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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第三章

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幕間 命を祝う

 蓬莱村は、にわかに活気づいていた。


 妊娠していた音川村長が突然倒れたという衝撃のニュースが流れ、半日過ぎたあとに女の子が生まれたという嬉しいニュースがもたらされたのだ。

 ただの子供ではない。これまでにも、何人か村の中で生まれている。が、それは異界(こちら)に移住してきた日本人同士の間で生まれた子供だ。しかし、村長の子供は事情がちがう。日本人である音川詩と異界人であるダニエール・ジョイラントとの間に生まれた子供だ。ふたつの世界の架け橋となるべく運命付けられた子、と言っても間違いではないだろう。


 夫のダニー(ダニエール)や桜、迫田といった近しい者たち、それに巳谷医師などの医療班は、院内で寝ずに待っていたため、子供が生まれた後はそれぞれに身体を休めている。村の運営を担うチームがほとんど休みに入ってしまったので、村の活動も休止中……とはならなかった。


「これは、祝うしかないんじゃないか?」


 誰が言い出したのかは分からないが、新たな生命の誕生を祝って宴会が企画された。実を言えば、昨年秋の収穫祭は、帝国との和平交渉やその後の内乱騒ぎで規模が縮小され、その後も議員の視察団が起こしたドタバタで、宴会らしい宴会が開催できなかったのだ。要するに、どんなことでもいいから言い訳にして宴会をしたいという村人の、言葉には出さないけれど共通認識が成せるわざと言えるだろう。もはや(ごう)である。


 蓬莱村の宴会は、居酒屋でやる忘年会などとは趣が違う。狭い日本とは違い、ここには広大な土地がある。そこを利用して野外で料理したり、相撲をとったり、歌を歌ったり。一言で言えば、“祭り”なのだ。


 眠い目を擦りながら桜が外に出てきたときには、宴会――いや、祭りの準備はちゃくちゃくと進んで、今更止めろと言っても引き返せない状況になっていた。桜はあきれたが、中止させるような野暮なことはしなかった。というか、それどころではなかった。子供の誕生を聞きつけてやってきたヴェルセン王国国王夫妻の相手をしなければならなかったのだ。


「陛下、いいんですか? (まつりごと)を放っておいて」

「ドーネリアスが一手に引き受けてくれておる。我は明日引退しても、国はちゃんと機能するぞ」

「それは、それは。ドーネリアス様も皇太子として立派になられたということですね」

「あぁ。後は妃じゃな。なかなか良い妃候補が見つからぬ。……時に、サクラ。お主――」

「あっ、すいません。呼ばれたので少し席を外します」


 剣呑剣呑と、その場を逃げ出した桜は、コロコロと走り回る小さな機械を見つけた。


「ルート、あなたも来ていたの?」

「サクラ。テシュバートで連絡を受けてね、ついさっき到着したところだ。出産に立ち会うことができなかったのは残念だよ。炭素系有機生物(きみたち)がどのようにして増殖がどのようなものか、私のセンサーで記録しておきたかったのだがね」

「あー、それはいささか面倒なことになるわ。人間(わたしたち)のナイーブな部分だから。話題に出すときにも慎重にね。人によっては、怒る人もいるから」


 ルートは、機械生命体である。異界(こちら)で日本が構築したネットワーク上の記録はあらかた目(センサー?)を通した彼だったが、ネット上にはない情報もあるのだ。特に、人と人との営みに関しては。以前、桜もルートにしつこく聞かれて、赤面しながらも注意した経緯がある。


「ふむ。プライバシーの侵害になりかねないということか? 生殖行動と同様に?」

「そこ! そういうところよ、ルート。人前では話しにくいこともあるのよ」

「ふむ。納得はしかねるが、理解はした」

「私もあなたたちがどんな風に《《増殖》》するのかは少し聞いてみたい気がするけれど、敢えて聞かないわ。それがマナー、エチケットってことだもの」


 なかなかに難しい。そう言いながら、ルートは人混みに紛れるように走って行った。あの分では、別の人に聞きに行ったに違いない。たぶん迫田さんね。ご愁傷さま。


 明け方から準備が始まった宴会、改め祭りは、なんとか日が暮れる前に大方の準備を終えたようだ。もう、あちらこちらで乾杯の音が聞こえる。


「いやぁ~、やっぱり日本のビールは美味(うま)いのぅ」

「ブロア師、飲みすぎですよ。そんなに飛ばすと、身体に悪いですよ」

「何を言う! きーちゃん、お主も飲め飲め」

「ひーちゃんって……やっぱり、もう酔っていますね」

「まだまだじゃ! まだ焼酎も日本酒も飲んで折らんぞー! どんどん持ってこーい」

「あんた、今日の観測はどうするんだよ……」


 天文台のブロア師と(きざはし)の会話が聞こえる。異界(この世界)の住人としては高齢であるブロア師は、天体を自由に観測できる環境と日本から持ち込まれる食料(主にアルコール)のお陰か、以前にも増して元気だ。桜は、アルコール中毒にならなければいいがと心配しているのだが、実は、日本から呼び寄せた階の家族に元気づけられている部分も大きい。彼らもまた、新しい家族なのだ。


「あぁぁっ! 阿佐見さんっ! こんなところにいた、もう、探しましたよ」


 声のした方を向くと、ひょろっとしたスーツ姿の青年が立っていた。音川と同じく国交省から出向中の北村だった。


「あら、北村クンじゃない」

「あら、じゃないですよ、もぅ。音川さんが不在なんだから、阿佐見さんが仕切ってもらわないと」

「ふふ。そうね。で、何か用?」

「あぁぁっ、そうだった!」


 そう聞かれて、北村は慌ててメモを取り出した。


「え~っと、音川さんのご両親が異界(こちら)にいらっしゃいました」

「良かった。来られたのね」


 音川の両親は音楽家で、世界を飛び回っている。そんな両親の元に生まれて、どうして国交省の官僚になったのか、桜には不思議だった。


「今、上岡一佐が病院の方へご案内しています」

「そう。後で私もご挨拶に行くわ。それから?」

「はい。日本国政府と異界局、DIMOからお祝いの言葉と祝いの品が届いています」

「私が行くとき届ければいい?」

「いえ、すでに手配して病室の方に」


 北村は、官僚としては優秀なのだ。優秀であるが故、詩には秘書の様に使われているのだが、本人も本気では嫌がっていないので、これもまた適材適所だ。


「あと、テレビ局と新聞社から取材依頼が届いています。阿佐見さんの許可があれば、一時滞在で異界(こちら)まで来るそうですが」

「却下」

「へ?」


 桜の返事が意外なものだったのだろう。北村はあっけにとられた表情を浮かべた。


「全部、断って」

「でも、それは……」

「いいから、全部断って。今日は身内のお祭り。北村クンももう仕事は止めて、詩の子供が誕生したことを祝ってあげて」

「いいんですか?」

「もちろん」


 では、と北村は頭を下げたあと、くるりと背を向け宴会をしている輪の中へと、スーツを脱ぎながら飛び込んでいった。素直な性格なのである。官僚としては、出世しないタイプだが。


 村のあちこちで、笑い声や嬌声が聞こえる。普段は静かな村も、今日ばかりは大騒ぎだ。古くからいる人も新しく来た人も、日本人も異界人も、生まれた場所や世界が違っても、こうして笑い合える。それは、ひとつの理想郷の姿なのかも知れない。



 桜は、ふと空を見上げた。沈みつつある太陽が、空を赤く染め上げ、東側からは夜を告げるかのような濃紺が広がりつつあった。もう、何度も見た風景。日本(あちら)でも異界(こちら)でも、吹く風は違っても風景に違いはあまりない。たぶん、明日もあさっても、半年後も同じような風景が現れるのだろう。

 詩の子は、この風景を見て育つのだ。どのような子に育つのだろう。そして、いつか自分も子供を産むのだろうか? 自分の事ながら想像もできないと、桜はひとり苦笑いする。詩の子供だけじゃない。村で生まれた子、これから生まれてくる子供のためにも、平和で安全な世界にしなくちゃいけない。桜は決意を新たにした。


 ――その前に。子供の誕生を祝うこの祭りを、ずっと語り継がれるような、最高の祭りにしないとね。桜は、確固たる決意とともに、新たな一歩を踏み出した。



予定を変更して、カクヨムの方でやっている「KAC2020」向けに書いた物を、加筆してこちらにも掲載することにしました。元々「最高のお祭り」というお題だったのですが、自然と蓬莱村で律の誕生を祝うお祭りが思い浮かんだので、書いた物です。あまり本編に出てこない人たちを、登場させたかったのもあります。

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