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「第三章〜9」

 多加の家を後にした五人は、斑鳩近くの村の別荘へ向かった。

 夜でも宮城の篝火が灯り貴族の邸から明かりが漏れている京と違い、この付近では日が暮れるとすぐに暗くなる。夕間暮れの風に紛れる初夏の青い香りが、一行の旅情をかきたてた。


 家持の叔母、坂上郎女の別荘は、きれいに手入れされ客を迎える準備が整っていた。

「家持様、皆様、ようこそいらっしゃいました」

 郎女から遣わされた使用人たちが、手際よく働いている。夕餉の膳には、川魚や猪肉、旬の野菜やらが並び、宿奈麻呂ら三人だけでなく、従者も別室でもてなしを受けているようだった。

 宿奈麻呂は季節の味に舌鼓を打ちながら言った。

「さすが郎女殿、何から何まで行き届いている」

「本当は、自分も行きたいと言い出したのだが、ご遠慮願った」

「あはは、相変らずだな」


 酒が進むと、宿奈麻呂がつぶやいた。

「多加ともう一度、こうして食事をしたかったな。あのような気持ちのいい若者が亡くなるとは、なんともやりきれぬ」

 家持も同調した。

「まったくだ。未来ある者が先に逝くのは辛いことだ」

「そのような仏師、私もお会いしとうございました。残念です」

「せめて、多加の精魂込めた仏像、拝ませてもらおう」

「うむ、そうだな。行信僧都はどうする。会ってみるか」

「ここまで来たのだ。一度会ってみたい」

「私が話をしてもかまいません。南淵の寺から来た、と言えば邪険にされることもないでしょう」

「帝が恐れる例の者たち、というのも気になるしな」

「帝が恐れる例の者たち?」

「うむ。その者たちと上宮様の供養堂が関わってるらしいのだが、何ともわからん」

「帝が恐れる例の者たち……」

 田麻呂は考え込んだ。

 ・ ・ ・ ・ ・

 旅の晩餐も終わり、寝支度をする宿奈麻呂に、田麻呂が小声で訊いた。

「兄上は、亡き父上や兄弟が、手厚く供養をしなければ怨霊になると思いますか」

「馬鹿を言うな。父上たちは供養をしなかったからと言って怨霊になるような、心の狭い人間ではないわ」

「私も、父上たちが怨霊になるなど思っておりません。そのような人ではないと思っています」

「当たり前だ。そもそも俺は怨霊など信じていない。祟りなどあるものか。死んだらそれまでだ。俺たちは両親をきちんと供養した。もし人間が死んだ後にも何か力を持つのだとしたら、広継があのような目に遭わぬよう守ってくれていたはずだ。そうだろう」

 田麻呂は無言で目を潤ませた。

「石上の叔父上も、我らがしっかり生きることが供養になると言っておられた。それでよいのだ」

「そう……、そうですよね。我らがしっかり生きることが大事ですよね」

 田麻呂は自分に言い聞かせるように言った。

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