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今日中に

作者: 月見里

御一読頂けたら幸いです


祭囃子が鳴る。

夜でも纏わりつく様な暑さの中、僕は意中の女の子と暗中の帰り道を歩いていた。


「‥‥暑いね」

「そうだね」


先程から生返事。

暑さも相まって更に辛い。

少しでも一緒にいる為に遠回りしたのが災いし、虫が多い田舎道を歩く羽目になった。


「ねぇ」


話を切り出したのは彼女からだった。


「な、なに、どうしたの?」

「私、こっちだから」


彼女は僕の帰路と逆方向を指す。


「あ、そう‥」

「うん、じゃあね」

「あ!」

「なに?」

「暗いから危ない‥」

「大丈夫だよ、十分もかからないし」

「いや、送ってくよ」

「‥‥じゃあ」




初めて女の子を送る。

頑張って話題を繋げ、異性の好みの話になった。


「私、派手な人は苦手」

「派手な人」

「うん。声が大きかったり、強引だったり、あとノリが軽い人とかも苦手かな」

「そうなんだ」

「私ね、頑張る人が好きだから」

「頑張る人?」

「うん。何事も頑張れる人って良いじゃない」

「‥‥そっか、いいよね、頑張る人」


自分とは正反対。

何事にも怯え、怖がり、逃げようとする僕とは。


「‥‥じゃあ、ここだから」


気が付いたら目の前に1軒の家。

ここが彼女の家。


「じゃあ」


彼女が背を向けた。


思わず声が出た。


「あ、あの!」

「なに?」

「もうちょっと‥‥歩かない?」

「え?」

「あ、え、あっと」

「‥‥」



手に汗を握り、言葉を繋げる。


「えっと、もうちょっと、お喋りしたいっていうか‥。」

「‥‥いいけど」

良かった。


もう根性無しは許されない




数分後。

深夜。

彼女の家近辺の公園。

街灯の下のベンチに二人。




「ねぇ」

「な、なんでしょう」

「話があるんじゃないの?」


ある。

どうしても伝えたいこと。


僕は少し勇気を出した。


「こ、告白‥」

「告白?」


弱々しいが必死に繋げる。


「うん。実は今日、君に告白する為にお祭りに誘ったんだ」

「‥‥そうだったの」


自分の不甲斐なさが悔しい。


「でも勇気が無くて言えなかった。それどころか君を楽しませることも出来なかった」


目から溢れ出るものを必死で我慢した。


「そんなことない。私楽しかったよ。誘ってくれた時も凄く嬉しかったし」


その言葉だけで救われた。

彼女は楽しんでくれた。

本当に嬉しい。


「ありがとう」

「ううん。こちらこそ誘ってくれてありがとね」


少し視界がボヤけた。

すぐさま手で拭う。


「ねぇ」

「?」

「しないの?告白」


そう言った彼女は少し寂しげだった。


情けない。

女の子にこんな顔をさせた自分が情けなかった。


僕は立ち上がり彼女の目を見て言った。


「今井紗枝さん!」

「はい」


震える足と口を抑え、声を掻き出す。


「僕は君の事が好きです」

「はい」

「すごいすきなんです」

「はい」

「僕と付き合ってください!」


暫しの沈黙


下げた頭が上がらない。

嫌なコトしか思い浮かばない。


「‥‥」

「‥‥久我くん」


声がして頭をあげる。

そこには優しく笑う女の子が居た。


「久我くん」

「はぃ」

「間に合ったね」

「え?」


彼女は携帯の液晶画面を僕に翳した。

可愛らしいゆるキャラの待ち受けだった。

時刻は‥‥


「11時‥57分‥」

「今日中だね」

「‥‥うん」

「目標達成だね」

「‥‥うん」

「頑張ったね」

「‥‥うん」


彼女からの返事を待たずに、僕の視界はボヤけた。


不安と少しの安堵が頭で一杯だった。


「久我くん」

「‥‥グス」

「告白、ちゃんと聞いたよ」

「‥‥ありがとう」

「ちゃんと受け取ったよ」


そう言って彼女は満面に微笑んだ。


「久我くん」

「‥‥はい」

「‥‥これがお返事です」


街灯に照らされ儚げな彼女は自身の胸の前で小さく人差し指と親指を合わせ輪を作った。


「至らぬ点も多いけど、私でいいなら‥喜んで!」



僕は本当にだらしなかった。

好きな女の子の前で泣いた。

泣けたんだ。

泣くほど勇気を出したんだ。



「久我くん」

「グスッ‥‥はい」

「これからもよろしくね」

「うん!」


今井さんは今まで一番すてきな笑顔をしていた。


               



おしまい


読んでいただき本当にありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点]  好きな異性の評価ポイントが、自分とは真反対だと戸惑います。 [一言]  タイミングは重要なのかもしれません。
2016/04/10 10:38 退会済み
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