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五話:骨の悔し涙は怖い

 俺は一歳になった。


「マンマー!!」


 と、この様に食事をせびる程度の語句は言えるようにもなったし、ハイハイ、つかまり立ちなんかも出来るようになった。

 まだスプーンなんかを上手く使うことは出来ない為、食事をする時にはボロボロとこぼしまくっているが、まあ、おおよそ問題はないだろう。


 この半年の間に俺が熱を出したり、それを心配した骨兼父親ことヴィルマーが骨なのにやつれてみせるという離れ業をやってのけたりと色々あった。

 ヴィルマーは骨だが、慣れてくると意外と表情豊かでわかりやすい性格をしている。

 と言うか身振り手振りが大きくて芝居がかっていたりするので非常に分かりやすい。

 落ち込めばあからさまにしょげるし、嬉しい事があると鼻歌を歌っている。

 まるでガキのようだと何度思ったか知れない。

 あいつが父親で俺はまだ赤ん坊なのに、俺が生暖かい目であいつを見守っていることのほうが多い気がしてくる。

 ……いいのかこれで。


 ボロボロと大量にこぼしながらもなんとか食事を終えた俺の口周りを、エラは丁寧に拭き取るとそのまま汚れた布を口に詰めて飲み込む。

 初めて見た時は驚いた。いや、驚いたなんて生易しいものではなかった気がする。

 いつも自分の世話をしてくれている美少女メイドが、いきなり口をカパッと開けたかと思えば汚れた布を食ったのだ。

 驚かないほうがどうかしていると思う。

 だが前にも言った通り、やはり彼女も人間ではなかったのだ。


 エラはこの城が生み出した化身、所謂端末のような存在であるらしい。


 飲み込まれた布はどうなったかというと、そのままエラの体内を通して洗い場へと送られる仕組みになっているそうだ。

 どうしてそれを俺が知っているかというと、口をあんぐりと開けたままフリーズしていた俺を見かねたエラ本人が教えてくれたからである。


 エラ曰く、

わたくしはこの意思持つ城、正式名称エラ・ゲーデル城が生み出した化身。

 ……わかりやすく言えば端末、でございます。

 わたくしは細々とした雑事をより効率よく行うことに特化した存在でございます。

 城の中であれば何処であったとしても一瞬で移動できますし、現在はわたくし一人でございますが、城に蓄えれれている魔力が尽きぬ限り、わたくしと同じモノはどれほどの数であろうと生成可能です。

 そしてそれらの記憶、意識はは常に共有されており、城本体にも意識がありますので、城内で何か異常があれば、それが起こった場所が何処であれ、即座に城全体へ伝達することが出来ます。

 その他にも様々な機能がございますが、全て説明するとなるとお時間がかかるため、この場においては割愛させていただきます。

 ……まだ言葉をご理解なさっていないルッツ様にとって、これらの項目を理解することはお難しいことかと愚考いたします。」


 うん、城内に限って屈指のチート技能をお持ちでしたよ……エラがいる限り暗殺とか襲撃がまるで意味を成さない。


 セキュリティが万全すぎて怖いレベルだ。


 物は送るだけではなくて何処かから送って受け取ることも出来るみたいだったけど、口から出すのはやめて欲しい。いや、マジで。

 俺が微妙な顔をしたのを察してか、それ以降俺の前ではやらなくなったからまあいいんだけどさ……。

 変な所で有能なのか残念なのかわからなくなる。


 姿形も自由に変更できるらしく、黒髪黒目に真っ黒なメイドドレスという出で立ち。

 見た目だけで言えば齢15ほどの美少女であるが、無機物的な存在感の無さがそれをぶち壊している。

 無表情だし目には光がない。おまけに口調もまるでアンドロイドのような棒読みだ。

 ハッキリ言ってしまえば怖い。

 ゴシックホラー的な雰囲気を常に醸し出している。

 骨と言いメイドと言いこの城はお化け屋敷なのだろうかと疑いたくなる、というか案外的を射ている気がしてきたのでこれについてはもう考えないことにした。


 まあ存在感がないのはメイドとか側仕えとしてはいいことなのかもしれない。

 居てもいなくても同じっていうのは言い方が悪いが、常にそばに人が居て自分の行動を見守っているという状況に慣れていない俺でも、彼女のことは気にせずに生活することができていた。


 エラはヴィルマーのことを主として認めている様で、ヴィルマーの事を様付けで呼んでいる。

 そんなヴィルマーが拾ってきて育てている俺は彼女の中では養子の扱いらしく、ヴィルマーと同様に様付けで呼ばれ、何だかんだと細々とした世話を焼いてもらっている。

 俺が理解できているとは思っていないようではあるが、俺が不思議そうにしていたりすると無駄だと思いつつも詳細な説明なんかをしてくれるため、俺としては非常に助かっている。


「……最近、ルッツが私よりもエラに懐いているような気がするのは気のせいか?」

「恐らく気のせいではないかと」

「何故ゆえにそうなるのだ、こんな無表情で可愛げのないメイドなどよりワシの方がよほど茶目っ気があるというのに……」

「ヴィルマー様は少々構い過ぎなのではないでしょうか。ルッツ様が時折嫌がっているご様子をお見受けいたしますが」

「ほらまたそうやって理詰めで話すところが可愛げがないというのだ」

「あとヴィルマー様の御容姿にもいささか……、いえ、多分に問題があると思うのですが」

「骨のせいか! 骨だからダメだと言いたいのか貴様ー!!」


 ヴィルマーとエラが並ぶと、ヴィルマーは言わずもがな悪の魔法使い、エラは無駄に肌が白いのも相まって魔法使いが使役する死霊の類にしか見えない。

 しかし二人は、顔を合わせるたびにこんな不毛なコントを繰り広げるのだ。

 画面だけ見ていれば怪しげな城に住む魔王と配下なのだが、話している内容がないようなだけあって、なんだかなーという気分にさせられる。



 俺がこの世界に転生してからだいたい一年が経った。

 変わったことは特に無い。

 あったと言ってもせいぜい自力で歩けるようになったこと位だ。

 ……まあ、あの親馬鹿(骨)は俺が初めて歩いた瞬間を見ることか出来なかったと言って、どうやったのかは知らないが本物の血涙を流して悔しがっていた。

 絵面がいつもの三割増しでホラーだった、とだけ言っておこう。


 そんなある日、俺は廊下の方からいつもと違う、聞いたことのない音が聞こえてくることに気がついた。

 改めて思い返してみると、俺はあまり部屋から外に出ていない。

 基本的にはこの部屋の中で生活していたし、散歩はヴィルマーが一緒に居なければさせてもらえなかった。

 それに散歩と言っても、いつもほんの少し中庭をぶらつく程度(まあ城というだけあって中庭もなかなか広いのだが。因みに今のはオヤジギャグではない。偶然だ)ですぐに部屋に戻されてしまう為に、あまり散歩をした気にならなかった。


 ……何が言いたいのかというと、俺にとってこの部屋の扉の向こうは未知の世界なのだ。

 要するにあの音が気になる。それはもうめちゃくちゃ気になるのだ。


 しゅるしゅるという音を聞いている限りだと、何かが床にこすれているような音のような気がする。

 基本的には規則的な音なのだが、ときおり音の間隔が早くなったり遅くなったりしている。


 俺はこの音をもっと良く聞こうと、よたよた危なっかしい足取りで扉へと歩み寄り、耳をそばだてた。

 音は、ちょうど俺の部屋の真ん前で止まった。

 ノックの音が響く。

 俺は驚いて周りを見回した。

 エラはいる。ヴィルマーはそもそもノックなんかしない。

 そこまで考えてやっと気がついた。


 音の主は俺がこの部屋で暮らし始めてからついぞ一度たりとも現れたことのなかった来訪者だった。

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