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三十三話:少年の入学式

 ライニール学園、入学式当日の朝。

 ザシャは全く起きる気配のないルッツに手を焼いていた。


「おい、ルッツ。起きろ」

「うーん……やだぁ……あと一時間寝るぅ……」

「おい、ったく。オーキーロー!!」

「うわぁっ!?」

「お前どんだけ寝起き悪いんだよ……」

「んにゃ……? ふあぁ……うーん、おはよう……」

「まだ寝ぼけてるし……。さっさと起きて飯食わねえと入学式に遅れるぞ」

「ああ、うん……」


 ルッツはあっちへふらふら、こっちへふらふらしながらも自分の服をクローゼットから取り出して着替える。

 ルッツがズボンを前後ろ逆に履いている事にザシャが気が付き指摘する。

 ルッツがノタノタと履き直す。


「おい……、おい……」

「あー、ごめん……もうちょっとしっかり起きれるようにならないと駄目だね」

「そんなんで冒険者やっていけるのかよ」

「敵意とか殺気を向けられたら飛び起きれるから多分問題はない」

「それって遠回しに俺にそれをしろって言ってるのか?」

「あはは」


 そんなこんなでルッツたちは食堂へ向かい、そこで若干遅めの朝食を掻き込むと、慌ただしく入学式が行われる学園の講堂へと向かった。


「何とか間に合ったね」

「お前のせいだろ」


 因みに、講堂には試験の日と同様に校門前で学生証を提示し、学園が用意した転移で移動した。

 転移した先は、大勢の生徒たちでごった返していた。

 制服はないが、在学中は黒やそれに準じた色の服を着るようにと言う指示があったので皆黒っぽい服を着ている。

 もちろんルッツとザシャも同様に黒系統の服を着ている。


「はー、こんだけの人数転移させてまだゲート維持できるとか、やっぱ学園スゲーな」

「父上のほうがもっと凄い」

「お前の父上ってのはどんなんだよ……」

「うーん、骨?」

「なんだそれ、ガリガリに細いってことか」

「あー、うん。ま、まあ……そんな感じかな?」

「何で疑問形なんだよ」


 骨と皮の皮がないけど細いのは確かだからなあ。

 なんて言えるわけ無いんだけど。

 俺とザシャはそんな風に雑談をしながら適当な席につく。


「席が指定じゃなくてよかったね」

「ああ、お、そろそろ始まるぞ」


 講堂はコンサートホールの様な感じで椅子が傾斜をつけて並んでいて、その前に舞台があった。

 ルッツがザシャの言葉でその舞台の上に目を向けると、その上には一人の男が立っていた。

 少しづつ生徒たちがそれに気が付き、ざわついていた講堂が静かになっていく。


「さて、静かになったのでそろそろ初めようかな」


 そう言って舞台の上の男は話し始めた。


「始めまして皆さん、僕がこの学園の学園長を務めているコンスタンテイン・ライニール・ファン・へルクだ。

 入学おめでとう。

 さて、僕は長ったらしい話はするのも聞くのも好きじゃないから簡潔に言うよ。

 この学園に入ったからには身分なんてものは関係ない。全ては実力が物を言うということを覚悟しておいてね。

 あと、学園の名に恥じない節度ある行動を心がけるように。

 ……僕からは以上だよ」


 コンスタンテインはそれだけ言うとじゃあねと言って手を振りながらさっさと舞台の上から降りてしまった。


「何だあれ……」

「ま、まあ、長い話聞かずにすんでよかったって思っとくしか無いんじゃないかなあ」


 ヴィルマーも大概癖が強いとは思うけど、あの人もあの人で癖がつよそうだ。


「英雄って皆あんな風なのかなぁ……」


 だとしたらとても会いたくない。

 何故かというと、相手をするのに疲れる相手はヴィルマー一人で十分だからだ。

 あの人からはとても面倒臭そうな臭いがする。


「だとしたらお前英雄になれるかもな」

「それ遠回しに僕が変人だって言ってるようなもんじゃないか」

「え? だってそうだろ」

「えー、僕は変人じゃないよ! ちょっと常識知らないだけで至って普通だし」


 ザシャがシラーっとした目で見てくるが、俺は知らん。

 知らないったら知らないのだ。



 そんなこんなで入学式を終えた俺達は今教室にいる。

 クラス分けが終わり、自分のクラスを確認したら今日はお開きらしいが、皆今日が初対面なので親睦を深めるために教室に残って誰かと話をしている。


「クラス同じでよかったな」

「そうだね」

「俺気が良さ気な奴が居ないか見てくるわ」

「いってらっしゃい」


 会話からわかると思うが、俺とザシャは同じクラスだった。

 コレでボッチは避けられた。

 クラスはすべての学科がごちゃまぜにされて組まれるらしく、一クラスに魔法使いコース、戦士コース、薬学コースなどの様々な生徒がいる。

 そしてクラスは、A組、B組、C組……と続き、E組まで有り、俺達はA組だった。

 どうやらこのクラス分けは試験の成績順に行われたらしい。

 要するにザシャもそこそこに出来る奴ってことか。

 これは実習などでは同じクラス内でパーティーを組むため、誰かが飛び抜けて優れている状態を作らない為にこのような仕組みになっているらしい。

 ザシャが『良さ気な奴』といったのはこのパーティーを組むのに良い奴、と言う意味だ。

 どうせパーティーを組むのなら、気の合う奴の方がいいに決まっている。



「やっぱりというかなんというか、年上しか居ない……。学園に入るの早すぎたかな」

「あら、そんな事はございませんのよ。あなたくらいの歳が珍しいことは確かですが、この学園は基本的に年齢を問わず生徒を受け入れてるので別に気にしなくても構いませんの」

「うわぁっ!?」


 独り言を言っていたら、突然後ろから声をかけられて驚いた。

 慌てて振り返ると、そこには金髪縦ドリルがいた。

 まじかよ。

 黒っぽいドレスを着ているし、雰囲気からしてどこぞのお嬢様だということが分かる。

 目は赤色で、顔つきはまだあどけなさの残るキツめの美人といったところか。

 あと胸がでかい。それはもうでかい。

 ジロジロ見るのも失礼だし、イルザとかで巨乳には見慣れているのでどうってことはなかったのだが、それでもやはりでかい。

 年齢的に考えておかしい。

 どんな発育の良さだ。

 詰めてんのか?


「あ、え、あはは……、聞かれていましたか」

「ええ、それはもうばっちり」

「僕はルッツ・ローエンシュタインと申します。一応魔法使いコースを受けましたが前衛もこなせます」

「あら、コレはご丁寧にどうも、私はフィリーネ・エデルトルート・フォン・キルシュといいますの。戦士コースを受けておりますわ」

「失礼、……尊き血筋のご令嬢でございましたか」

「まあ! そんなかたっ苦しいのはやめて頂戴。学園長も実力が全てと言っていたではありませんか」

「あ、はい。えっと、これでよろしいでしょうか」

「まだ固いですわ」

「うーん、じゃあ、こんな感じでいいですかね? 初対面でちょっと緊張しちゃってるので、敬語が抜けないのは勘弁して下さいね」

「……それなら、仕方ないわね」


 口調がイルザそっくりなせいで敬語で話さないといけない気分になってくる。

 ヴィルマーは基本的に放任主義だったから、俺の躾はほぼすべてイルザが行ったので仕方が無いよな。


「それで、僕に話しかけてきたということはなにか用事でも?」

「ええ。あなた、私とパーティーを組まない?」

「物凄く単刀直入ですね……」

「無駄な話は嫌いなの」

「そうですか。ザシャも一緒なら僕はかまいませんよ」

「ザシャっていうのはあの赤毛の?」

「そうです」

「分かったわ」

「ザシャに確認を取ってきますね」

「ええ」


 そう言い残してルッツはザシャの元へ向かった。


「ザシャ」

「おお、ルッツか。良い人材捕まえたぞ」


 名前を呼ぶと、俺に気づいたザシャは独りの少年を引っ張ってきた。

 黒い服の上に白衣を着ていて、メガネをしている。

 髪の色は黒に近い藍色だ。

 眼の色は黄色で、髪の色と合わせてみると何だか夜空と月のようなカラーリングだ。


「捕まえたって……まあいい。俺はエドアルド・オスモルキン、エドと呼べ。薬学コースだ」

「ルッツ・ローエンシュタインです。よろしくお願いします」

「ああ、宜しく」

「で、ザシャ。あの金髪の女の子にパーティー組まないかって言われたんだよ。戦士コースだって」

「おお、これで結構バランスいいパーティーになったな」

「ってことは入れていいんだね?」

「おうよ」


 フィリーネに向かって手招きをすると、彼女がこちらへやって来た。


「始めまして、フィリーネ・エデルトルート・フォン・キルシュといいます。リーネと呼んでくださいませ。よろしくおねがいいたしますわ」

「こちらこそ。俺はエドアルド・オスモルキン、エドと呼んでくれ」

「俺はザシャ・ヴァルター・ライプニッツだ。よろしく頼むぜ」


 あの三人は特に問題無く仲良くなれそうなので、ルッツは改めて周りを見回してみる。

 前世の知識に有る教室とほとんど同じ作りだ。

 もしかしたらこの建物を作るのにあたって異世界人が関わったのかもしれない。

 ヴィルマーも会ったことあるって言ってたし、ありえなくはないだろう。

 そして、なんだかんだでもういくつかのパーティーができ始めている。

 はぐれてる奴は特にいなさそうだ。 

 ボッチは辛いからな。コレは実にいいことだと思う。

 と、そこでエドアルドが声をかけてきた。


「さて、ルッツ。結局お前は冗談抜きで何が出来るんだ?

 杖無しで魔法を使った緑髪の少年とか言うのはお前のことだろう。薬学コースにまで噂が届いていたぞ」

「ああ、その噂は私も耳にしましたわ。

 一部の方々はどうせデタラメだろうと仰っていましたが、もしそれが真実だとすれば計り知れないアドバンテージになりますから私はルッツに声をかけたんですの」


 何が出来るか……か、こういうのって口で説明するのは中々難しいと思うんだけど。

 と言うか、口で説明するのは正直面倒だ。

 できうる限りのことはやって来たし、色々出来るに越したことはないので色々かじっている。

 こういう時にスキルとか表示できる道具があればいいのにと本気で思う。

 と、そこで俺が悩んでいるのを察したのか、エドアルドが提案してきた。


「そうだな……、ルッツ。学園には魔法を試したりするための闘技場が有るんだ。どうせならそこを借りて皆の実力を確かめ合うのなんてどうだ?」

「あー、僕はそれで構わないですよエドさん」

「うわ、お前また敬語使ってんのか」

「あー、初対面だとどうしてもね……ザシャの時もそうだったでしょ?」

「そういえばそうだな」

「ルッツが慣れるまでの辛抱ということですわね」

「この面子なら多分すぐ慣れると思いますよ」


 というわけで、俺達は闘技場を借りることが出来るか先生に聞きに行く事にした。

ス、ストックが……無い……。

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