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序章
ぼんやりと白い天井が見える。
手にも足にも力は入らないが、感覚は生きている。
「おばあちゃん!」
声がする。
この声は一番上の娘の子供――私の最初の孫の声だ。
「お母さん!」
「お袋っ」
「お義母さん…」
私の娘、息子、その嫁。
そんなに大きな声を出さなくても聞こえているのに、私の声は音にならない。
ぼんやりと見える天上の前に、顔が見える。
孫と娘と息子夫婦と。
私の心臓と同じ速度で鳴っていた電子音が消え、同時に何を主張しているのか、けたたましく耳に残る音が鳴り始める。
その電子音と一緒に孫たちの声が聞こえるがもう見えない。
これが死ぬという事なのだろうか。
聴覚が最後まで残るとはよく聞くが、本当だったのかと取り留めもなく思った。
いろいろあったけど、娘と息子は立派に育ち、孫を見る事もできた。
悪くない人生だった。
先に逝ったあの人は待っていてくれるだろうか。
もはや死ぬことに恐怖はなく、心は温かい気持ちでいっぱいで、私は私の人生に納得し、死んだ。
享年84歳、佐々木美和子。
それが私の人としての最後の記憶。