調査
「よし、引き受けた!文おばちゃん、ありがとう!任せておけ!」
タマナは一安心したのかにっこりとした笑顔を文へ向けた。
その後一度当たりを見渡し腰に手をあてた。
「じゃあまずは調査からだ。文おばちゃん、まずはさっき壊されていたであろう文房具を見せてもらうことってできる?」
「えぇ、ヒロノリ。持ってきてもらっていいかしら?」
「はい、ただいまお持ちします。少々お待ちください」
秘書と一緒にいた男が小走りで部屋から出て行った。
タマナがふぅと一息ついてポケットから名刺ケースを取り出し、そこから1枚取り出す。
社会人がそんな名刺の渡し方をしたら、それだけで付き合いが悪くなるかもしれないがそんな社会マナーはタマナに関係ない。
「文おばちゃん、俺本当はそのコンサルなんたらって仕事じゃなくてこんなことやってるんだ」
「えっと、呪呪屋?」
聞き返されたタマナはコクリと頷く。
そのあとは今朝アカリにしたような説明をする。
「小さいころあんなに甘えん坊さんだったあなたがこんなことをしていたなんて」
「甘えん坊は余計だ!」
「ふふっ、そうね」
小さい頃のタマナを思い出し少し笑顔になる。
一通り説明が終ると先ほど部屋から出て行ったヒロノリがダンボール箱を抱えて戻ってきた。
お待たせしましたと一声かけ、ダンボール箱を机にドスンと置いた。
その重さに机が少し沈んだ気がした。
「え、こんなあったっけ……?」
「見せた動画はひとつですが、他にもやられていましてね。とりあえず対象となっている文房具、あらかた持ってきました!」
「お、おう」
袖を捲り腕を曲げ力こぶを作るポーズでニカっと笑うヒロノリ。
その行動を適当に受け流しダンボール箱の中身を漁り出すタマナ。
いくつか手に取りじっと見つめてはまた中へ。
何回か繰り返しアカリとテツのほうを見る。
「おい、お前も調べろよ」
「調べるって何を?」
「呪いが無いかだよ」
「え?判るわけ無いでしょ!?」
それもそうだな。そんな顔でアカリを見た後、ペンをひとつ投げ渡す。
投げられたペンを慌てて受け取るアカリ。なんとか落とさずにキャッチした。尻餅はついたが。
「もう!急に投げないでよ!」
「それ見て何かわからないか?」
「んー……特に!普通のペンね!」
ジッとペンを見つめた後、ペンを前に突き出しタマナへ見せ付ける。
「だな。それに呪いは関係なさそうだ」
もういいやとダンボール箱から興味をなくしたタマナ。
いったい何がしたかったのよと両手に拳を作り後ろでガミガミ言っているアカリ。
お構いなしに、再び文へ質問を開始する。
「文おばちゃん、この会社を恨んでいそうな人とか会社で思い当たるもの無い?」
「ここを恨んでる人?んー色んな業者と提携して事業を進めてるけど恨んでる憎んでるで思い当たる人はいないわね。会社もないと思うわ」
「そっか。じゃあこうなるちょっと前とかに予兆とか変な動きや出来ことで思い当たることはある?」
「予兆、出来事、予兆……うーん」
文があごに指を当てて天井を見ながら考える。
その会話を聞いていた秘書が口を挟んだ。
「社長、そういえば今年の春に一部署の社員が全員」
「あっ!そうね!」
「春?」
「そう、春に部署の人が全員ほぼ同時に辞めたの」
「全員?」
「えぇ、皆辞める理由はそれぞれ違っていたけど全員辞めることになるとは……」
何かを確信したのか、タマナは頭を何度か頷かせた。
「その部署って何?」
「研究部ね。新しい文房具を開発するにあたって、他の会社で作っている物等を調べて次の施策やアイデアを生み出す部署って言ったらわかるかしら」
「研究部……そいつらが残していったものとか何を見ていたかとかってわかる?」
「ヒロノリ!」
はい、と返事をしまた部屋から出て行く。
部屋から出て行くと隣の部屋からガサゴソと音がする。
フンっ!と掛け声が聞こえた後すぐにヒロノリが戻り先ほど同様机にダンボールを置く。
力こぶを見せるポーズも先ほどと同様だった。
置かれたダンボールをすぐに開けて中を調べ始めるタマナ。
一緒にテツも調べる。
「こっちもペンばっかりだな」
「どう、何かわかりそう?」
アカリが覗き込んでくる。
1本ペンを取って首を傾げてはまた戻す。
何回か繰り返したあとに言葉を返した。
「わかんねーわ」
そのあまりにも無責任な発言にえぇ!?と声をあげ、タマナを見る。
何も感じ取れないものはわからないんだよと、その中の1本をアカリへ投げた。
行動を予測していたのか今度は慌てずにそのペンを受け取る。
パチぃ
ヘヘン、あなたの行動なんかお見通しよと言ってペンをタマナへ見せ付ける。
そのポーズをまじまじと見つめだすタマナ。
「な、何よ。今度は尻餅ついてないわよ!」
「そうじゃない。お前さっきと変わったことないか?」
「ん?変わったこと?何にも変わってないわよ?」
腰をひねったり、腕をあげたり自分の身なりを確認するアカリ。
「本当か?何にも変わってないか?」
「うん?と思うけど……」
今度は周りを見渡す。
するとアカリはひとつのダンボールに視線を合わせて停止した。
あれ?と首を傾げてダンボールへ近づく。
蓋を開けて中を見たアカリは急にダンボールをひっくり反そうとした。
「っとっと~危ない危ない~。どうしたのアカリちゃん?」
アカリの行動をテツが間一髪のところで止めた。
両腕をテツに掴まれて自由に動かせない。
だが、掴まれている両腕はプルプルと力が入っていてテツの腕もろともひっくり反そうとしているようだった。
急いでタマナが近づきアカリの肩へ手を乗せる。
【女の思考よ、すべての文房具を平等に捉えろ】
タマナが口ずさむとアカリは正気を取り戻した。
ふぅとテツがアカリから手を離す。
周りをキョロキョロ見渡し自分に視線が集まっていることに気がつくアカリ。
「ったく、何してんだよ」
肩で息をするアカリがダンボールの中身を見ながら怯えるように応えた。
「壊そうと思った……壊さないと自分の正気が保てないような、そんな気分になったの……」
「そうか……見つけたな」
「ちょっとあなた!何を考えてるの!」
秘書がアカリの発言に血が上ったようだ。
顔を真っ赤にしてアカリへ近づいてくる。
その間にタマナが入り1本のペンを突き出した。
「アカリは今呪われたんだ」
「何を言ってるの!?わかるように言いなさい!」
「あいつは今の一瞬で呪われて、さっき見た動画の男みたいになったんだよ。このペンに触ってな」
はぁ?と突き出されたペンに視線を向ける秘書。
ただのシャーペンだろう、秘書は眉間に皺をよせ首を傾げる。
だがタマナは何か確信を得たのか自信満々でペンを強く握り締めた。
「こいつが何所で作られているのか調べればこの呪いは解決できる。テツ、お前これ触っても何も起きなかったよな?」
「そうだね~、な~んもなかったよ」
「ってことはこの呪い、フィルターが掛かってるんだな……だから気がつかなかった。アカリ!お前がいて助かった!」
「……え?私?」
何故感謝されているのか理解が出来ず頭をポリポリと掻いてる。
「でもなんで俺とテツには……。まぁいいか、後で考えよう」
独り言を呟いたあと、このペンの出所を調べてくれとテツへ投げ渡す。
やる気のない了承をすると会議室を出て行くテツ。
「文おばちゃん、俺がこの呪い絶対に解いてやる。待っててくれ。また戻る時連絡入れるから」
おねがいしますと頭を下げる。
秘書とヒロノリは状況が全く飲み込めていない様子だ。
「アカリ、行くぞ」
「へ?行くって何所に?」
「あのペンを作ってるところだ」
「えぇ!?これから~!?」
ごちゃごちゃうるせぇ見学するんだろ!と一喝をいれ、手を引っ張る。
えぇ~もう夜なるよ~と弱音を吐きながら部屋から出て行く。
時計の針は午後4時を指していた。