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三十話:少年達の杖談義

 とりあえずトレントの枝を一本だけ売ってギルドを出た俺達は街をぶらつくことにした。


「な、なあ、あれ本当に貰っちまってもいいのかよ……」

「いいよ。沢山あるし……一本だけであんな大騒ぎになるなら迂闊に売れないし。

 でもせっかくあるなら使わないと勿体無いでしょ?」

「ソレはそうだけどよ……」

「まあまあ、僕には些か常識が足りないからね。色々教えてくれるお礼だと思ってよ。その代わりとことん頼るから宜しくね」

「些かどころじゃねえだろ……ったく、そこまで言うなら貰っとくけどよ」

「常識がないといろいろ困るからね。ソレにあの枝殆どタダで手に入れたようなもんだから」

「そう言われるとなんか微妙な気分になるな……要するに俺はタダ同然でいいように使われてるってことじゃねえか」

「あはは、僕にとってはそんなに重要なものじゃないけど、世間一般から見たらそれなりの価値はあるんだからさ。機嫌直してよ」

「言われなくても分かってら。……エルダートレントの杖なんて魔法使いの憧れ中の憧れみたいなもんだぞ。

 世界樹の杖とかもあるっちゃあるがあれは早々出まわらねえし、所謂雲の上ってやつだからな。

 ……それに比べてエルダートレントは、一般人が手に入れることができる杖の素材の中でもトップクラスの素材なんだ。

 魔法使いなら誰だって喉から手が出るくらい欲しがる」

「へえー」


 この世界で使われている所謂魔法使いの杖と言うものには二種類ある。

 まずは短杖、これは名前の通り、持ち運びが楽な短くて小さな杖だ。

 次に長杖、人の身長、もしくはそれ以上の長さを持つ巨大な杖だ。

 大きいぶん、魔力の増幅機能も短杖よりずっと高性能であり、杖自体に術式を組み込むことも出来たりする。

 要するに機動力か火力、どっちを選ぶかという話になる。

 ヴィルマーは杖を使わなくても魔法を使うことができたが、どちらかと言うと長杖を使っていることのほうが多かった。

 ……というか、ヴィルマーは魔法剣士なので、動きまわりながら魔法を使う様な時は大抵、杖の機能を組み込んだ特注品の双剣を持ってるので短杖の出番がない。

 そしてそんなヴィルマーから魔法を学んだオレも同様に杖はめったに使わないし、使うのは大抵が難しい魔術を使うときなのでそういったものの補助に向いている長杖を使う。

 短杖も持っていることには持っているが余り使い所がない。

 因みに俺の持っていたトレントの枝はどれも長杖と作るのに足るだけの長さと太さがあったのでザシャはどちらも選ぶことが出来る。


「で、ザシャって短杖と長杖、どっちを選ぶの?」


 俺が聞くとザシャはう~んと唸りだした。


「それ悩むんだよな……火力も欲しいけど機動力捨てるのもなーって」

「ザシャが鍛えれば長杖使っても機動殺すことにはならないと思うんだけど。なんなら棍術とか棒術とかも覚えて物理的に殴るのも考えてみたら?」

「魔術師が物理で殴るって……いや、一応有効な手か?」

「もし戦闘中に魔力切れになっても助かるよ」

「あー、要するに魔力以外の攻撃手段も一応は持っとけってことか」

「そうだね。鍛えるなら付き合うよ? どうせ一人でも筋トレとかは毎日するつもりだったし」

「おう、よろしく頼むわ」

「ザシャは結構ガタイがいいからね。鍛えたら結構力付くんじゃないかな」

「そ、そうか?」


 体格がいいと褒めたらザシャはニヤニヤし始めた。

 ……同じ男だから気持ちは分からなくもないけどちょっと他人のふりしようかな。

 俺が少し引いているのに気がついたザシャは我に返って咳払いをした。

 少し気まずそうなので此方から話を振ってやろう。


「で、どうする? それとも、一応両方作っておく?」

「あー、うーん、両方……も捨てがたいな。

 って、そういえば杖つくるにしてもまだ他の素材がいるんだよな、それもエルダートレントに見合う様なのが」

「ああ、僕はミスティックラミアの鱗とか使ったけど」

「お前、それ希少種の……い、いや、もう突っ込まねえし驚かねえぞ」

「あ、あはは」


 やはりアウトだった。

 これ以外にもアラクネの体毛とかニクラスのコボルト状態の時の髭とか、とにかく城にいる魔物たちに色々素材を貰って作ったので俺の短杖はこちら基準だととんでもない値段がつきそうだ。

 なんというか、ザシャの話を聞いていたらだんだん使わないのが勿体なくなってきたけど、使ったら使ったで威力がおかしいのでどうしようって感じだ。

 杖無しでそこら辺の魔法使い(杖有り)と同威力の魔法が使えるので下手に杖を使って増幅させてしまうととんでもない威力が出てしまう。

 うーん、悩ましい。


「でもせっかく作るなら自分で素材集めてえんだよなー」

「なんか完成した時の達成感がすごそうだよね」

「そうそう。今使ってるのも自分で一から素材集めて作ったんだけど完成した時は一日中持って歩いて師匠に笑われた」

「分かるなー。ザシャのとはちょっと違うけど、僕も父上が誕生日プレゼントに父上とお揃いの双剣くれた時は暫く肌身離さず持ち歩いててからかわれたよ」


 短杖はヴィルマーやイルザに作り方を教わりながら自分で作ったので、達成感こそあれ品質としてはイマイチ満足できなかったのだが、俺のメインウェポンである双剣はヴィルマーが色々とエンチャントやら何やらと手を加えて設えてくれたものだ。

 受け取った時に一度だけ鞘から抜いてみたのだが、それはそれは見事な出来だった。

 ただ、見事すぎて背筋が寒くなったのも覚えている。

 今も一応鞄に入れて持ってきてはいるが、あれは余程のことがない限りは抜いちゃいけない剣だった。

 別に抜いたら何かが起こるとか言うわけではないのだが、込められている力が強すぎて振り回される予感しかしないのだ。

 だが、ヴィルマーもそれを織り込み済みだったのか、その双剣のサイズは俺が扱うには大きかったので多分成長して使いこなせるように成ってみせろって意味も込めてあったんだろうと勝手に思っている。


「魔法剣士で双剣使いって、お前まんま英雄じゃねえか。ホントに知らなかったのか?」

「あー、うん」

「もしかしたらお前の父上って神殺しの英雄だったりして。ほれ、邪神大戦の英雄って何故か今でも生き残ってる人もいるし」

「あはははは」

「あはははは、って……まさか」

「い、嫌だな、そんなわけないよ。多分」

「多分!?」

「冗談だって」


 冗談じゃなくてマジモンの英雄ですが何か。

 なんて言えるわけがない。なんせ骨だし。魔王だし。


「ってかお前双剣の他にもなんか武器使えんの?」

「え? 武器?」

「俺は多少ナイフが使えるくらいなんだが」

「僕もナイフだね。後は体術とか。両手剣とかメイスも見よう見まねだけど一応使えるかなぁ……。あ、そういえば盾も少しなら使えるか」

「なんというオールラウンダー」

「直接教わったのはナイフとだけなんだけど、他は試合したときに相手の動きをよく見ておいて、試合が終わってから相手の思い出して自分でもなぞったりして練習して少しだけ覚えた奴だね。やっぱりそれを特化して鍛えてる人には劣るよ」

「見取稽古ってやつか? ルッツは凄いなぁ。俺は武術の才能ないから無理だ」

「本当にすごい人を見続けてると、どうしても自分の粗が目立つから直したくなるんだよ。……まあ、どれだけ粗い所を直しても全く届く気がしないんだけど」

「そういうもんか」

「魔術でもそういうことあるでしょ?」

「あるっちゃあるが……、魔術の場合は大抵が洗練させていくとより難しい方程式とかも加わりだすからそもそも理解ができなくなる」

「僕は全く同レベルの式でより効果的な組み方を三時間位目の前で見せ付けられ続けたことがあるんだ……。

 明後日には全部アドリブで同程度のものを組めるように成れって……」

「うわ、何言ってんのかわけんねえけどヤバそうなのは分かった」

「じっさいにやばかった」

「お前もアレだがお前の親父も大概だな」

「アレってなんだよ」

「何と言うか……、残念? っていうか」

「そうかな?」


 ヴィルマーの普段の行動が残念なのは認めるが今まで話して来た事の中にそこまで残念な要素があるようには思えない。

 少々スパルタの気があるのは確かだがそれだって俺が死ぬ気で努力すれば問題なく付いて行ける程度だ。

 ヴィルマーに比べたら俺の出来ることなどまだまだお遊びに等しいのだから、追いつきたいのならば俺が死ぬ気の努力をするのは当然だ。

 …………うん。何の問題もないな。


「うわ、無自覚かよ」

「えー、でもちょっと厳しいだけで俺はついていけてるから、結局オレのレベルに合わせたことやってただけって事だし……」

「なんだかんだでお前が付いて行けちまうもんだから余計に難易度がおかしいことに気がついてねえんだろ」


 難易度がおかしいのは確かだが、ついていけるのだから仕方が無い。

 それに、俺は一刻も早くヴィルマーに追い付きたいので、心情的に言えばちょっとくらい難易度がおかしかろうとこれっぽっちも問題ない。

 神すら殺したヴィルマーに追いつこうと言うのだから、変態的なレベルのことをこなせなくてどうするというのだ。

 それに、無自覚を装ってはいるが、実のところ俺は俺の戦闘能力がもう既に結構な位置にまで達しているということは分かっている。

 ゲーデル城の騎士と相対した時、並の冒険者達では一刀のもとに切り捨てられて終わりである所を、俺は一対一ならば何とか引き分けに持って行くことが出来るようになっていた。

 騎士たちと冒険者の戦いを直接見たことは少ないので冒険者達の力がどれくらいなのかという正確な所は分かっていないが、魔王城などというラストダンジョン的な場所に乗り込んでくるのだから、大抵はそれなりに名のある奴らだろう。

 そんな奴らの相手をして欠員を出さない騎士を相手に引き分け。

 騎士が得意の集団戦を生かしていないというのもあるが、それでも俺は戦闘能力だけならば高位冒険者に匹敵する。

 …………って、何で俺はこんなこと考えてるんだ?


「と言うか何でこんな話になってるんだよ。今するべきなのはザシャの杖の話だろ」

「お、おう!? いきなり考えこんだと思ったらそれかよ」

「で、素材はどうするの? 取りに行くなら手伝うけど」

「あー、うーん。そうだな。どんなの作れるか調べてから素材集めに行こう。杖つくる設備は学園で借りられるだろうし」

「そうだね。……あ、そういえば学園って何時から始まるの?」

「入学式が来週にあるからそこからだな。っていうかお前まだ案内読んでなかったのかよ」

「何処行ったか分かんないし」

「お前変な所で抜けてるなぁ」


 この日は、こんな感じの雑談をしながら街をめぐり、一日を潰した。

 ほのぼの日常タグを付けたのはたしかに自分だ。

 しかし、ここまで戦闘描写ほぼ無しと言う……。


 ハイペース更新キツイ!

 ってか昨日一日で信じられないほどブクマ伸びてアイエエエ!ノビタ!?ノビタナンデ!?状態ですほんと有難うございます。

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