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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第三章

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DIMOからの支援

「ロバート・ウッドマンだ。よろしく」

「阿佐見桜です。こちらこそよろしくお願いします」


 握手した手は軍人の手だった。ごつくて大きい。白髪交じりの短髪も、軍人の雰囲気を醸し出している。DIMOから派遣された戦略アドバイザーで、本来なら一ヶ月ほど前には異界(こちら)を訪問する予定だったのだけれど、日本で起きたトラブルのせいで遅れていた。日本で起きたテロの話は、耳にしている。というか、こっちも巻き込まれたしね。


「こちらは、御厨教授。私たちの科学顧問みたいな顔しています」

「桜クン、私にだけ毒を吐くのを止めてくれないか。御厨だ、よろしくミスター・ウッドマン」

「よろしく。貴女の噂は耳にしているよ」

「フム、良い噂であることを願うよ」


 蓬莱村にある事務棟の会議室は、三階建ての三階部分にあり、仕切りを取っ払えば百名くらいは入る部屋になっている。が、そんなに広く使ったことはない。外でやる方が簡単だから。

 今、その小さな会議室に、私と御厨教授がウッドマンさんを迎えていた。彼と一緒にDIMOから三人来たけれど、そちらは迫田さんの友人ということで、彼に任せている。


「輸送用石油タンクに仕掛けられた爆発物を、教授(あなた)が見つけたそうじゃないか」

「アレは私じゃないよ。私の弟子が見つけたんだ」


 本当に、あれは偶然だった。御厨教授がビーに“日本の技術”の一端を教えようと、“(ザ・ホール)”から到着する石油タンクを見せていたときに、ビーが魔素(マナ)の流れがおかしいと言い出したのよね。それで、異界(こっち)の人も呼んで調べてみたら、起爆装置が見つかったという、本当に冷や汗ものだわ。


「いや、良くできているよ」とは、起爆装置を解析した御厨教授の言葉だ。タンクの下から発見された()()は、小さな爆発を起こす爆薬と起爆装置を組み合わせたもの。


「サーモスタットに似た構造だね。異界(こちら)に来ると魔素(マナ)に反応して回路が接触、ただし、異界(こちら)では爆発は起きない。日本(あちら)に戻ると今度は点火装置に電流が流れて、ボン! という仕掛けさ。何しろタンクには石油が満載されているんだ。小さな爆発でも、タンクは誘爆する。それだけで巨大な爆弾みたいなものさ」

「ちょっと待って、魔素(マナ)に反応するって……」


 日本、いや地球上では、魔素(マナ)に反応するような物質は見つかっていない。そんな物質があるとすれば。


「あぁ。魔石が使われていたよ。といっても、ほんの欠片だけどね。小さな金属片を変形させるだけの簡単な土属性魔法だからね」

「でも、魔石は入手できるとして、そこに組み込む術式はどうしたのよ」


 魔石による魔法の発動には、魔法を組み込んだ術式が必要だ。たとえば、私たちが頻繁に使っている結界の魔法は、いくつかの魔法が組み合わされた複雑な術式が書き込まれている。簡単な術式とはいえ、それをあちらの人間が行うことはほぼ不可能だ。


「そうだよねぇ、それが不思議だよねぇ。ということで、調べてもらったよ」


 犯人、というか答えは簡単だったらしい。術式を書き込んだのは、留学中のカイン王子だった。なんでも、友人を作るべく奮闘中の王子が、請われるがままに魔法を組み込んだ魔石(の欠片)をばらまいているらしい。……頭が痛い。

 カイン王子には注意が行くだろうけれど、こちらでもヘルスタット王に事情を説明しない訳にはいかないだろう。それ以上に問題なのは、彼の周りにスパイが忍び込んでいるってことよね。対策はお願いしていたけれど、十分じゃなかったか。ま、過ぎたことは仕方ない。

 大切なのは、破壊行為を未然に防ぐことができたことだ。


「そんなわけで、ウッドマンさんには、こちらの警備体制へのアドバイスももらいたいのですが、とりあえずは――」

「ロバートで構わないよ。ふむ。ガ=ダルガへの対応策だね、ミズ阿佐見が求めているのは」

「私の方も、サクラでいいですよ、ロバート。えぇ。こちらに資料を用意しています」


 ロバートは、私と御厨教授とで用意したそれほど多くない資料を読みながら、いくつか私や教授に質問をし、グ・エンへのインタビューもしたいと言った。そちらは、明日にでも調整しよう。


「数日後には、いくつかのシナリオと取るべき対策を提示できると思うよ」

「ありがとうございます。この部屋は自由に使っていただいて構いませんから」


□□□


「桜さん、お久しぶりです」


 ロバートとの面談を終えた私は、事務所で懐かしい人物と再会した。


「日野二尉、じゃない日野さん、元気そうでなによりです」


 かつて、陸上自衛隊の一員として蓬莱村に駐留していた日野二尉は、現在DIMOで働いている。ロバートたちと一緒に来なかったのは、あちらでのゴタゴタを始末していたからだ。


「DIMOは日本の法執行機関じゃありませんから、手続きとかいろいろあって。()()の搬入が遅れたってこともありましたが」


 そういって彼女が示したタブレットには、今回彼女が持ち込んだ資材の一覧が表示されていた。


「新しい《ハーキュリーズ》、私たちは《ハーキュリーズ・ネオ》と呼んでいますが、以前の装備を強化・拡張した装備になります」

「心強いわ」


 何しろ、機器が差し迫っているのだ。守る力が増える分には大歓迎だ。


異界(こちら)に長く居られるのでしょう?」

「いえ、新装備のレクチャーをしたら戻らないと。滞在できるのは四日間くらいですね」

「それは残念だわ」


 それなら、今のうちに聞いておこう。


「で、彼とは上手く行っている?」

「彼?」

「やだ、ムラタさんよ」


 そう、マイク・ムラタを追って、彼女は自衛隊を辞めたのよね。


「あー。まぁ、ぼちぼちです」

「なんだか歯切れが悪いわね」

「実は、まだ相手の気持ちを確かめていません」

「え? もしかして、まだ告白……」

「……していません」


 勇猛果敢な日野さんらしくないわね。


「いいんですよ、今は傍にいられるだけで」

「ふぅ~ん」


 あんまり、人の恋愛に首を突っ込まない方がいいかな。


「そうだ、まだ詩の子供に会っていないでしょ? 今から時間ある?」

「もちろん。音川さんに似てかわいらしいのでしょうね」

「そうよ。会った人、全員メロメロになっちゃうんだから」

「それは楽しみ」


 そして、私の予言通り、日野さんも律ちゃんにメロメロとなったのでした。



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