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それぞれの想い


 生まれた時から暗黒でした。

 だから、目が見えるということが、どういうことかすらも理解できない。

 ただ、その所為か、私には言葉に宿る感情が、誰よりも分かると思うのです。

 いまだ目は見えないけど、その代わりに得た遠見の力によって、そのことを尚更に理解できます。


 竜人さん――黒鵜さんの優しさは、いつも私を包んでくれています。


 そう、私は竜人さんを見つけました。

 誰よりも強く、誰よりも気高く、誰よりも仲間想いの竜、そのものだと思いました。

 私達が居た北千住の南、汐入に遠見を向けた時に、竜人さんを見つけたのです。


 あは。実は、黙ってますけど、私には黒鵜さんが竜人に見えるのです。

 ああ、だからといって、気持ち悪い姿ではないですよ?

 めっちゃ、格好いいんですから。


 どういう理由かは分からないのですが、私にとっての黒鵜さんは、初めから竜人の姿でした。


 どうしてだろう? まあ、天使さん――葵香ちゃんを連れてましたから、別に異常だとは思いませんでした。

 そうなのです。私にとって葵香ちゃんは、いえ、葵香さんはとてもきれいな女性に見えたのですが、みんなからは、そう見えなかったようです。

 まあ、彼女から口止めされたので、これも秘密ですけどね。


 目の見えない私は、遠見の力を得るまで、本を読むこともできず、知っているおとぎ話といえば、全てお爺ちゃんとお兄ちゃんが読んでくれたものだけでした。

 だけど、時々、お兄ちゃんが読んでくれるラノベがとても面白かった。

 そして、いつの間にか、私は自分で想像していたのです。自分を救ってくれる勇者の物語を。


 はい。現れましたとも。私の勇者様。

 少しばかりシャイで、弱気ですけど、いざとなると、誰よりも強い意思で大切な者を守る方です。


 正義が何かなんて分からないのですが、そんなものは立場によって変わると思っています。

 私はショッピングモールの出来事も見ていました。

 恐ろしいほどに悲惨な状況でしたが、私は黒鵜さんを嫌いにはなれませんでした。

 だって、何もかもを助けるなんて不可能ですし、彼の怒りは尤もだと思ったから......

 それに、氷華姉さんと一凛姉さんが羨ましかった。

 なにしろ、黒鵜さんが我を忘れるほどに、大切に思われているんですから。


 ああ、私も黒鵜さんにそれくらい想われたい。


 なんて考えていたら、私の願いは叶っちゃいました。

 銃で撃たれてちょっと痛かったけど、もう、そんな痛みなんて吹き飛ぶくらいに感動しました。


 なので、ごめんなさい。氷華姉さん、一凛姉さん。先に告白させていただきますね。


 黒鵜さん。大好きです。あは。









 道場の朝は早い。それだけでも格闘なんて嫌だった。

 でも、自分を守るためには、必要なことだと感じた。

 だって、うちには母親が居ない。私の誕生を引き換えに、この世から他界してしまった。

 だから、うちは父親にすがろうとした。でも、見事に失敗。あれの心は死んだ母親のことしかないようだった。

 まあ、ある意味は一途で素晴らしい男だろう。

 ただ、父親が当てにならないと感じたうちは、気が付けば、自分のことは自分で何とかすべきだと考えるようになった。


 そんなうちが身につけた能力は、なるべく人と深く付き合わないという手段だ。

 そう、これこそが、うちの処世術であり、生きていくために必要な力だった。


 正直、その力は凄かった。ボッチになるデメリットはあるものの、直接的な被害は皆無だった。


 すげ~ぜ。って、自慢することじゃないか?


 そんなうちでも、やはり寂しくなる時はあった。


「ねえ、カラオケに行かない?」


「いいね~」


「他に行く人は......ああ、真摩まするさんは行かないよね」


 まだ、なんも答えてね~し......まあ、行かないけど......


 そう、悪口を叩かれない代わりに、相手にもされなくなった。

 というか、きっと、裏で悪口をいっていることだろう。


 別にいいさ。自分で望んだことだし~。


 なんて自分に言い聞かせるのだけど、やはり寂しいものだ。

 そんなうちの目に留まったのは、鋼鉄の心を持った男だった。


「うん。そうだね。あははは」


 奴は、いつもそんな言葉で終わらせていた。

 裏では散々と叩かれているのに、全く動じていない。

 一見、なよなよしているようにも見えるが、うちは鋼鉄の心の持ち主だと思った。

 それからというもの、奴――黒鵜のことが気になるようになってしまった。


 実際、自分で言うのは恥ずかしい話だが、うちは男にモテた。

 告白されることもあったし、その所為で疎んじられていたりもした。

 でも、見た目だけの男子なんてどうでも良かった。

 だって、うちは強い男を求めていたからだ。


 多分、黒鵜に抱いた感情は恋じゃないと思う。

 そう、興味だ。この男がどんな風になるか興味が湧いたのだ。

 そんな折に、うちが暮らす環境は、魔物が巣くう世界に変わった。


 うちは必死だった。生き残ることに全精力を費やした。

 だって、この命は母から貰ったものだからだ。そう簡単には終わらせない。

 なんて頑張ってるうちに、出会っちまった。最強の男に。


 最強の魔法に、最強の心、仲間をなによりも大事に想う最強の男だ。もう、感激だった。

 なにしろ、奴が怒りを感じる時は、必ずうち等のピンチだった。

 そう、奴はうち等のために命を懸けられる男なのだ。


 決めた。うちは決めた。こいつしかいね~。氷華が想いを寄せてるけど、そんなのは関係ない。うちは黒鵜の女になる。


 って、くは~~~っ! 愛菜に先を越されちまった。でも、まだ間に合うよな。さあ、うちの愛を受け取れ! 黒鵜ーーーー!









 出る杭は打たれる。

 私が物心をついたころから、しみじみと感じている言葉だ。

 親の仕事で引っ越しの多かった私は、そのことを嫌というほどに知っている。

 なかなか友達もできず、寂しい想いから、思わず良かれと口を挟んでしまうと、それはあっという間に有難迷惑という行為に塗り替えられていた。


 世の中って、色々な人がいるのよね。別に悪気がある訳ではないのでしょうけど、だからこそ質が悪いとも言えるわね。


 数年に一度の引っ越しで、日本各地を転々とした私は、周りに溶け込むべく良い人を演じていた。

 だけど、それは全て裏目となる。


「あの子ってさ、八方美人でしょ」


「そうそう、それに独善的なのよね」


「自分がちょっと可愛いと思って、調子に乗ってるんじゃない?」


「ああいう、可愛い子ぶった奴って嫌いなのよね」


 ああ、ウンザリだわ。私の方こそ、あなた達のような人種が嫌いよ。


 なんて出来事は、日常茶飯事だった。

 だから、私は転校をきっかけに生まれ変わった。


 そう、地味子を演じるようにしたの。能ある鷹は爪を隠すのよ。うふふふ。って、なんか違う?


 まあいいわ。それはそうと、私は目立たなくなることで、自分を守るようになった。ただ、それには落とし穴が待ち構えていたの。

 そうよ。ボッチってやることがないのよ。だから、その所為なの。私が悪いんじゃないの。厨二ったのは私の所為じゃないわ。

 ああ、でも、腐ってないわよ? 間違っても腐った女なんて呼ばないでね。


 まあ、これも置いておきましょう。時々、黒鵜君から生温かい目で見られることも、一凛からツッコミを食らうことも、甘んじて受け入れましょう。


 さて、ついつい氷華なんて痛い名前を自分で名乗ってしまったのだけど、そんな私が彼と出会ったのは、ぴちぴちの幼稚園児の頃だったわ。

 身内から、可愛い可愛いと言われ続けて浮かれていた私は、幼稚園に入って世の中の辛さを思い知らされたの。

 今考えれば分かるのだけど、きっと、私が可愛いから虐めたかったのね。うふふふ。


 そんな時に、いつも助けてくれたのが黒鵜君だった。

 ただ、その救援の仕方は少しばかり格好悪いわ。だって、必ず先生を連れてくるんだもの......

 それでも、有難かった。だから、私は黒鵜君といつも一緒に居るようになったわ。


 なのに......彼は覚えてないのね。もう、頭にくるわ。


 おまけに、「僕は胸の大きな人をお嫁さんにする」なんて豪語しやがって、ヌッ殺してやろうかしら。

 まあ、あの頃は、私も大きくなる可能性を秘めていたから、「大丈夫、私の胸は空を飛べるくらい大きくなるわ」なんて答えちゃった。

 でも、それって、大きすぎて気持ち悪いわよね?


 おほんっ! それはそうと、ずっと彼の側に居たかったのに、小学生に上がる事には、転校という魔の手が襲い掛かった。


 私は絶対に嫌だったのだけど、成す術もなく黒鵜君と引き離されたわ。あの時は、一日中泣いていたと思う。


 そんな私は中学生となって戻ってきた。

 それも、思いっきり地味子で......

 もちろん、彼が私に気付くことはない。

 だけど、私は彼のことを忘れていないわ。

 ちょっぴりというか、完全に私と同種になっているところも最高だと思えた。


「やっぱり、私達って結ばれる運命なのよね」


 なんて、ウキウキしていたのも束の間、世界が異世界化してしまった。

 父も母も魔物に襲われてしまった。

 もう、絶望という二文字ばかりが私の中を埋め尽くしたわ。

 だけど、その中に小さな光が残っていた。


「黒鵜君! あなたこそが私の光だった。なのに......」


 愛菜! 一凛! いい加減にしなさいよね。なに私より先に告ってるのよ! このバカちん!


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