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「第一章〜12 &これまでのあらすじ」

<これまでのあらすじ>

 時は奈良時代、聖武天皇の世、天災や疫病で人民は苦しみ、世の中は不安定になっていた。

 全国的に猛威を振るった疫病によって、多くの官人や貴族、政治中枢にいた藤原家の四兄弟までも死んだため、聖武天皇は、藤原氏に代わって橘諸兄を中心とした新政府を作り、世を建て直していった。

 聖武天皇は、寺院や供養堂を造り、度重なる天災を鎮めようとした。法隆寺の隣の斑鳩宮跡に上宮太子(聖徳太子)の供養堂を造ることも、その一つであった。


 そんな折り、藤原宿奈麻呂ふじわらのすくなまろは、上宮太子の供養堂に納める仏像制作を依頼されたという仏師、多加と出会う。

 藤原宿奈麻呂は、疫病で死んだ藤原四兄弟の一人、藤原式家、藤原宇合の次男である。

 宿奈麻呂は、百年以上も放っておかれた斑鳩宮跡に、なぜ突然上宮太子の供養堂を造るのか、疑問を感じ、友人の大伴家持と真相を究明しようとした。

 それは思うようにならない自分の境遇からの現実逃避でもあった。

 両親の遺産で今のところ何不自由ない暮らしを送っている宿奈麻呂であったが、藤原式家の長となった兄の藤原広継は、橘諸兄政権を批判して太宰府に左遷され冷遇されているし、宿奈麻呂も官職に就けず官位も上がらないまま、無為に毎日を過ごしていた。


「第一章〜12」


 やがて夏が訪れた。

 季節が巡っても宿奈麻呂の暮らしは変わらなかった。

 家持は、あいかわらず安積親王の内舎人の仕事で毎日忙しそうだ。

 家持が休みの日に会っても、他の友人たちが同席していて、上宮太子の話をすることはなかった。


 そんな中、橘諸兄の息子、奈良麻呂が無位からいきなり従五位を授けられたことが、貴族たちの間で話題になった。聖武天皇は橘家を重用することに決めたようだ。

 いくら宿奈麻呂が楽天家とはいえども、次第に焦りが生じてきた。だが、どうすることもできなかった。いずれ兄の広継が都の政治に復帰してくれればすべてうまくいく、その思いを心の支えにしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八月が終わろうとしているある日、聖武天皇の元へ、太宰府に勤務している藤原広継からの上奏文が届けられた。

 何かと思って、右大臣橘諸兄に読ませると、かねてから広継が主張している、太宰府左遷の元ともなった真備と玄昉への批判であった。


「度重なる天災や疫病で田畑は荒れ、人民が疲弊し悪人がはびこっている。天地が荒れているのは、君主の座を悪人が狙っている兆候である。右大臣の政治顧問となっている下道真備と玄昉が、私利私欲から帝を惑わして政治を動かそうとしているからである」


 上奏文で広継はこう主張し、さらに、真備と玄昉を即刻追放することを要求していた。


「広継はまだそのようなことをいっておるのか」

 天皇は、衣の袖を振り、諸兄が読むのを遮った。

「どういたしましょう」

 諸兄は、訊くまでもないと思いつつも、帝に訊いた。

「どうもこうもない。捨て置け。罰するほどのものでもない」

 天皇は不機嫌そうな足取りで、奥へ引っ込んだ。

 諸兄も、なかなか都へ戻してもらえぬ広継の愚痴程度にしか思わず、特に気に留めることではないと思っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しかし、その四日後のことである。昼前、筑紫から急使が飛び込んできた。

 広継が兵を招集しているというのだ。

 それを聞いた天皇は、今度は震え上がった。

「広継は、自分の上奏が受け入れられないと見て、力づくで認めさせる気じゃ。どうしたらいいのだ、大臣」

 一緒に報告を聞いていた諸兄は、四日前と同様、たいしたことと思わなかった。

「そのようなこと、いちいちお気になさいますな。広継が少しばかりの兵を集めたからと言って、何ができましょう」

「恐れながら」

 使者が口を挟んだ。

「兵の数は、今のところ、五千を超えているそうです」

 諸兄の顔が瞬時に青ざめた。

 天皇は、悲鳴にも似た声をあげ、横に座る皇后の衣にしがみついた。

 諸兄はすぐに言葉が出なかった。

「……早急に対策を考えますゆえ、帝はどうか、奥でお休みなされませ」

 諸兄はそう言うと、自分はそのまま宮城内の執務室へ向かった。

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