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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第三章

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標的、日本

 中東で、日本をターゲットにした会合が行われてから一週間後、場所は都内へと舞台は移る。


高度な対傍聴システムが施された会議室に、二十名ほどの人間が集まっていた。窓のないこの部屋では今、外務省の報告が終わった。


「その情報の信頼性は、どれほどのものなのかね」


 苦虫を噛み潰したような表情で、内閣官房長が外務事務次官を問い質した。


「信頼性は高い、と思われます」

「長官。こちらの情報源(ライン)からも、同様の連絡が来ております」


 官房長が、発言者である防衛省統合幕僚長に鋭い視線を送った。定例記者会見で見せるような温和な表情とは別の顔だ。防衛省のラインということは、他国の軍事組織、軍情報部からの情報ということだ。果たして、それを信じて良いのか? 官房長の視線はそう問いかけていた。だが、幕僚長も叩き上げでここまできた人間だ。視線ぐらいでは怯まない。


「米軍にも、それとなく確認しております。あちらも対応策を考案中とか。日本(こちら)のプラン次第では、協力するに(やぶさ)かではないとのことです」


 ふぅ、と大きなため息をつきながら、官房長が椅子に背を預ける。


「まったく、なんてことだ」


 日本にもたらされた情報とは、“日本を標的としたテロが起きる”というものだった。しかも、カルトや過激派のような国内組織ではなく、複数の諜報機関がバックにいるテロ組織による計画なのだという。


「異世界会議が標的か……」


官房長の呟きに、大半の人間が首肯した。十日後には東京で“(ザ・ホール)”に関連する国々のトップ会談が予定されているのだ。各国要人のみならず、“(ザ・ホール)”の専門家、物理学者や社会学者も集まることになっている。

会議の“次元裂孔現象に関わる諸問題をテーマとした会議”が正式名称だが、通称は「異世界会議」と呼ばれている。くちさがない人間は、「穴会議」などと呼ぶ。


 だが、外務省異界局局長、江田茂は別の意見だった。


「お言葉ですが、()()には会議を妨害する動機がありません。今、東京で用心や専門家を亡き者にしても、利はありません。情報通りであれば、テロの標的は“(ザ・ホール)”そのものではないでしょうか。むしろ、会議を目くらましに使っている可能性もあります」

「江田君。“(ザ・ホール)”は破壊不能だろう? それに、周囲三キロを管理区域にしている場所で、テロは起こせんだろ」

「いや、しかし……」

「テロの目的は恐怖を与えることだからね、狙うなら重要人物の方だろう」


 官房長に否定されてしまったら、江田はそれ以上抗弁することはできなかった。そして、異世界会議を狙ったテロが計画されているという前提で、警察庁が主軸となった警備計画が作られることになった。具体案は、後日行われる実務者会議で決定される。


□□□


 会議後外務省異界局に戻った江田は、DIMOのジョン・バーナード長官とテレビ会議で話し合った。驚いたことに、DIMOにもテロの情報が伝わっていた。そのことが、江田の疑惑を深めることになった。情報が、広がりすぎなのだ。やはり、会議を狙うと見せかけて、本当の目的は別なのではないか。

 しかし、証拠がない。警察も自衛隊も、東京での警備に人員を割かれるため、異界局が使える手駒は多くはない。そこで、江田はDIMOに協力してもらうことにした。


『注視しているが、“(ザ・ホール)”が一因とはいえ、我々にもテロ捜査に口を挟む権限はないのだよ、シゲル』

「それは分かっている、ジョン。エージェントを派遣してもらえただけでも十分だよ」

『”(ザ・ホール)”の先に派遣する、という名目であれば、エージェント派遣に何の問題もないな』

「あぁ。異界(あちら)に行く前に、少し仕事をしてもらうことになるがな」

『彼らなら、大丈夫だ』


 こうして、クリスたちが日本へとやってきたのだった。


□□□


 ――国際会議当日。


 会議が開催される東京都内は、厳戒態勢の下、ヒリヒリするような緊迫感に包まれていた。政府は、都民に対し不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。交通規制の引かれた東京駅周辺は、自衛隊の装輪装甲車まで登場し、さながら戒厳令下の様相を帯びていた。


 そんな状況にあっても、経済活動を止めるわけにはいかないとばかりに、サラリーマンたちは会社に出勤する。ラッシュアワーには、普段より少し空いているかな? 程度の混み具合なのだから、日本人は勤勉というべきか、脳天気というべきか。


 警視庁の大講堂に設置された指令センターには、会場周辺の状況や会議参加者の動向、警護の進捗などが集約され、共有されていた。


「来ますかねぇ」

「いやぁ、いくらなんでも。ビビってできないんじゃないの?」


 指令センターに詰めている捜査官であっても、あまり緊張感はないようだ。それを目にしたベテランの捜査官が彼らに話しかけた。


「なにを不抜けたことをいっているんだ。お前たち若い者に実感がないかも知れないが、あのカルト集団が起こしたテロを忘れたのか? 直前に松本で騒ぎが起きていたのに、誰一人として東京でテロが起きるなんて考えてもいなかったんだ。だがどうだ、実際にテロは起きて大きな被害を出した。

テロなんてやると決めた奴は、どんな状況だってやる。俺たちは、それを命がけで止めなきゃならん。でなけりゃ、あの悲劇をまた繰り返すことになる」

「……はい」

「すいません。自分、たるんでいました」

「今日一日だ。頑張っていこう」

「「はい!」」


 その時だった、センター内に警告音が響き渡ったのは。


『至急、至急。山手線渋谷付近を走行中の車内にて、異臭騒ぎ発生。現在、数名の乗客が病院へ搬送中。なお、異臭の発生源はペットボトルに入った化学物質と思われる。成分は不明。繰り返す……』

『横浜市のショッピングモールから緊急通報。館内にいた買い物客数十名が、一斉に昏倒。何らかの薬品が……』

『日本橋首都高橋桁に、爆発物らしき物体を発見の報あり。付近の住民を……』

『錦糸町交番より入電、不審な車両が煙幕のような煙を撒きながら逃走中との……』


 大量の連絡によって、それまで静かだった指令センターが、一気に騒然となる。


「同時多発テロ……」

「まさか、こんなことが」

『落ち着けーーっ!』


 巨大モニター前に陣取っていた指揮官の一人が、拡声器を使って怒鳴った。


「惑わされるな! 第一に正確な状況確認! 付近の警官を向かわせろ。救急と連携して人命優先で事に当たれ」


 はい! と一斉に声があがる。捜査官たちは、一気に冷静さを取り戻した。


「いいか! この騒ぎは陽動の可能性もある! 改めて警護対象から目を離さないよう、現場に通達しろ!」


 この予想は半分正解で、半分は間違っていた。


□□□


 数時間前、東京近郊から出発した四台のワゴン車は、それぞれ別々のルートを通りながら、北へと向かっていた。途中何カ所かで停まり、何かの物資や人を積みこみながら、目立たないように走っていたが、乗っている人間が中東系の顔立ちをしていたため、いやでも人目に付いた。本人たちは気が付いていないが。


 やがて、四台の車はとある山中で集合した。そこは、“(ザ・ホール)”のある福島ピットからそれほど離れていない場所だった。周囲三キロは管理地域に指定されているものの、立ち入り禁止というわけでもなく、地元の人間が使うような山道にこうして侵入することも容易(たやす)かった。ただし、福島ピットの周囲一キロには、フェンスが設置されており、許可された人間しか入ることはできない。


 車から降りた者たちは、車から荷物を降ろした後、緑と茶をベースにしたデジタル迷彩服に着替えた。そして、ケースからアサルトライフルや拳銃を取りだし、装備し始めた。手榴弾まである。

 彼らが準備を終えた頃、山の上から三人の男が滑り降りてきた。やはり迷彩服を身に纏っている。


「準備は?」

「問題ない」


 日本語ではない言葉で短い会話をした二人のうち、山から下りてきた男が、もう一人の男にタブレット端末を渡した。どうやら、渡された方の男がリーダーのようだ。

 リーダーが電源を入れると、画面が明るくなって風景が映し出された。福島ピットが見える。


「よし」


 リーダーが、腕時計を見る。


「そろそろだな」


 その場にいた全員が頷く。あと少しで、福島ピットの()()()爆発が起こる手はずになっている。どうやって爆破するのか、彼らは知らない。それは別部隊の仕事だからだ。彼らの仕事は、爆発を確認した後、混乱に乗じて福島ピットに突入、その場にいる全員を殺し、さらに別の爆薬で施設を破壊すること――“(ザ・ホール)”自体は破壊できなくとも、その周囲の施設を破壊することで“(ザ・ホール)”に蓋をするのだ。放射性物質を散布する計画もあったが、そちらは日本への搬入経路が確保できなかったため見送られた。その代わり、地雷や遅延式の爆薬を設置する予定になっている。迂闊に近付けば地雷が炸裂し、時間差でも爆発が起きて二次被害、三次被害を引き起こす計画だ。

こうすれば、少なくとも数ヶ月、上手くすれば一年以上、“(ザ・ホール)”を使用できなくできる。彼らが知っているのは、そこまでたがそれで十分だった。


「本当に爆発するのか?」

「日本人は時間に正確だからな」


 そして、数刻が経った。


「おい、おかしくないか?」

「なぜだ? なぜ爆発が起こらない?」

「見ろ、タンクローリーが出てきたぞ」


 計画では、異界の石油を満載したタンクが、中で爆発することになっていた。だが、爆発するはずのタンクは、トレーラーに載せられ福島ピットから出て行こうとしている。


「くそっ! 失敗か!」

「どうする?」


 リーダーが迷ったのは、一瞬だけだった。


「こうなれば、我々が突入して施設を破壊するしかない。みな、車に乗れ。“アッラーは偉大なり(アッラーフ・アクバル)”」

「“アッラーは偉大なり(アッラーフ・アクバル)”」


 テロリストたちが動き出す。自らの命を差し出しても、与えられた任務を成功させる。幸い、警備の人手は少ない。今なら、まだ――。


「そうはいかない。全員、動くな(freeze)


 声は、空から降ってきた。



終わらなかったorz あと一回、日本でのお話が続きます。

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