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~憧れのマイホーム~

 アパート暮らし35年。

 幼い頃から自分の部屋なんて与えられたことがないシンジは、男3兄弟。6帖ひと間に押し寿司状態で育ってきた。なので、一戸建てやマイホームという響きに対しある種の特別な想いを抱いていたのだった。

 3人兄弟の末っ子ということもあり、なに不自由なく過ごしてきたと思われがちだが現実はそんなに甘くはない。逆に末っ子というのは何から何まで兄たちのお下がりで賄われ、新しい物を与えられたことなどない。前述の通り洋服なんかはヨレヨレになるまで洗濯を繰り返すものだから糸がほつれている物が当たり前だった。

 両親からはとても可愛がられる末っ子だが、男3兄弟というサバンナの中では無情なほどの弱肉強食な世界が待っている。食事時なんて競いながら喰っていたので、じっくり食べ物を味わった記憶など皆無に等しい。のんびりなんてしているとあっという間に兄たちに漁られてしまうため、大人になった現在でもシンジは早食いなのであった。

 寝る時だって争いは絶えないのである。別に兄弟3人、仲が悪いわけではないのだが、躯体の小さいシンジは兄2人に挟まれるようなポジションで寝かされ、寝返りを打つことも許されない状態。毎晩、両脇からの肘・膝の打撃を受けたり、揉みくちゃにされたりして安眠した覚えもなかった。陣地争いに敗れ、全身アザだらけになる悪夢をいまだに観ることがあるほど。

 一種のトラウマである。

 念を押すが末っ子は肩身が狭いのである。だから、昔から自分が家族を持った時はそれこそ『自分の城』を持つことがシンジの長年の夢であった。

 しかし、そんな夢や希望に相反するように世の中は百年に一度の大不況に見舞われ、最悪な時代に突入してしまった。シンジが勤めている会社も例外ではなく業績を下げるばかりで、入社当時はまだ恒例だった昇給も今では無くて当たり前、現状維持すらマシな方。下らないだけまだマシ、と皆が声を揃えていう時代になってしまった。バブル崩壊から20余年が過ぎたが、いまだにバブルが弾けっ放しで景気再生の兆しは一向に見えていない。

 マイホームなんて一般庶民には、夢のまた夢。悪い冗談にしか聴こえない。


 そんな時代だからといって、子供たちの成長が都合良く景気回復を待ってくれるはずがなく、シンジ家の長女・カナミは中学2年生。長男のマコトも小学4年生と順調に年ごろを迎えてきていたのだった。

 姉弟という男女の違いや4つもの年齢の差は、徐々にお互いの生活にギャップを産み始め、プチ大人の女へと進化途中のカナミは、流行りのファッションやアクセサリーなどに興味を持ち始めているし、一方のマコトは子供の男の子まっしぐらで、部屋中にマンガ本や合体ロボ系のオモチャを散乱させ、いつも姉のカナミに足払いでよけられている始末。

 興味のある物事や情報がなにひとつ異なる2人なのである。そのお互いの情報量だけでも、もはや6帖ひと間に納まるはずがない。

 弟のマコトは幼いからまだいいが、姉のカナミはすでにマコトを邪魔者扱いしている。中学2年生の女子がいまだに2段ベッドの上段ではいくらなんでも可哀そうに見えてきた昨今であった。

 最近そんな会話を晩酌をしながら妻のミナコとよくするようになっていた。大不況ということも忘れ、ふたり楽しそうにマイホームの話に花が咲く。

『不況というのはみんなの気の持ちようなんだ。購買意欲を高めましょう』だなんて、偉そうな経済評論家が以前にテレビの中でいっていたが、シンジとミナコのふたりにはまさにそれが当てはまっていた。マイホームの話をしているだけで、心がウキウキしてきて、なんだか幸せな気持ちになれるから。そのうち身振りも手振りも大きくなり「キッチンには食器洗い機を付けたい」だとか「居間はやっぱり15帖は欲しいよね」なんて、実際に購入できるはずないとハナから決めつけているものだから、ふたりは好き勝手に注文をつけては酒の肴にしている毎日を送っていた。

 日々の生活苦などは一時忘れて、バカにでもなって笑い合いながら暮らした方が今の時代では家族を安全に存続していけるのかもしれない。そのせいだとはいわないが、最近になってシンジ家の焼酎の消費量が増えたような気がするが、そこら辺はご愛嬌ということで・・・。


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