マイ・ハウス
突如として画面の中に現れた女のコは、高校生いや大学生くらいになるだろうか。ロングヘアーがよく似合う清楚な感じのコである。画面がモノクロでわかりづらいが色白でやわらかそうな肌に見えた。ロングヘアーの黒さと柔肌の白さが際立つくらいにコントラストを描いていた。
しかし、シンジはひとつだけ不思議に思ったことがあった。それはモザイクである。画面に映っている女の子の顔、しかも目の部分だけにモザイク処理が施されているのだ。そのコが動くとモザイクはウマイ具合に移動し、目元だけを絶対的に隠すのである。まあ、不思議には思ったのだろうが、どういう仕組みになっているかまでは今のシンジには二の次であった。胸の鼓動が尋常ではほど激しくて、色々な想像をしているうちに次第にシンジも興奮していた。
女の子がいなくなった画面はしばらくの間、変わり映えのない映像が続いていた。痺れを切らした店長は早送りを始め、乱れ掛けた呼吸のままシンジに話し掛けた。
「どうですか。ゾクゾクしてくるでしょ」と燃えるような目玉が印象的で、シンジは生つばをゴクっと飲み込むことしかできなかった。
窓1つない隠し部屋は男ふたりの熱気でムンムンとしている。頬から顎へと伝った汗が1滴また1滴と垂れ落ち、木目の床材に染みを作ってしまうほどだった。
そうこうしていると、一度が画面からいなくなった女のコが再び画面に戻ってきた。
「待っ○ま×たっ」
店長はすでに興奮しすぎてもう言葉になっていなかったが、再生ボタンを押す反応は非常に早かった。
「ご主人、落ち着いてくださいね。どうか落ち着いて」
自らを落ち着かせるように呟く店長。そんな言葉はシンジの耳にも届いていない。
ロングヘアーの女の子は画面の左端から歩いてくると、シンジたちに背を向けるようにしてくるりと回り、色のついた上着の裾を両手でゆっくりと捲くり始めた。
「キ、キタよお~。うぉーーー」
変態じみた声を発した店長は両手を画面に向けて伸ばし、つまんだり、撫でたり、揉んだりとすでにプレイに入っていた。横から見た店長の目つきは彼女を犯しているように怪しく、仮想の世界にどっぷりと浸かっているようでもあった。。
純白(あくまでもシンジの観た感想)の下着が次第に露わとなっていく。か細い腕を背中に回しホックを外した彼女。残すはあと1枚となっていた。
店長もシンジも気付けば画面に鼻先がくっつくくらいに近づき、その鼻息で画面が曇ってしまうほどの距離。鼓動も興奮も頂点の極みに達しようとしていた・・・その時だった。
「お父さ~~ん、どこ~」
「あなたー。シンちゃ~ん」
(???・・・?!?・・・・・・!!!)
かすかに聞こえた自分の名を呼ぶ声たち。声の主は愛する家族・ミナコとマコトであった。急に現実に引き戻されたシンジの心臓は今までよりも大きく強く飛び跳ねた。気が遠くなっていくのを必死で堪え、気を落ち着かせようと何度も何度も深呼吸を繰り返した。
店長はとても冷静で、反射的に画面の電源を切り、壁を開け、シンジの腕をグイっと掴み、隠し部屋から一目散に脱出したのだった。そして、流れるような作業で壁を元に戻してしまった。
「ご主人、返事して・・・返事」
そう促されたシンジは、震える声のままでふたりを呼んだ。
「お~い、ここだよ。寝室にいるよ~」
「な~んだ、ここにいたんだ。お母さん、ちゃんと探してよね」
「んー、さっき見たんだけど・・・」
小首を傾げたミナコにシンジが「こんな広い寝室にクローゼットまでこんなに広いんだよ。ミナコも掃除するの大変だねえ」とやや強引だが話をすり替えてみた。
「まあ、その時は・・・シンちゃんも手伝ってくれるよね」
「もっちろんだよ。オッケー、オッケー」作戦はなんとか成功したようだった。シンジはさらに話しを進め「見晴らしもいいんだよ。こっち、こっち」とミナコとマコトを窓辺に誘導。その隙に店長は静かにクローゼットの戸を閉めたのだった。
「シンちゃんもなんかその気になってきたんじゃない」
「ミナコの方だって」
「わたしはもともと・・・欲しかったし」
「俺もなんか、家欲しくなってきたな」
「ホントにっ」その言葉を聞いたミナコはシンジに飛びつくように抱きついた。「本気で言ってるの? シンちゃん」
いろんな意味で興奮冷めやらぬシンジは腰を少しだけ浮かせながら、ああ、と返事していた。シンジの本心は未だ決めかねていたのだが
「考えてもよさそうだね。良い家でしかも安いし、何より店長も親切だしね」
とまだ充血が納まらない瞳で店長を見つめた。
その後居間へと戻った一行は、セミ注文住宅のパンフレットや銀行融資の資料等を手渡され、簡単な説明を店長から受けたのだった。
「家に持ち帰り相談してみます。今日これなかった長女にも話を聞かせたいので」
前向きな姿勢になっているシンジは帰りの車の中でも話しを続けた。
「手狭になっているのは事実だし、絶好のタイミングだったかもしれないね。カナミもきっと喜ぶだろうね」
「ボクは、あのお部屋決まりだからね」とすっかりロフトを気にいったマコト。
それを聞いていたミナコは助手席で満面の笑みを零していた。




