オーロラの下で生きるための
紙袋を抱えた少女は、ドアに体重を預けて押し開ける。
薄手のジャケットを纏った少女が雑貨店の二重ドアを開けると、曇り空に閉ざされた灰色の街路が広がっている。少女の排気が瞬時に凍り、きらきらと輝く。
「……」
数段の階段を下り、路上に駐車した乗用車へ向かう。ドアを開けると中は、外気とほぼ同じ温度まで冷え切っていた
運転席へ滑り込み、助手席に袋を置く。エンジンキーを回しながら、後部座席へ目を向ける。
「……ものすごく寒いですから、来る前に言えって、言わなかったですか……?」
後部座席には、分厚い防寒着を身につけた別の少女が横たわっている。少女の身体は完全に冷え切って、まつげは触れば折れそうなほど凍りついている。僅かに開いた瞼の間から、光を失った瞳が覗いていた。
寝ころんだ少女は、掛けられた言葉に全く反応しない。
「帰るですよ。着いたら起こしてあげるです」
少女は、空調をつけないままハンドルを握り、車を走らせた。
車から降りた少女は、着太りした少女を背負って、団地の入り口へ向かう。
分厚い扉を押し開け、中へ入る。薄暗いロビーは人間にとって快適な室温に整えられている。冷たく冷えた少女たちの身体は、真っ白に曇った。
扉を開けた少女は、数回瞬きをするだけでカメラアイの曇りを取り、そのまま階段を上がっていった。
ぱちり。部屋の電気が灯る。黄色を帯びた電球は小さく、部屋は夕暮れのような薄闇に包まれている。
着膨れた少女をベットに寝かせる。だらりと力が抜けて動かない少女に悪戦苦闘しながら、一枚ずつ外套を脱がせていく。
「ああ、もう、ほんっとうに苦労させるです。後で何かおごるですよ……。ここまでむけばいいです。しばらく寝てるです」
薄手の下着のみになった少女をベットに寝かせたまま、部屋から立ち去った。
数時間後、部屋に現れた少女は、ベットに寝かせた少女の身体に手を当て、全身を丁寧になぞっていく。
「だいぶあたたまってきたですね。えーーと」
寝かせた少女のわき腹をまさぐり、ハッチを開ける。内部をのぞき込む。
同じようにして頭部ハッチも開け、確認した。
「みずはのこってないですね。あんしんしたです」
手早く、ぱちぱちっとハッチを閉じる。
「さあ、起きるです」
寝かせた少女の前髪を掻き上げ、生え際近くにあるボタンを押し込む。
閉じた瞼の間から青い光が漏れ、起動プロセスを開始したことがわかる。
数十秒待った後、パチッと瞼が開く。無機質なアイが、漠然と天井を見つめる。
すぐに瞼を閉じ直し、再びゆっくりと瞼が開いていく。寝ぼけてぼーっとした瞳が現れる。上からのぞき込んでいる目と、目覚めた目が見つめ合った。
「おはようです、ねぼすけ」
「おはよう……ありがと……いや、ほんとにごめんね……」
「氷国の寒さなめてるですか。こんな機体でそのまま歩いたら、結露でショートして死ぬですよ」
「ごめんごめん……」
「代わりの機体は一週間かかるです。それまではここにいるです」