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二十九話:少年人生初ギルド(下)※

「次に資格の剥奪についてです。

 犯罪行為、及び借金などで奴隷に落とされた場合、冒険者資格は剥奪されます。

 また、税を長期間滞納した場合なども同様です。

 また、冒険者ギルド内で私闘を行った場合、罰則が課され、それがあまりにも繰り返されるようであればコレもまた資格の剥奪対象になりえますのでご注意ください。

 ただし、ギルドへとしっかり申請し、ギルド職員を立会人とした決闘は認められておりますので、もし何か揉め事が起きた場合はこちらでケリを付けてください。

 この場合、場所はギルドの修練場を貸し出すことになりますので、手数料としてある程度の料金が発生いたします。

 出来る限り、揉め事は言葉によって解決してください。……ここまででなにかご質問はありますか?」

「えーっと、税はどれくらい払わないといけないの?」

「税は毎月大銀貨5枚です。ギルドに預金をしている場合、自動的に其処から引き落とされます」


 この世界の硬貨は銅貨、銀貨、金貨がそれぞれ大小あって、それぞれ十個で一つ価値が上の硬貨と同等らしい。

 そして、小銅貨は円で換算すると大体十円くらいの価値だ。

 つまり大銀貨はだいたい一万円相当になる。

 毎月五万、高いような安いような……いや、前世と比べたらかなり安いか。


「次に、報酬の取り分ですが、七割が冒険者、二割がギルド、一割が税金となります。

 このギルドの取り分である二割は、ギルドの維持、依頼の内容、安全性調査などに使われております。ご了承ください。

 稀に冒険者ギルドに報酬を引かれるのを嫌がってご自身で直接依頼を受ける方もおりますが、そういった場合、依頼主などとの間に起こったトラブル等は全て自己責任でお願いします」

「分かりました」

「あー、後のパーティー制度とかの小難しくない基本的な奴は俺が教えとくから、そろそろルッツの冒険者証出来たんじゃねえか?」

「はい、では、よろしくお願いします。

 ただ今冒険者証を持ってきますので、暫くここでお待ちください」


 そう言うと、その受付嬢はカウンターの奥の部屋に引っ込んだ。

 冒険者証か……金属アレルギーとか気になるな。


「冒険者証って、革で覆っちゃってもいいかなぁ」

「え?」

「いや、なんでもない」


 まあ、いざとなったら腕の方に布巻いて直接肌に触れないようにすればいいか。

 ランクが上がれば金とか銀になるからその心配もいらないだろうし。


「じゃあ、ルッツ。冒険者になったら俺とパーティー組んでくれよ」

「え、いいの?」

「いいも何もないぞ。お前みたいなスゲェのは絶対あっちこっちから引っ張りだこになるに決まってんだろ。

 勧誘できるならしておかないと。

 ……それにしても後衛二人ってのはバランス悪いな……戦士科で誰か探さないと駄目か」

「あれ、前言わなかったっけ?僕前衛も出来るよ」

「は? ああ、……確か戦士コースに入っても問題ないとか言ってたな」

「双剣使いの魔法剣士だよ」

「魔法剣士って……微妙だな」

「何で微妙なのさ」

「えー……だって大抵どっち付かずになるからな。子供に人気はあるけど実際になろうとする奴は余程のバカだって言われてるぞ。

 魔法みたいな集中しなきゃ使えないもんを使いながら剣も使うってのがそもそも無茶だ」

「ふーん」

「ふーんって、人事みたいに……」

「魔法も剣もずっと一緒に使ってきたからね。もしかするとそれぞれを別のものって考えてるからうまくいかないのかも」

「そんな簡単な話じゃねえだろ」


 ルッツがザシャとそんな話をしていると、さっきの受付嬢が戻ってきた。


「こちらが冒険者証になります。こちらの魔石に血をつけると登録完了になります」

「えぇー、また血か……」


 ルッツはしぶしぶ受け取った針で指を刺し、ぷっくりと溢れてきた血を腕輪に嵌めこまれている石になすりつける。

 すると、一瞬だけ石が淡く光った。


「はい、コレで冒険者登録は完了いたしました。またのご利用お待ちしております」


 ルッツが早速受け取った腕輪を腕にはめてみると、腕輪は初めブカブカだったが、次第にルッツの腕にちょうどいい大きさに縮んだ。

 ルッツはこういうものが存在するというのは話には聞いていたが実際に見た所、とても不思議な気分になった。

 魔法回路を見ようとするとプロテクトが掛けてあるのかノイズが入ってしまって内容は分からなかった。

 あの魔力測定装置の魔力回路が丸見えだっとところから鑑みるに、これは凄いことではなかろうか。


「おおー」

「なに感動してるんだよ……さすがに鎧まるまる一つとかじゃない限りサイズ調整の魔法なんて珍しくもなんともないだろうに」

「僕は初めて見たんだからいいの!」

「あっそ……」

「必要な物も買ったし、そろそろ帰ろうか」

「そうだな。何だかお前のせいでやたらと疲れた気がする」

「そう? 多分気のせいだよ」

「………………」

「あ、夕飯ってどうするんだっけ?」

「……寮に食堂がある」

「そっかー」


 ザシャが無言の批難をルッツに浴びせるがルッツはソレを全く気にも留めていなかった。

 ザシャはガックリと項垂れた。もうどうにでもなれという感じである。


「なんか寮の決まり事とかある?」

「門限があるな。後は先輩と鉢合わせたら先輩優先って話だ」

「へー」

「当然男子寮には女人禁制だし逆もまた然りだ」

「それは当たり前だろうね」

「と言うかお前案内読んでないのか? 確か受験申し込んだ時に貰ってるはずだぞ」

「あー、なんか貰った気がするけど慌ててたから、何処に突っ込んだか分かんないや」

「おいおい……」

「帰ったら探してみるよ」


 ザシャと一緒に帰路につきながら、なんだかんだで充実した日だったとルッツは思った。

 冒険者ギルドには行けたし、登録も終わった。

 ヴィルマーの正体の一端に触れたのは予想外の事だったが、俺が少し考えれば分かったかもしれない程度のことだ。

 城の面々が何かを隠していることが分かったが、ソレだって悪いようにはならないだろう。

 案外ヴィルマーが恥ずかしがって俺に教えないように言いつけていただけかもしれないし、何より彼らが俺に害のあることを企てるなんて到底思えない。

 詰まるところ、なにか理由があるんだろう。

 そもそも俺としてはヴィルマーが何であろうと全然構いはしない。

 ただ、目標の再確認にはなった。

 やっぱりヴィルマーは凄い。



 次の日、寝ぼけた俺が二段ベッドの上の段から落ちるといったハプニングがあったが、鍛えぬかれた俺の体は見事両足で着地することに成功した。

 反射って凄いなーと我ながら感心していたら、ザシャが目を剥いて驚いていた。

 せっかく上の段を占領したというのに、ザシャの心臓に悪いからという理由で明日から下の段で寝ることになってしまった。


「えー、さっきみたいに反射で着地できるから大丈夫だよー」

「やめてくれ、確かにワザとやってんのかって言いたくなるほどきれいな着地だったがあんなのを毎日やられたら俺の心臓が持たない。アレが反射だって知っちまったもんだから余計に心臓に悪い」

「チェー」


 顔を洗って着替え、食堂へ行く。

 流石に普通の街で生活するのに城に居た時のような服装では目立って仕方が無いのでデザイン的には一般的な普通の服を着ている。

 まあ、ザシャ曰くソレでも十分高級品だということが分かるらしい。

 アラクネの糸だもんなぁ……。

 あの城にあるものは一部を除いてほとんどが魔物たちの自給自足品だったので糸や布と言ったらアラクネ達の作った物しか無かったのだ。

 仕方が無い、……と思いたい。

 暫くはコレを着る事になるけど、お金を稼いだら普通の服も買わないと悪目立ちしそうだ。

 因みに現在の所持金はヴィルマーに持たされた小金貨一枚だ。

 日本円換算でおよそ10万円。

 しっかり考えて買い物をすればそこそこの物は揃えられるが、生活するには圧倒的に足りない。

 つまりは自分で稼げ、ってことだろう。

 こういう生きていくための(すべ)なんかになると、いきなりスパルタになるのはヴィルマーなりの優しさだと思っている。

 俺ならば一人でもできるだろう、と言う信頼もあるように思うとやる気が溢れてくる。

 ここはしっかりその信頼に答えるべきだろう。うん。

 と、そこで俺はあることを思いついた。

 ……金が無いなら物を売ればいいじゃない。


「今日は特にすることもねえし、一回冒険者ギルドで日帰りの依頼でも受けてみるか?」

「うーん、トレントの枝って売れるよね?」

「え、あ、ああ、杖のいい素材にもなるし結構な値段で売れるけど。……今度は何だ」

「沢山持ってるから売りに行こうと思ってたの忘れてたんだ。あ、良かったらザシャにも一本あげるよ」

「マジで? トレントの杖って高級品で中々手に入らないんだぞ」

「僕はもう持ってるし、それこそ僕が持ってても薪にする位しか使い道ないし」

「オイそんなもったいないことするなよ? ……まさかしてないよな?」

「あはははー、そんなことするわけないじゃないか」


 城の暖炉ではトレントの枝が燃えていた気がするが、ザシャのこの様子だと言わないほうがいいだろう。


「どうにも嘘クセェが……、まあ、そう言うならそういうことにしとくか。そのほうが俺の精神的にも安泰だし」

「うん、そうしといたほうがいいよ」

「……どういう意味だ」

「そのままの意味だね」


 昔、ゲーデル城に居たトレントに魔法の練習で使う杖を作るのに枝がいるから分けてくれないかと頼んだら、邪魔な枝を大量にくれたのだ。

 そのトレントは自分で枝を落とすことが出来るらしく、トレントが了承するなり頭上から大人の太ももほどもの太さの枝が大量に落ちてきたものだから驚いた。

 咄嗟に飛び退いて事なきを得たが、危うく枝に押しつぶされるところだった。

 トレント達にとって枝を落とすことは人間で言うところの散髪のようなものらしく、その時彼らはさっぱりしたと喜んでいたのだが、俺は辺りに散らばったものすごい数の枝を拾い集める羽目になった。

 ざっと数えて五十本ぐらいはあった気がする。

 あのトレントは大変だなあ~と笑っていた。

 何と言うか、天然腹黒と言うか、ほんわかしてるのにやたらとこちらの苛立ちを煽ってくる性格のトレントだった。


 因みに、俺がなぜ城から大量のトレントの枝を持って来ているのかというと、ソレはズバリ『念のため』である。

 もしかすると学園で杖が壊れるかもしれないと思ったので、トレントに貰った枝のほとんどを鞄に突っ込んで持ってきたのだ。

 あのエラが引っ張り出してきたヴィルマーの旅行鞄は、それはもう恐ろしいほどの容量を誇っていたので、そんな感じの『使うかもしれない物』と言う名の余計な物がトレントの枝の他にも大量につめ込まれている。

 途中からエラとヴィルマーも参戦してあれこれ入れはじめたので俺はあの鞄の中身を完全に把握していない。

 某猫型ロボットのポケットも真っ青なレベルで何が出てくるかわからないブラックボックスだ。

 どうせエラやヴィルマーのことだから役立つものだけじゃなくてかなり物騒な物まで色々と入っていそうな気がする。


「な、なんだよお前、急に遠い目になって……」

「いや、なんでもない」


 それから俺達はギルドでトレント枝を売ったのだが、どうやらと言うかやはりと言うか、あの城に居たトレントはただのトレントではなかったらしく、とんでもない値段がついた。

 枝は一本で大金貨二枚だった。

 因みに大金貨は一枚100万円相当だ。

 俺は呆然とした。

 ザシャも呆然としていた。

 この枝一本だけで贅沢をしなければ三年は暮らせる値段だ。

 取り出したのが一本だけでよかった。

 コレをたくさん持ってるなんて言ったら今でも結構な大騒ぎなのに、間違いなくもっと大きな騒ぎになっていたことだろう。

 俺は城由来のものは迂闊に外に出さないようにすることを肝に銘じておくことにした。

 この間、ついにブックマークが200を超えました。

 読んでくださっている皆様、本当に有難うございます。

 これからもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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