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マイ・ハウス

 今晩の夕食は家族みんなの大好物・カレーライスである。

 このピリピリとした空気を払いのけるにはうってつけのナイスカレーだった。ミナコが台所に立っている時から食欲をそそるいい匂いが昼寝中のシンジの鼻腔をくすぐっていたから、うすうすとシンジはカレーを認識していたのだった。

 しかも、ミナコ特製のこのカレーは訳がわからないほど、とにかくウマイ。男性陣2人はともかくとして、年ごろのカナミでさえもスプーンが止まらず、何度もミナコに皿を差し出すほど。そんなカレーライスだから食べていると自然にホッコリと笑顔になり、家族の会話も弾んでいくのは当然と言えば当然だった。

 さっきまでムスっとしていたカナミも、今では幸福せそうな表情をしている。すると、美味そうにカレーを頬張っていたカナミが突然、上機嫌な口調でわざとらしく話しを切りだしてきた。

「あっ、そう言えば来週の日曜日、お友達のクミちゃんちにお呼ばれされてるんだったわ。行ってもいいでしょ、お母さん。なんかね・・・新しいおウチができたんだって。えーっと『シンチクイワイ』とかって言っていたような?」

 小さなアゴに指を立てながら首を傾げたカナミ。

「あら~、ホント。いいわねえ、新築祝いだなんて。この不景気の中で珍しいわよね。羨ましいわね、ねえ、シンちゃん」

 絶妙なキラーパスを送る日本代表の妻ミナコ。シンジはそんな鋭いパスに焦りを隠せず「ん、んん・・・」と大きめのじゃがいもを飲み込みながら言葉を濁し、ニッコニコしながら父の返答を待つカナミに対して「んん・・・いいんじゃないか。ゴホっ。行ってくればいいよ」

 なんでか、目を合わすことが出来ない父親・シンジ。予想通りのやりとりに満足そうな妻・ミナコは

「よかったじゃないカナミ。どういうおウチだったかちゃんと見てくるのよ。お母さんと、お父さんにもきっちり教えてね。あっそうだ。なんだったら、写メでもこっそり撮ってきちゃえば・・・」

 止まらぬ妻の口を制するようにシンジが割って入った。

「オイオイ、それは失礼じゃないのかな」

 もうこの話題を終わらせたかったシンジだが、ミナコはそれに対して少々イラついた声色で反論してきた。

「何が失礼なのよっ。わざわざ他人を新築祝いに呼ぶくらいなんだから写メくらいいいじゃないのよ。他人を呼ぶってことは見せつけたいんだから、逆に写メでも撮って褒めてあげた方が喜ぶんじゃない。ねえ、カナミ」

 昔はこういうことを言う女性ではなかったのだが、妻の発言を受けてシンジは

(ミナコもけっこう我慢してるんだな)

と一家の長として情けなさで胸がいっぱいになってしまった。

「・・・ごちそうさま・・・」

 シンジはそんな想いを胸にポツリと呟いた後、背中を丸めながら席を後にしたのだった。


 食事が終わり、子供たちも部屋に戻っていった後、妻のミナコが皿洗いをしながらそっと呟いた。

「シンちゃん、さっきはゴメンね。私ちょっと興奮しちゃって・・・」

 シンジはテレビに視線を向けたままで、蚊の鳴くような声で返事をした。

「気にしないでね。私は今のままで十分幸せだから。子供たちは年ごろだからいろんな事に敏感なのよ。好奇心をアタマから叱るわけにもいかないし、少しだけ辛抱すればそのうちケロリと忘れるわよ」

 少し凹んだ夫を懸命に慰める妻の姿がそこにはあった。濡れた手をエプロンで拭きながらニコっと微笑むミナコ。

「あっ、それとシンちゃん。明日、用事なかったわよね。新しくできた大型スーパーに行ってみたいんだけど、つき合ってくれるかな」

 上半身だけを振り返り、頷くことしかできない旦那・シンジであった。

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