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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第三章

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一念は海を渡る

 テシュバート基地には、魔法の影響を受けにくいコンクリート(蓬莱村で使っているアレの改良版)で四方を囲った部屋がある。もちろん、敵対的な魔法使い対策として念のために作ったもの。使うことがなければいいなーと思っていたけれど。

 今、その部屋の中央に置かれた椅子には、一人の青年が座っていた。拘束はしていない。グ・エンに頼まれちゃったからねぇ。保安担当の自衛官には文句を言われたけれど、いざとなればヴァレリーズさんもいるしね。


『姓名と所属を』

「ゴダ。ルールーのゴダ。」


 そう答える青年の様子を、私たちは別室からモニターしていた。何もない部屋で声がしたときには、彼――ゴダと名乗る彼も驚いていたが、今は落ち着いて見える。グ・エンの声を聞かせたのが良かったかな? 尋問が始まった今、彼女は奥の部屋で待機してもらっている。


「ルールーというのは氏族の名前で、グ・エンの氏族ディナに従属している氏族だそうです」


 グ・エンから聞き出した情報を、私は尋問官に伝えた。彼女はコクリと頷いて、再び尋問を始めた。


「我々を襲おうとしたのは、なぜ?」

『お嬢様を救い出すためだ』

「いきなり襲ったのはどうして?」

『お嬢様を救い出すためだ』


 やれやれ。


「彼女は我々が保護している。危険はない」

『嘘だ! 帝国とは戦争になる。そうなればグ・エンは殺される』

「彼女は話し合うために来たと言った。君もまず話し合いから始めるべきではなかったのか?」

『グ・エンは優しい。だから戦いを好まない。だが、帝国は違う。この間も自分たちの中で戦っていたではないか。そんな連中に、話が通じるとは思えない』


 あれ? ウルジュワーンが叛乱を起こしたこと、この子知っているのね。どうやって知ったのか。こりゃ、帝国内(ここ)にかなりスパイが混じっているんじゃないかなー。後で上岡さんたちと話合って、帝国にも警告しよう。


「我々は帝国ではない。日本国である」

『ニホン? 聞いたことがない。下手な嘘をつくな。それより、お嬢(グ・エン)様と会わせろ』


 内戦の情報は伝わっているのに、日本(わたしたち)のことは伝わっていない? それとも隠蔽されているのかな? うーん、こうした考察は、迫田さんが得意なのに。


「彼女と会えるかどうかは、君次第だ。どうか協力して欲しい」

『……』


 口が堅そうだなと思った青年は、尋問官の巧みな誘導によって少しずつだけれと話し始めた。それによると、彼はグ・エンを追い掛けてここに来たらしい。基地内にグ・エンがいることを知って数日前から張り込んでいたが、今日外出したのを見て好機ととらえ(本人曰く)救出しようとしたのだという。筋は通っているわね。

 問題は、本当に彼が彼女を助けようとしているのかということと、どうやって帝国領まで来たのかということだ。前者は、様子を見るしかないけれど、後者に関しては聞き出しておかなければならない。私の差し出したメモを見て、尋問官は頷き通話ボタンを押した。


『ここまで来た方法を教えて』

「それは……船で」

『もっと具体的に話してくれないと、我々はあなたを信用することができないし、信用できない人間をグ・エンに会わせるわけにはいかない』

「ガ=ダルガから船で帝国領の島まで渡った。そこからは、帝国の船で大陸(ここ)まで来た」

『一人、ってことはないわよね?』

「全部で六名だ。あいつらとは島で別れた」


 つまり、ガ=ダルガ側は帝国にスパイを潜り込ませている訳だ。後で似顔絵を憑くって、エバさんに渡そう。


 その後も尋問は続いた。彼と一緒に来た連中は、やはりスパイらしい。帝国人に外見が似ている人間が選ばれるらしい。(ゴダ)も帝国人に風貌が近いことから潜り込めたらしい。ただ、他の連中と違って、彼の目的はグ・エンなのだけれど。

 彼の出自など、事前にグ・エンから聞いていたことと整合性がとれているし、グ・エンの乗った船が途中で難破し、私たちが助けたことを伝えたら驚いていたから、正直に話してくれているのだろう。ただ、従属氏族とか言っていたけれど、それだけで彼女を追って海を渡るなんて、ちょっと信じられないのよねぇ。



 聴取の様子は蓬莱村にも送って、上岡一佐に意見を求めたら、一佐も私と同じように南方から来た青年を信じてもいいだろうという結論になった。ヴァレリーズさんも「構わない」と言ってくれたので、彼を彼女に引き合わせることにした。今後も保安対策は取るけど、ね。


□□□


「ゴダ!」

「お嬢様!」


 グ・エンは、彼の姿を見るなりその名前を呼んで、彼の下に駆け寄った。ゴダもまた、彼女の無事を確かめるように、彼女の顔を見て安堵の表情を浮かべた。


「どうして……残って父や母を護ってくれるよう頼んだでしょう?」

「旦那様方は、私の兄弟が命をかけてお守りしております。私はどうしても――」

「――だからといって、あなたが危険を冒す必要はないんです!」

「私は、お嬢様を護ると誓いましたから」

「バカ……」


 えーっと。

 完全に二人の世界にはいってんなー。おばさん、歯の根元がムズムズしちゃう。


「離ればなれになった恋人同士が、再会を喜びながらも素直になりきれない。うん、いいねぇ。若い人の特権だよ、調整官」


 いつのまにか隣に現れた豊崎先生が、私の心を読んだかのように呟いた。


「そうですね。アレを見せられたら、彼らの言っていることも信じられますね」


 グ・エンもゴダも、嘘は言っていないと思うし、戦争を回避したいという気持ちも確かなのだろう。けれど、穿った見方をすればそれが真実(・・)とは限らない。誰かが、彼らに嘘を教えているかもしれない。あぁ、純真な若者の真っ直ぐな心がまぶしいっ。


「あの、サクラ、お願いがあるのですが」

「なに?」

「街で購入した、あの手甲をゴダに付けさせたいのです」


 あーなるほど。最初から彼へのプレゼントのつもりで買っていたのね。


「いいわよ。ただ、ナイフは外させてもらうわよ?」

「はい、構いません。ありがとうございます」


 グ・エンはそういうと、再びゴダの所へ戻っていった。


□□□


 テシュバートから蓬莱村へは、私とグ・エンのほかにゴダ、ヴァレリーズさん、陸自隊員数名と、以外に大所帯になってしまった。


 陸路で立ち寄る村には、エネルギーステーションを作らせてもらっている。太陽光発電を蓄電するほか、水を電気分解して水素を貯蔵している施設だ。余剰電気は、その村で使ってもらっている。魔法が当たり前にある世界なので、電気の使い道は私たちが寄付した街灯とか製粉機とかそんなもので、大した役には立っていないように思う。街灯は魔石より安く付くらしいけど。ある意味、魔法が参入障壁になっているわけ。日本政府も無理強いするつもりはないけどね。


 村のステーションで補給しながら、無事に蓬莱村へ帰ってきた。やっぱりほっとする。と思ったら、帰還早々に事件が待っていた。


「村長が、音川さんが救急搬送されました!」



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