25時間目(2014-10-01)
一日が終わるね、と言って、彼女は席を外した。僕は大きなあくびをして、外の景色を見る。今となっては見慣れてしまった夜景は、相変わらず都会の騒々しさを伝えてくれるようで、しかし何も聞こえず、ただたくさんの光だけが見えた。高層ビルのオフィスからの眺めはリアリティを失っていて、僕は目の前の残業という現実と向き合っているだけだ。
同僚の彼女はカップを両手に戻ってきて、温かいコーヒーを僕の机に置き、隣の席に座った。ミルクと砂糖2つずつだったよね、と今思い出したかのようにつぶやいて、彼女は自分のカップに口をつけた。僕は小さく肯定し、音を立てないように飲んだ。横目にモニタを見ると、右下に表示される日付がちょうど変わった。
コーヒーを飲み切らないうちに何とか仕事が片付き、彼女と外に出た。オフィス街は静まり返っていて、隣を歩く女性が鳴らすヒールの音だけが聞こえる。終電まで時間がなく、足早に駅までの歩を進めた。駅前の通りには、週の半ばだというのに宴会を終えた会社員たちの輪がちらほら見えた。あと1、2時間早く仕事が終わっていたら、コーヒーの代わりにビールを飲んでいたかもしれない。でもそれはもっと大人数で、上司も後輩も含めてわいわいやる類のものだったりする、余計疲れることになる。
「うーん、お酒は静かに飲むのがいいと思うんだけどな」
彼女は少し息を切らしながら言った。本音ではそうだろうけど、お酒は人とのコミュニケーションを円滑に進めてくれるということを、多くの大人は学生のときに社会勉強として学んでいたりする。そうだねと僕は言って、近いうちに誘おうかなと考えた。最近はわざと片付いていない残業が丁度いいタイミングで片付いてくれれば、だけども。
逆方面に向かう彼女とホームで別れ、僕は混雑する電車に揺られていた。座れずに約20分。そこからさらにタクシーで20分。自宅のマンションまではなかなかに遠い。家につくまでが仕事みたいなものだ、と思った。別れ際に週末の予定でも聞いて約束を取り付けておけば、帰路の心持ちも変わっていたかもしれない。まぁいいやと車窓から夜の町並みを見る。疲れきって固まった自分の表情が反射で見えて、電車の走る音だけが聞こえた。




