1.小さくなったよ
目を開けると見た事のない木目模様の天上があった。
状況が飲みこめず、起き上がり周囲を見回すと病院に居た時と同じような薄い黄色のカーテンが私の寝ているベッドの回りを囲んでいて、その先は見えない。
いや、ちょっと待って。
「……手が、動く?」
疑問が口を出ると同時にその声のトーンにも驚いて、手を口に当てた。
私の声であることはあるのだが、記憶にある声よりも若干トーンが高い気がする。
そして手を口に当てて気づいたのだが、手の大きさが記憶にあるそれよりも、小さい。
慌てて自分にかけられていた布団をめくり自分の全身を見下ろすように確認する。
「小さく、なってる…?」
自分で言うのも何だが、もみじのような小さな手で自分の顔をぺたぺたと触る。
ほっぺたとかこれでもか!という程ぷにぷにしていて、記憶にあるしわしわな感触は一切しない。
髪の毛はこれもまた記憶にある白いく癖のあったものとは違い、黒々としていて癖はなくまっすぐにのびている。ちなみに長さは肩より少し長いかな?くらい。
訳が分からない。
もしかして夢なのかとも思ったが、私はそもそも生きていない。
たしかに孫や子供に看取られて死んだはずである。
これはどういうことなのか。
必死になって考えて――いや混乱していると言った方が正しいかもしれないが、その時にベッドを囲むカーテンがザッと開けられた。
「目が覚めましたか?」
カーテンをあけた人物がどぎまぎしている私にそう問いかける。
その人はメガネをかけた日本人顔の男だった。
黒目黒髪の今では貴重な七三分けな髪型で、おそらくだがスーツの上に白衣を着ている。
どこかの学者とか言われても違和感はないその男は、何も言わない私の顔を覗き込むと、もう一度問いかけた。
「目は覚めたようですね。意識はしっかりしていますか?」
「あ、はい! よくわからないけど大丈夫です!」
顔をのぞきこまれて慌てて返事をしながら顔をあげると、男は面白そうな顔をしていた。
「よくわからないのに大丈夫なのですか?」
面白い事を言うねと少し笑って、それから私の寝ているベッドの下を指す。
指された場所を見ると小さな赤い靴が一足。
「大丈夫ならば、場所を移動しましょう。靴はそこに……立てますか?」
私が靴を確認したのを見て、男はそう言った。
はいと返事をしてベッドから手をのばして……も靴に手は届かなかったので、仕方なく降りようとしたら、男が片手で私を抱え上げ、もう片方の手で靴を持った。
不思議に思って男の腕の中から見上げると、男は苦笑した。
「貴女は小さいですからね。あちらに椅子がありますのでそこまで運びます。そこでゆっくり履いてくださいね」
男はそう言い、ベッドから1メートルも離れていない場所にあったソファの上に 私を下し、その横に赤い小さな靴を置いた。
ありがとうと男に言って、私は置かれた靴を履く。
手と同様に小さくなった私の足に、その靴はピッタリだった。花の飾りがかわいい靴だ。
「履けました」
「はい。それでは行きましょうか」
そう言って立ち上がると、男はにこりと笑う。
私の手をとり、男は私の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩く。
そこでふと、今更な気がしなくもないのだが、気になったので聞いてみた。
「どこへ行くのでしょうか?」
男は私のその問いに楽しそうに目を細め、こう言った。
「神様のところですよ」
やはり私はちゃんと死んでいたらしい。
正直に言って、ほっとした。
※2015年1月28日 ちょっと修正しました
※2014年12月25日 男の口調を間違えていたことに気付いたので修正しました