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「第二章〜1」&これまでのあらすじ

<これまでのあらすじ>

 時は奈良時代、聖武天皇の世、天災や疫病で人民は苦しみ、世の中は不安定になっていた。

 全国的に猛威を振るった疫病によって、多くの官人や貴族、政治中枢にいた藤原家の四兄弟までも死んだため、聖武天皇は、藤原氏に代わって橘諸兄を中心とした新政府を作り、世を建て直そうとした。

 聖武天皇は、寺院や供養堂を造り、度重なる天災を鎮めようとした。法隆寺の隣の斑鳩宮跡に上宮太子(聖徳太子)の供養堂を造ることも、その一つであった。

 藤原式家の次男坊、藤原宿奈麻呂ふじわらのすくなまろは、上宮太子の供養堂に納める仏像制作を依頼されたという仏師、多加と出会う。藤原宿奈麻呂の父は、先の疫病で死んだ藤原四兄弟の一人、藤原式家、藤原宇合である。

 宿奈麻呂は、百年以上も放っておかれた斑鳩宮跡に、なぜ突然上宮太子の供養堂を造るのか、疑問を感じ、友人の大伴家持と真相を究明しようとした。

 そんな中、父亡き後、藤原式家の長となっていた兄の藤原広継が、橘諸兄政権を批判し、左遷先の太宰府で兵を挙げたとの報せが都に届いた。

 天皇はすぐさま討伐軍を派遣した。やがて広継は、帝に対する謀反という律令の八虐である重罪を犯した逆賊として斬首刑となった。そしてその弟である宿奈麻呂は「縁坐」の罰で伊豆へ流刑となった。



「第二章〜1」


「これからこの地を京とする」


 天皇が瓶原みかのはら宮でそう詔したのは、藤原広継の事件が治まった天平十二年(西暦七百四十年)十二月のことだった。

 瓶原宮は、平城京の北東約十二、三キロメートル、山間いの自然豊かな恭仁の地にある。

 広継の謀反の知らせを受けた天皇は、すぐさま討伐軍を派遣する一方、関東行幸を行った。二ヶ月に及ぶ行幸の結果、行き着いたのが瓶原宮である。

 詔を受けて間もなく宮城と恭仁京の造営が始まった。


 突然の遷都に、貴族たちも、京人も皆、困惑していた。

「まったく、急に遷都とは困ったものだ」

 藤原一族の最年長者、藤原豊成もその一人である。

「右大臣との間では前から決まっていたという噂を聞いたが、そなたは行幸に付き従っていたけれど、知っていたのか」

 平城京で留守官の任についていた豊成は、弟の仲麻呂を呼んで訊いた。

 豊成が旧都の留守官という閑職に任ぜられたのに対し、仲麻呂は天皇の行幸の際に前衛騎兵大将軍に任命され、加階もされていた。

「いいえ、何も」

 仲麻呂は、しらっとした顔で言った。

「ただ、噂は耳に入ってましたよ。こんなに急にやるとは思いませんでしたけど。瓶原宮周辺は右大臣の領地、右大臣がご自分の都合の良い地を選んで前々から準備していたというのは考えられましょう。我ら藤原家を排除して、ご自分の京を造りたいんじゃないですか。新しい京の名前も、橘京とでも名付けるかもしれませんなあ」

 憤る豊成に対し、仲麻呂は他人事のように言う。

「そなた、危機感を持たないのか。このままでは橘殿の思うがまま、我ら藤原一族が排除されてしまうかもしれないのだぞ」

「そうは言っても、広継のことがあって間もない今は、おとなしくしていたほうが我らのため。ほとぼりが冷めた頃に挽回していきましょう。当面は、右大臣が果たして新京造営をどれだけできるのか、お手並み拝見といったところで」

「しかし右大臣には、あの下道真備殿がついている」

「だったら右大臣から引き離せばいいだけのこと。放っておけば彼の頭脳はこれからも我らの邪魔になるでしょうからね」

「そなた、何か考えているのか」

「まあいずれ」

 ふう、と豊成はため息をついた。

「まったく、広継も余計なことをしてくれたもんだ。おかげで我ら一族が肩身の狭い思いをする」

「そのことは同感です」

「しかし、平城京は、風水を調べ、土地を造成し、遷都まで三年かかって準備した。それをいきなり言われてもな」

「本当に京を作る気かどうか、わかりませんよ」

「単なる離宮程度で終わってくれればいいが」


 天皇は本気だった。

 平城京より遥かに狭い山間の土地を切り開き、造成して人民に分配し、平城の宮城を分解して新都に運んだ。

 恭仁京では、宮城や街作りに必要な木材も工人も不足していた。短期間で京を作るのだから当然である。それでもある程度の街が出来上がると、官位五位以上の官人たちは強引に恭仁京に移住させられた。東西の市も恭仁京に移された。

 平城京には、留守居の役人、下位官人、単身赴任している官人の家族や商人などの町人が残された。

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