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マイ・ハウス

 昨晩のブルーな出来事とは反対に、翌日はどこまでも空が見渡せるほどの快晴。出掛けるには絶好の日曜日となった。

 カナミは今日も部活動があるので、朝早くに出掛けている。

 残った3人はだらだらと遅めの朝食を採りながら『○っていいとも増刊号』を観るのがお決まりとなっていた。しかも、長男坊のマコトは戦隊ものシリーズからアニメへと続く日曜朝のフルコースを観ないといけないらしく、誰よりもちょっとだけ早く起きては居間のTVに齧りついている。

 朝食を済ませ、外出の支度を事務的に淡々とこなしていくシンジ一家。男性陣の出掛ける準備はおおよそ12時をまわる頃には出来上がったが、妻ミナコは化粧をしなければいけないらしい。普段はスッピンでも十分イケると思うのだが、そこは女性である。念入りにドレッサーと対峙していた。

 いよいよ外出しようとするとミナコは決まって「ガスの元栓・・・ヨシ。タバコの火も・・・ヨシと。窓の鍵は閉めたし・・・」と始まる。先にマコトと二人で車に乗って待っているのも珍しくはなかった。

 全ての確認を終え、すこぶる満足そうな表情で車に乗り込むミナコ。シンジはミナコのその笑顔が大好きで堪らなかった。たまにおっちょこちょいな所も見せるけど、シンジにとっては『しっかりもの』の妻なのだ。昨晩のような時だって落ち込んだ旦那を何よりも先に案じてくれるし、安らぎをいつも与えてくれるミナコをシンジは心の底から愛している。自分には勿体ないほどの『できた妻』だと自負してやまない。

「もういいのかい? 忘れ物はないね? シートベルトも忘れずに」

 思わず抱きしめたくなるほどに愛おしいミナコと、無邪気で天真爛漫なミナコ似のマコト。今は部活動でいないがカナミの美人具合もミナコから譲り受けたもので、シンジはそんな我が家族が大好きで大切で堪らなかった。だからシンジは、家族に対して感情的になることも、取り乱すことなんかも全くない。子供たちに言い聞かせる時だって、理解しやすいように噛み砕いて説明してやるし、自然と優しく接することができている。そのせいか子供たちも曲がることなくすくすくと大きく育ってきてくれた。

 昨晩の台詞は案外、シンジに対する慰めだけではなく、こんな幸福いっぱいの家族をアパートではない戸建住宅で暮らしたいというミナコが望む本心だったのかもしれない。


 春の陽気に包まれた日曜日の環状道路は、大型スーパーに向かう車たちで大渋滞していた。

 最近オープンした全国チェーンの大型スーパーは、今まで地元にはなかったブランドやメーカーを取り扱っている直販店が多数出店していて、ボーリング場やカラオケ等の娯楽施設をはじめ飲食店もズラリと軒を並べているため、休日の家族連れにはもってこいの『レジャーランド』なのだ。

 シンジ家のようにのんびり昼から出掛けようものなら、第一駐車場はもとより第二駐車場も満車になってしまうので、環状道路を挟んで向かい側にある少し離れた第三駐車場に停めて歩いて行くしかない。

 それでもシンジはダメもとでスーパー側の第一・第二駐車場に向かったが、案の定、ガードマンに門前払いをくらってしまった。

(チっ)

 軽く舌打ちをしながらハンドルを切ったシンジ。わかっていた事だが、なんだか悔しかった。仕方がなく車を第三駐車場に入れたがココも大変混んでいて空いている箇所もわずかのようだ。徐行しながらゆっくりと奥に進み、やっとみつけた空きスペースに我先に車をつっこんだ。季節は初春である。車から駆け降りたマコトは首を伸ばす仕草で遠くのスーパーを眺めた。

「こ、これ・・・歩くんだよね」

 首を引っこめたマコトは絶望の淵にでも立っているような声で呟いた。

「あそこは涼しいんだぞお。風邪ひいちゃうかもよ」と苦笑いをしながら希望的観測を述べたシンジも首を長~く伸ばしたが、遠くに見える景色が蜃気楼のように歪んでいてさっきの言葉に後悔の念を感じてしまった。

 3人を照らす日射しがやけに眩しくて、やけに暑苦しく感じた。歩いているだけで額に汗の粒が浮かぶほどの陽気で、一家のダラダラ感は増す一方だった。一刻も早く、あのクーラーがキンキンに効いたオアシスにたどり着きたいと思う一心で一致団結する一家であった。

 そんな想像をしながらやけに長い環状道路の横断歩道で信号待ちしている時、シンジは左肩をポンポンと二度叩かれた。振り返るとただでもカワイらしいミナコがニッコリと微笑んでいる。

「ねえ、シンちゃん。あれ見て、あれ」

 ミナコが指さす先へ振り向くシンジは、眩しくて照らす日射しに思わず手を翳した。

「んん、何だ?」

 眩しそうに目を細め、首を前に突き出したシンジ。逆光のもとにあったのはこじんまりとした一軒の不動産屋であった。ミナコはまだ指を降ろしていない。シンジは再び目を凝らし店先に張ってある張り紙を注視した。

「イ・マ・ガ・チ・ヤ・ン・ス・セ・ミ・チ・ユ・ウ・モ・ン・ジ・ユ・タ・ク? 1000万円カラ?・・・だってさ」

 片言に呟いてから振り返ったミナコの長い髪の毛がシンジの鼻先をくすぐった。

「はなしだけでも・・・訊いてみない? 話だけだから、シンちゃん。いいでしょ。ねっ、ねえ」

 さっきまであまりの暑さでダルそうにしてミナコはどこへいったのやら。張り紙をみつけたミナコは甘えるような眼差しに変貌していた。

(ゾクゾクっ)

 久し振りにそんな瞳でみつめられ、思わず欲情してしまったシンジは考える間も無く「い、いいんじゃないか。話だけならさ」と浮ついた心地そのままで頷いてしまった。

(なんか、久々にイロっぽかったなあ。今のミナコ)

 胸を躍らせながら、もう一度余韻に浸ろうとしていたシンジであった。 

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