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異界調整官 ~異世界で官僚、奮戦す~  作者: 水乃流
第三章

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消えた民の伝承

 医務室に向かう途中で豊崎先生に出会った。


「おぉ、阿佐見さん、よかった」


 余談だけれど、艦内にいる乗員乗客の位置は、|艦内測位情報提供システム《IPIS》っていうしくみで管理されているの。使う人のアクセスレベルにもよるけれど、IPISに問い合わせれば誰が艦内のどこにいるのか、すぐに分かるようになっているわけ。

豊崎先生も、私の位置を問い合わせてここに来たのだろうな。狭いようで結構広い艦内だから、ウロウロ歩き回っても出会うことは難しいと思う。だから、豊崎先生とここで会ったのは、偶然ではなく私に何か用があってシステムを使ったってことでしょう。


「何かありましたか?」

「うん、少し奇妙なことが。これを見てくれるかな」


 そういって、豊崎先生は手に持っていたタブレットを私に差し出した。そこには、ベッドから半身を起こしたグ・エンと、吟遊詩人ニブラムの姿が映っていた。あれ? これって動画? 画面の中で、グ・エンは手を振り回して、何かジェスチャーしているみたい。


「先生、音声は?」

「それがなぁ、音が入ってないんだよ、口は動いているのに」


 確かに、グ・エンの口は動いているから、何か話しているようだ。ニブラム、あんにゃろ。楽器演奏に使っていた、風属性の魔法を使っているな。ヴァレリーズさんたちみたいに、ランクを公表していないから、どのくらい使えるのか知らないけど。こうやってわざわざ音を消すってことは、後ろめたい何かがあるのだろう。


「分かりました。私が処理します」

「私としては、患者に害がなければ良いだけなんだけどね」


 いえ、今回はガツンと言ってやりますとも。豊崎先生と別れて、近くの端末に近付く。普段は艦内案内図が表示されている画面に左腕を近づけると、メニュー画面が表示される。IPISを呼び出して、吟遊詩人の名前を入力。一瞬ののち、再び艦内の地図が表示される。


「食堂か。食事中かな?」


□□□


 食堂に入る前から、ハープが奏でる旋律が聞こえてきた。正確に言えば、異界(こっちの世界)で吟遊詩人が使う、ハープに似た楽器だ。


「ちょっと、ニブラムさん!」


 食堂の入り口を潜りながら詰め寄ろうとする私に、吟遊詩人はにっこり微笑みを返した。


「ちょうどよかった。貴女にも聞いて欲しい詩があるんですよ」

「あのね、詩は後にして――「いいから。聞けば分かりますよ」


 かぶせ気味にそう言った吟遊詩人は、腕の中に抱えた楽器に指を滑らせる。ポロン、涼やかな音が響き、緩やかな旋律を描く言葉がニブラムの唇から紡ぎ出された。


□□□


それは遠い 遠い昔の物語

彼方より来たりし 人々の物語


かの人々は 大きく 力強く そして心優しく

山の麓で静かに暮らす


かの人々は 大きく しかし籠を持つ者少なく

工夫しながら静かに暮らす


ある時北の部族 かの人々を欺き

奪い 攫い 迫害した


かの人々は 悩み 苦しみ そして助けを求め

精霊達に助けを求めた


かの人々は ある日 一夜で かき消えた

足跡も残さず消え去った


かの人々は 消えて なくなり そして忘れ去られ

何処(いずこ)かで静かに暮らす


□□□


 吟遊詩人の詩は、食堂を静寂に包み込んで静かに終わった。食堂にいた海自隊員は、しばし当然としたのち、起ち上がって拍手を送った。

 たしかに、心を揺さぶられる歌だった。でも、私は誤魔化されないわよ。


「ニブラム。一緒に来て」

「はい。お望みとあらば」


 私は彼を連れて、艦長室に向かった。あそこなら静かに話せる。


「わざわざ、あの詩を私に聞かせたのはなぜ?」

「貴女が知るべきことだったから」


 意味分からん。 

 そうこうしているうちに、艦橋のすぐ下にある艦長室の前まで来た。


 <らいこう>艦長室――艦長室という名前だけれど、それほど広くない。私は艦長室に入りアポ無しで訪れた非礼を詫びた上で、簡単な説明を行い、ついでに豊崎先生を呼び出してもらった。

部屋の中は、三島艦長と私、豊崎先生、それに吟遊詩人ニブラムの四人が入ると、やや手狭に感じる。豊崎先生が、口火を切ってニブラムを問い質した。


「ニブラム君、なぜ勝手に患者から話を聞き出したのかね」

「いけませんでしたか? 私は吟遊詩人です。人から話を聞き、それを詩にして旋律とともにみなに伝える。それが仕事です」

「どんな話を?」

「トヨサキさん、“守秘義務”です……と言いたいところですが、なぁに、彼女の親兄弟について少し聞いただけです」

「私が聞いても話してくれなかったのに……」


 豊崎先生が、がっくりと肩を落とす。豊崎先生からバトンタッチする形で、今度は三島艦長がニブラムに質問を投げかける。


「食堂で歌ったという話だが、グ・エンから聞いた話を元に作ったということかな?」

「えぇ、もちろん」


 確かに吟遊詩人なら、グ・エンは格好のネタだろう。でも、(ニブラム)の場合、それだけじゃないような気がするのよねぇ。


「阿佐見さん、その詩とやらはどんなものだったのかね」

「それが、お恥ずかしい話、さっぱりでした」


 三島艦長の質問に、私は正直に答える。艦長は眉を顰め、ニブラムに向き直った。


「ニブラム君。申し訳ないが、我々にも理解できるよう簡単に話してもらえないだろうか」


「やれやれ、想いを込めて歌ったのに、サクラさんには届いていませんでしたか。まぁ、仕方ありませんね。では、簡単に説明しましょう。

グ・エンは、遙か昔、大陸に突如現れすぐに消えたとされる民の子孫ってことですよ」

「遙かって、どのくらいなの?」

「さぁ? 大陸に残っているのは、伝承というかお伽噺みたいなもので、誰も信じてはいませんよ。私もグ・エンと話してみて、消えた民族なんじゃないかと思ったわけです。もしかしたら、間違っているかも知れませんがね」


淡々と語る吟遊詩人の言葉からは、嘘は感じられない。感じられないけれど、何か隠しているという気がしてならない。


「親兄弟の話だけで、良く伝説の民だと分かったね?」


 おお、三島艦長ナイスつっこみ。


「そこは、職業上の秘伝ということで」

「……まぁ、いいわ。少なくともルートのように、他の世界から来たって訳じゃないのね」

「えぇ、彼女(・・)は、この世界で生まれ育った女性ですよ」


 ニブラムの言い方が少し引っかかったけれど、今は他のことが気になるのよ。


「彼女がその、消えた民だとして、何が問題になるのかしら?」

「それは彼女が皇帝に伝えようとしている話の内容によるでしょうね。あ、それに関しては私も聞いていませんよ」


 やはり、皇帝……は不安だから、エバ皇后に早く会わせた方がいいようね。

 艦長室での話はそこで終わり。結局、ニブラムを注意することもできず(後から思い出したの)、私は関係部署への連絡に追われた。


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