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神様の育て方  作者: つられるクマー
新しい身体編
5/6

4.健康診断をしたよ

「はい、背筋をしっかりのばして――」

「は、はい!」


 眼鏡をかけた黄金色の髪を頭の高い位置でひとつにまとめ、白衣を着たセクシーなお姉さま――この学校の保険医と名乗ったエレミーナ先生に言われ、その柱と並行になるように背筋をピンと伸ばす。

 スーッというかすれたような音がし、頭の上に軽く何かが乗せられた私の横で、エレミーナ先生は何かを見て頷き、手元の紙に何かを書き込む。


 私は今、健康診断を受けている。

 今測っていたのは身長で、その他には体重や胸囲。他には聴診器を胸にあてられ変な音はしないかとか、屈伸や背筋力に握力測定、そしてジャンプ力や反復横跳び等のスポーツテストのようなものも同時にやらされている。

 面白かったのは魔力測定というもので、私が死ぬ前の世界では架空の物語の中にしかないそれに、やはり神様は魔法のような不思議な力を使うのか! と、感動したものである。


「あとは……そうね。属性検査で全部終わりかしら?」


 手元の紙――私の診断票と思われる――に数値を書き込むと、私を見ながらそう言った。

 その聞きなれない言葉に私は首を傾げる。


「属性検査…ですか?」

「ええ、そうよ。神は万能と思われがちだけれどね、実はそれぞれに得意不得意なものが……個人差があるのよ」


 疑問に思った事に対して違う返事が返ってきたので、私は少し考える。

 属性という事はつまり、ゲームの知識で言えば、炎とか水とか風とか重力とか、そういう属性の事で、それの得意不得意を知るための検査という事だろうか。

 私の診断票一通り記入し終えたらしいエレミーナ先生にこっちよと言われ、その後をとてとてとついていく。


 今までいろいろなものを測っていた部屋から、薄暗い部屋へ入る。

 先生はその部屋の真ん中に置かれた、占い師の使う水晶玉のようなものの前で止まり、私に振り向いた。

 そして私の手を引き水晶玉が私の前にある状態にすると、そのまま私の反対側の位置に着いた。


「この水晶に手をかざして……そうね。さっきの魔力測定の時よりは少し弱めに力を注いで?」


 できる?と言うように先生が首を傾げて見るので、私はがんばります! と大きくうなずき手を水晶玉へとかざす。

 力を――魔力を何かに注ぐという事は、先に魔力測定でやり方を教えてもらっていたので、できる。

 ただ、魔力測定は魔力量を測るためのものなので、全力で注ぐ必要があったので教えられた通りにすればよかったのだが、今度の属性検査とやらはそれよりは弱めに注がねばならないらしい。

 弱めに、弱めに……、弱め?


 意気揚々と頷いといてなんだが、弱めに注げと言われてもイマイチよくわからない。

 がんばりますと言った手前、わからないなんて言うに言えない。しかしこのまま水晶玉に手をかざしたままでも何も起きないのだから、どうしようもない。

 おそるおそる水晶から目を離して見上げると、エレミーナ先生と目があった。

 水晶玉に手をかざして固まったまま見上げる私に、エレミーナ先生は少し目を細めただけでその事には何も言わず、私の頭を撫でながら口を開いた。


「魔力測定の時のように注げばいいのだけれど、そうね。少し力を抜いて……まず深呼吸してから身体の力を抜いて? そう、そのまま、そのままゆっくりと力を注ぐの。……そう、その調子よ」


 私は大きく息を吸ってからはき出し、何も考えないように気を付けながらエレミーナ先生の言うとおりに水晶玉へと魔力を注ぐ。

 最初のうちは何も起こらなかったのだが、魔力を注ぎ始めて120ほど数えた頃から水晶玉の中心に白い靄のようなものが見え、それが赤・青・緑・黒…色を変えながら大きく水晶玉いっぱいに広がっていく。

 そして、さらに120数えるくらいになるとその色の変化が止まって青緑色に落ち着き、その青緑色の靄が何かの形へと変化していく。

 最初は弓に、次は槍に。次々と武器や雑貨、私の知らない形になったりもしながら、靄は目まぐるしくいろんな形を取り、そして最後に本の形で止まる。


「なるほどなるほど。珍しい色だけれど、前例はあるから大丈夫ね」


 うんうんと頷きながらエレミーナ先生はそう呟いて私の診断表に何かを書き込み、もう手を放していいわよと私に言う。

 私は魔力を注ぐのを止めてから手を放し、先生を見上げて問いかけた。


「……珍しいのですか?」

「ええ、とても。ここ千年くらいは出てないのではないかしら?」


 先生は書き込み続けていた手を止め、指を顎に当てて首を傾げる。

ぼんきゅっぽんに白衣を足した先生のその姿からは、男だったら悩殺されそうな色気が出ている。

 生前の私にそこまで色気があったかと聞かれると少し悩んでしまうが、それでも今のこの小さな身体からするとこう、まぶしく、憧れてしまう何かがあると思う。


「元素は青と緑…風と水ね。そして最初のふたつは弓と槍、最後のふたつは翼と本。生活に密着した神を目指すといいと思うわ。それと、戦争には向いていないから、戦いになりそうな時は逃げなさい」


 私がエレミーナ先生のセクシーさに憧れているのを余所に、先生はそう言った。

 生活に密着した神を目指すというのは平和そうでよさそうだが、戦争という言葉に私は目を見開いた。


「せ、んそう…?」

「ええ、戦争。アナタにはずっと先の事だと思うけれど、人と同じで神にも戦争はあるの。その相手は人であったり神であったり……その時々で違うのだけれどね」


 ただでさえ人手不足なのに戦いによって神は常に減っているのだから困ったものよね、とエレミーナ先生は続ける。

 小さな喧嘩やニュースでおそろしい事件、戦争。そう言ったものが身近にない世界でそれらに関わる事なく終えた人生を持った私に、それはとてもおそろしく聞こえたのだ。

 私がその事でおびえた事に気付いたのか、エレミーナ先生はペンと診断票をどこか――宙に消えたように見えた――にしまうと、私を抱き上げた。


「大丈夫。あなたは戦いの神になる可能性は低いのだから、そんなに心配しなくていいのよ?」


 その細腕のどこにそんな力があるのか、抱き上げた私を片腕で支え、もう片方の手で頭をなでる。

 孫も子供もいるのだが、今の身体が小さいからか――十夜さんもそうだったがエレミーナ先生も私を小さい子のように扱う。

 それが嫌だという事は決してなく、とても心地がよくて、甘えてしまうのはどうしたらいいのか。

 恐ろしいと思った心が、頭をなでるエレミーナ先生の優しさでほぐれていく。


「わ、私――」

「いいのいいの。たとえ前の人生があったとしても、アナタはまだまだ若いのだから甘えていいのよ?」


 思わずこぼれた涙をエレミーナ先生はハンカチを取り出してぬぐってくれた。

 エレミーナ先生も保険医ではあるがこの世界にいるのだから、神様のひとりなのかもしれない。

 それならば神様見習いになる予定の私よりも長く生きているのだろう。


「私、がんばります! 先生みたくやさしくて強くなれるように!」


 あふれる涙を止められずひとしきりエレミーナ先生の胸で泣いた私は、そう強く宣言した。

 先生は優しい顔でがんばってねと、私に微笑みをくれたのだった。


属性検査というより、何の神様に向いているか検査と言った方がいいかもしれません。


2015年1月28日 少し修正しました

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