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二十五話:少年の隠蔽大作戦

 人間が杖を使わなければ魔法を使えないと言う衝撃の事実を知った俺は、やってしまったことはもう仕方がないと開き直ることにした。

 一応杖自体は持っているのだが、普段あまり使っていないこともあって完全に存在を忘れていた。

 杖無しでも魔法を使えることはバレてしまったし、杖を使うとギリギリまで抑えても威力が倍くらいにはなってしまうので、程々にするためにもこの試験ではもう杖は使わないことにした。


「やっぱり威力を抑える方に苦労するか……。いっそ初めから非殺傷仕様の魔法を作ってしまう方が早いか?」


 因みに杖無しでも魔法が使えるとバレた時から俺の周りには誰も寄ってこない。

 何だか気味が悪い物でも見るような目で見てきているような気がするが、俺の目標は化け物そのものなので、そう考えたらどうでも良くなった。

 入学前からボッチ決定とかいう言葉がふとよぎったが、努めて非殺傷魔法の構成を考えて打ち消した。……俺はボッチなんかには負けん。

 俺が決意を新たにしていると、さっき絡んできたガキ大将が興奮したような顔をして駆け寄ってきた。


「えっと……何の用ですか?」

「よう。お前凄かったんだな!! さっきはあんな事言って悪かったよ」

「いえ、別に構いませんが」

「そうか、ありがとな。それにしてもお前スゲーよ。びっくりした!」

「そ、そうですか。有難う御座います」


 他の受験生たちは軒並み俺にビビっているのだが、コイツはそんなことお構いなしに話しかけてくる。

 空気が読めないのか、あえて読まないのか、はたまた単なる馬鹿か。

 第一印象は最悪だが、こうして俺のことを妬むでもなく素直に謝って話しかけてくるってことは意外と良い奴なのかもしれないな。


 そうして俺の後の受験生たちが的当てを終えるのを壁際で待っていると、ようやく全員が終わったようで次の場所へと移動するためのゲートが開かれる。


 ゲートを潜った先は、何だか普通の教室の様な所だった。

 幾つもの椅子と机が並び、部屋の前面の壁には黒板と教卓がある。 

 学園職員はその場所ごとに担当が変わるらしく、教室にはさっきの職員とは別の人が待機しており、さっきの人はこの教室には来なかった。


「え、ええっと、次は属性と魔力量の検査です……。自分識別番号と同じ番号の紙がおいてある席に座ってください」


 この班に漂う微妙な雰囲気を察したのか職員の人は少しの間戸惑っていたが、全員が席についたのを確認すると教卓の上にあの各属性の水晶を取り出す。

 ……あれ? なんか見たことない丸い水晶がある。よく占い師が持っている物の様な、丸くて透明な水晶が台座に載せられている。


「……全員着席しましたね。それでは順番になりましたら番号を呼ぶので前に出てきてください」


 あの水晶が何なのかは気になるが、それよりも今集中すべきは属性検査だ。

 なにせ俺は魔属性を持っている。バレたら大変まずい事になるのはわかりきっているのだ。

 天属性も余裕があるなら隠した方がいい。闇属性がバレるよりはマシだが、コレもコレでバレてしまえば確実に余計な騒ぎになる。

 ヴィルマーに教わって自分の属性を隠す方法は分かっているし、何度も練習して完璧に隠せるようにはなった。

 だが、それでもこうやって実践するのは初めてなので、もし失敗したらどうしようという不安が顔を出す。

 大丈夫だ。やれば出来る。気合だ。

 俺はそう自分に言い聞かせて深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 自分の中の魔力に集中して、丁寧に魔属性と天属性を他の魔力と分離させ、体の奥の方に隔離する。

 時空属性も珍しいが、こちらは一般人が持っていても不思議ではない属性なので放置でいいだろう。


「次、一〇二九四二番。前に出てきてください」


 そうこうしている内に、いつの間にか俺の番になっていたようだ。

 隔離した魔力をもう一度確認する。

 大丈夫だ、漏れはない。


「では、魔力検査のやり方はわかりますね?」

「あの、その丸くて大きい水晶の使い方がわかりません」

「コレは最近作られたものですからね。……コレは個人の最大魔力容量を測定するための魔道具です。使い方は他の水晶と同じく魔力を流すだけですよ」

「分かりました」


 丸い水晶の使い道もわかった所で、俺は早速属性の方を片付けてしまうことにする。

 カラフルな水晶の破片のような物を手にとって一つずつ細心の注意を払って魔力を注ぎ込んでいく。

 実はこの水晶。魔力を注ぎすぎると砕け散るのである。

 天、魔属性を隠すこともあるが、水晶を砕かないように魔力を注ぐのにも神経を使った。

 玉乗りしながら両手で皿回しをしているようなものだ。

 何度も繰り返し練習すれば出来ないことはないが、それでもバカにならない難易度である。

 俺は悪戦苦闘しながらも、何とか属性の水晶に魔力を注ぎ終えると、筆舌に尽くしがたい達成感を感じた。


「ふぅ……」

「終わりましたか? 随分と苦労されているようでしたが……」

「はい。何とか」

「では水晶を見せてください……え、ええっと、『火』『風』『水』『土』『光』『闇』『時空』『無』……。『天』と『魔』を除く全属性ですか……。コレはまたすごいですね」

「有難う御座います」

「では次は魔力量です」

「はい」


 隠していた属性を開放すると魔力の質が変わって気が付かれるかもしれないので、天、魔属性は隠したまま、俺は先ほどまでと同じように目の前にある丸い水晶に魔力を流す。

 すると、次の瞬間、水晶がフラッシュグレネードもかくやというほどの光を放った。


「ぐっ……」

「うわっ」

「な、何が起こったんだ!?」


 咄嗟に目をつぶったが、それでも瞼越しの閃光が目を焼いた。

 目が眩んで何も見えないので魔力や音で周りを探る。

 いきなりのことで教室はかなりざわついていて、目が眩んだことでパニックになった奴が居る。

 おい、目が眩んでて周りが見えないなら彷徨こうとするなよ……。


「動くな! 今の光は測定具が暴走しただけだ、危険は無い!」


 誰かを巻き込んで転んだりしたら危ないので、とりあえず大声で活を入れてみた。

 パニックを起こしていた奴は今ので落ち着きを取り戻したらしい。

 ざわつきは収まらないが、次第にじんわりと眩んでいた目が見えるようになり始めた。

 測定具の暴走とは言ったが、実際は十中八九俺の魔力量が多すぎたせいであんな事になったんだろう。

 俺は水晶をじっと見つめる。

 すると、だんだん水晶の中に組み込まれた魔力の流れが浮かび上がるように見えてきた。


「おお。できた」


 魔道具なら中に魔法回路が組み込まれていることは知っていたし、多少の理論は勉強したが、こうして実際に回路を見るのは初めてだ。

 色々と学んだ結果、魔力回路は電気回路に似ていることが分かっている。

 一定の方向に魔力を流すとその先に付けられた何らかの機能を持つパーツが作動し、流された魔力がそれらの許容量を超えるとショートしてしまう。

 だがまあ、この魔道具を見る限り複雑で理解できないところもあるが、光量を落とすだけなら問題はない。

 俺は魔道具を間違って作動させないように慎重に魔力を伸ばしてその魔法回路に干渉し、魔力を取り込む機能を持っている場所の隣、魔力の進行方向に幾つかのコブを作ってやる。

 コレは魔力の流れを妨げる、いわば電気回路での抵抗器の様な物だ。……これだけでもだいぶ出力は落ちただろう。


「コレで大丈夫かな」


 俺がもう一度水晶に魔力を流すと、眩しいが、先程までではない程度に水晶が光った。

 よし。これでいい。


「あの……」

「は、はいっ!!」

「魔力量ってコレでいいんですか?」

「え、あ、ああ。そうですね。はい。これだけあれば何の問題もありません。はい」

「そうですか、ありがとうございました」


 職員の人が少し呆けていたが、声をかけると気を持ち直したようで俺の測定結果を持っていた紙に書き込み始める。

 俺はその間に先ほど水晶の魔力回路に付けた抵抗を取り除いて自分の席へと戻った。

 もしかしたらあの職員人には魔力回路をいじったことがバレたかもしれないが、バレた所で俺がやったのは単に眩しすぎる光量を抑えただけなので文句を言われることはないだろう。

 しかしあの魔道具は便利だな。もし買えるならヴィルマーへのお土産にしよう。

 魔力量を計る度に魔力切れでぶっ倒れるのはもう懲り懲りだからな。


 そうして、俺はそのまま何事も無く魔力測定を終えた。



「うーん、高得点でバーン大作戦は上手くいってるのかな? 多少は目立ってるんだろうけど……、まあいいか。気にせず行こう」


 次は、魔力測定を行った部屋からは移動せずに筆記テストを行った。

 さっき座る席が指定されていたのは恐らくこのためだったのだろう。

 番号順に座らせれば集めたテストの順番を整える手間が省けるからな。

 科目は「算数」、「国語」、「地理」、「魔法理論の基礎の基礎」の4つだったがどれも簡単だった。

 地理は少し怪しかった気もするが、多分大丈夫だろう。

 算数は本当に算数だった。足し算引き算の計算に文章題。

 正直、小学一年生レベルの問題で拍子抜けしたが、普通に生活する分にはそれ以上の数学なんてほとんど使うことはないのでこれくらいが普通なんだろう。

 国語は普通に文章が読めるなら問題はない程度の問題だった。


「と言うか、なんかこのテスト魔法使い向けのばっかりだな……。戦士系の人たちはどうしてるんだろう?」

「はぁ?魔法使いコース受けてるんだから当たり前だろ。何言ってるんだお前」


 俺の独り言に反応したのは例のガキ大将だ。


「あー、そうなんだ。僕、慌てて出願したから詳しくコースとか見てなかったんですよね。言われてみれば確かに魔法使いコースを選んでました」

「言われてみればって、お前……戦士系とか開発系選んでたらどうするつもりだったんだよ」

「ああ、別に僕そのどれでもやっていける程度の力も知識もあるので。多分問題はないですよ」

「はぁ? 開発系はともかくそんなちっこいくせに戦士系とか無理だろ」

「ちっこい奴にはちっこい奴の戦い方って物があるんですよ」

「そうか?」

「そうなんです」


 何だかコイツとは友達になれそうな気がする。

 ただ、見た目で相手を判断して侮る性格は早めに矯正した方がいいだろうな。

 弱そうな見た目でもめちゃくちゃ強いやつとかも城に居たし、何より魔法に見た目は関係ないので城以外にもわんさか居る事だろう。

 だが、その性格さえ治れば結構いい奴そうだというのが今までの会話で少し分かってきた。

 素直に自分の失敗を認め、相手を褒めることが出来るのは美点だ。

 何よりイケメンだしな。

 前世の反射でくそ、イケメン爆ぜろと思ってしまうのは仕方があるまい。

 赤い髪を短く切りそろえていて、体格がいい。しかも、これから先にはもっと伸びるだろう。

 髪も目も赤いので、俺とは全く逆のカラーリングだ。

 なんというか、いかにも戦士系ですと言わんばかりの見た目だ。何で魔法使いコースに来たんだろう。


 因みに試験は筆記で最後だったらしく、俺達は今、使った筆記用具を片付けている最中だ。

 何と言うか、色々と疲れたので早く宿に帰って休みたい。


「お互いに受かるといいな」

「そうですね」


 そう言って俺達は別れた。

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