で、私はカメラをチャーリーリーダーにスイッチした。カメラには入り口から入ってくる、ルートとグ・エン。その姿は。
「御厨教授の悪ふざけね」
『サクラ。何を指しての言葉かは理解できる。決して悪くはないぞ』
いや、あの人が喜んでやりそうなことだもの。人型ロボットの中に、人を入れることができるようにするなんて。
『君たちの装備と変わらないだろう?』
ルートのその意見には賛同しかねるわ。確かに正面から見ると、グ・エンが外骨格強化服を着ているようにも見えるけれど、余った部分は背中側に張り出して、まるで荷物を背負っているみたいじゃない。
『えーと、すいません。艦内に声を伝える装置があると思うんですが』
ルート、ではなく、ルートに包まれたグ・エンが、Cチームのメンバーに問いかけていた。彼は、「おそらくアレかと思います」と言って、伝声管のようなものを指さした。
『サクラ、グ・エンの言葉を<ハーキュリーズ>の外部スピーカーに中継してくれないか』
「わかったわ」
グ・エンには、飛び出す前に一言いって欲しかったけれど、今更だから後回し。<アテナ>に搭載された管理者権限を使って、ルートのマイク入力を<ハーキュリーズ>の外部スピーカーに接続した。
『ガ=ダルガの民よ。グ・エンから最後の願いを。今すぐ武器を捨て抵抗を止めて欲しい。すでにエンジンは失われ、操舵室も日本が確保した。これ以上の犠牲は無意味だ。私は、同胞の血が流れるところを見たくない……』
いや、できるだけ流血沙汰は避けてきたつもりですけど。
でも、ドローンを使った時と違って、今回は効果があったみたい。艦内での抵抗がなくなっていったと報告が上がってきた。
サブタイトル付けたときには、もっと甲板での攻防戦とか書いていたんですが、シンプルに書き直してしまいました。付け直すにもアイディアがないので、サブタイトルはそのままで。次回、後始末と……あれ? 敵の首領は?
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