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ケンカするほど仲がいい

作者: エイプリル



男が投げるような豪速球が、空気の壁をものともしないで、直樹めがけて飛んでくる。

直樹はあまりの衝撃にボールをファンブルした。


僕は直樹の取りこぼしたボールを飛び込んでダイレクトキャッチした。


「助かったよ。正哉」

「いいって、次は取れよ」

僕は直樹にボールをパスした。


僕の膝はすりむけていた、ひりひりする。

でも、あのボールにはそれほどの価値があった。


(ここで、直樹に当たったら意味がないんだよ)

僕は相手コートのみかを見た。


みかは左手の親指をたてていた。これは

「よくやった。えらい」

の意味だ。


これは、僕とみかがクラスのみんなに協力してもらった。イカサマのドッチボールだ。


あの二人、有坂直樹と真宮梨砂を仲直りさせるために、僕、中田正哉と羽鳥みかが仕組んだ大掛りなドッキリだった。




「なぁ、どうしたらいいと思う?」直樹が僕に相談をもちかけてきた。

内容は

「梨砂と仲直りしたい」

だそうだ。


「直樹がしたいようにすればいい。直樹は謝りたいんだろ。だったら、さっさと梨砂に頭下げてこいよ」

「ヤダ」

直樹はぷいっと、そっぽを向いた。


(全く。こいつらは二人して似たようなこと、相談するくせに自分からはぜっっったいに謝るつもりは無いんだよな。

とばっちりを受ける、僕達の苦労を一握りだけでも感じてくれないかな)


別の席で梨砂からの相談を受けているだろうみかに視線をうつした。


予想通り、みかは梨砂に泣きつかれていた。全てを諦めたような表情で、梨砂の頭を撫でていた。


みかがこっち見た。

僕に気づいたみたいだ。

ひきつった笑顔を僕にくれた。

僕も笑みをかえした。

僕達は揃ってため息をついた。


「おい正哉。ちゃんと話し聞いてたのかよ!」直樹は凄い剣幕だった。

「わ、分かってるって。そうだ、勝負したらどうだ。梨砂と」

直樹の剣幕に圧されて、僕はわけわからないことをくちばしっていた。


「……しょうぶ。ふふふ。勝負か」

「気持ち悪いぞ。直樹」

「うるせぇ。で、何の勝負やればいいんだ?」

直樹は僕の暴言を無視して質問してきた。


「…………。そうだな」

正直なにも考えてなかった。


僕は教室の中を見回した。

前には、……黒板。横には、……窓。

後ろは、……ロッカー。

ロッカーの前に転がっているボールが目にとまった。


「そうだ。ドッチボールは?」

「ドッチボールでどう勝負するんだよ」

「それいいわね。勝負しましょうよ。直樹」

梨砂が話しに乱入してきた。


「……梨砂」

直樹はうかない表情だ。


「男子と女子とで対抗戦でどう?」

「どうってお前、俺達の勝負にみんなを巻き込んでいいのかよ?」「女子は大丈夫よ。問題は男子だけ……」

梨砂は男子を見据えた。

まるで蛇に睨まれた蛙だ。これじゃあ、結果は決まったようなものだった。


「みんな。いいよね?」

梨砂は無邪気な微笑みを向けた。


男子はいっせいに首を縦にふった。


「これで、直樹がやるって言えば、勝負成立よ。それとも、いつもみたいに逃げる?」

梨砂は直樹を挑発している。


「……その勝負うけてやるよ梨砂。ぜっったいに負けてやらないからな」

「ふん。そのセリフ直樹にそのまま返すわ」

「あ〜〜。その傲慢な性格、高飛車な態度。少しは、みかを見習って、女の子らしくしてみろよ!」

(あ〜〜あ。完全に梨砂のペースだ。

直樹は頭に血がのぼりやすいから、いつも梨砂にしてやられるんだよな)


僕は二人の一方的なやりとりを黙って見守った。


そろそろ、言い争いをはじめて、十分が過ぎようとしていた。二人の険悪な雰囲気のせいで、昼休みの穏やかなひとときは、殺伐とした息苦しいものになってしまった。


その内側に、みかが、おくすることなく入っていった。

多分、この状況を打破出来るのは彼女だけだろう。


「二人とも、昼休みがおわっちゃうよ。それにいいかげんにしないと、私、怒っちゃうよ」


みかに気づいた二人は口をぱくぱくさせた。

その瞬間、二人の雰囲気は一転した。

二人とも顔は青ざめて冷や汗をかいている。


「分かったみたいだね。勝負はまだなんだから、冷静にならなきゃだめだよ」

聖母のように暖かく微笑んだ。


「悪かった。みか」

「悪かったわ。みか」

「二人とも水飲み場で水飲んできたらどうかな、のどカラカラなんじゃない?」


まるで二人は借りてきた猫のように従順だった。二人は教室を出ていき、水飲み場に向かった。


教室内に平穏が戻った。みんなの表情が明るい。いたるところから話し声が聞え始めた。


「正哉」

みかがいつのまにか横にきていた。


「よく考えついたな、みか。対抗戦なんて」

「正哉のドッチボールって言葉が聞こえたから、思いついたんだよ。もう一つ準備があるんだけど、手伝ってくれない?」

「ああ。それで何すればいい?」

僕達は内緒話しをした。


「分かった。じゃあ説明は頼むな」

みかはうなづいた。


「みんな〜〜〜〜。こっちに注目!」僕は教室中に聞こえるようにバカでかい声をあげた。

みんなの視線がこっちに集まった。


「みんなに協力してほしいことがあるの。実は」

みかはみんなに今の二人の状況を説明した。

「だから、二人が一対一で戦えるようにみんなに協力してもらいたいの」


「分かった」

「いいよ」

「協力する」

などとみんなから肯定の意思を受けとることができた。


これで、準備は完了した。僕達に出来ることはもうない。あとは二人次第だ。


この計画の主役は二分後に戻ってきた。


二人とも、不気味な笑みをうかべている。

おそらく、勝ったあとのことを考えているんだろう。


「正哉。絶対勝とうな!」

直樹はすでに臨戦体制だった。


それは梨砂も一緒だったようで、隣の席で同じような気合いの入った声が聞こえてきた。

すでに、戦いの火蓋は切られていた。




「この勝負、私か直樹が当たったら負けよ。負けたほうが勝ったほうに土下座だからね。」

「分かってるよ梨砂」

二人はお互いのコートの中央で試合が始まるのを待っていた。


ジャンプボールで試合が始まる。

ボールをあげるのは僕だ。取り合うのは、公平をきすために第三者に決まっていた。


僕はボールを頭上高くほうり投げた。

直ぐ様、自陣の直樹の横についた。


ジャンプボールは女子側が競り勝った。


(みんな、計画通りに頼む)僕はボールの動きに全神経を集中した。


計画通り、二人にボールがまわらないように、遠くの人から当てられて外野に移動していく。


残りは、両コートに僕達四人を合わせて六人だ。


しかし、ここでボールが梨砂にまわってしまった。


(やばい。当然狙いは)僕は梨砂の動きに注意した。


梨砂は二三歩下がって、助走距離をとった。

勢いをつけて直樹を狙った。力が入りすぎたようで、足元を狙ったボールは直樹の腹あたりに飛んでいった。

直樹なら簡単にキャッチできるはずだった。


直樹はそのボールをファンブルした。

幸いボールは頭上にあった。

上から落ちてくるボールを今度は冷静にキャッチした。

そのまま直樹は近くにいる梨砂ではなく、遠くにいる別の子にぶつけた。


梨砂は驚いていた。

みかも驚いていた。

そして、僕も驚いていた。まさか、直樹が梨砂以外を狙うなんて思ってなかったからだ。


予定通り、僕達四人だけ残った。

あとは僕とみかが外野に行けば全て整う


今、ボールは直樹が持っている。


直樹は梨砂にボールを投げた。力はあるが、正直なボールだった。

梨砂は簡単にキャッチした。


梨砂の目つきが厳しくなった。

相当頭にきてるようだった。

直樹の足元めがけてボールを投げた。


怒りが乗り移ったような豪速球が、空気の壁をものともしないで、直樹めがけて飛んでいく。


直樹はあまりの衝撃にボールをファンブルした。


僕は直樹の取りこぼしたボールを飛び込んでダイレクトキャッチした。


「助かったよ。正哉」

「いいって、次は取れよ」

僕は直樹にボールをパスした。


僕の膝はすりむけていた、ひりひりする。

でも、このボールにはそれほどの価値があった。


(ここで、直樹が当たったら意味がないんだよ)

僕は相手コートのみかを見た。


みかは左手の親指をたてていた。

これは

「よくやった。えらい」

の意味だ。


僕はすぐに立ち上がり、捕球の体勢に入った。


直樹は僕が立ち上がるのを確認すると、投球態勢に入った。


梨砂めがけて全力投球した。


さっきのへなちょこボールとはスピードが違う。

梨砂は何とかキャッチした。



二人の投げあいが始まった。

二人とも、小細工なしの直球勝負だった。

相手の胸めがけて力いっぱい投げこんでいる。


梨砂を見ると、彼女の表情から怒りが消えて笑みがこぼれている。

この壮絶な投げあいを楽しんでいるようだった。


直樹は、表情が心なしか暗い。まるで、この勝負を望んでいないようだった。


この一騎打ちに終わりがこないように思ってしまう。


しかし、あっというまに勝負はつく。


梨砂が投球後にバランスを崩して倒れてしまった。直樹は梨砂の投げたボールをとった。

今投げれば直樹に勝ちだ。


直樹は投球態勢に入った。


しかし、梨砂ではなく、隣にいたみかにボールを当てた。


みかに当たったボールは梨砂の前に転がってきた。


梨砂はそのボールを直樹にぶつけた。


この勝負は梨砂に軍配が上がった。


誰も予想出来ない終わりだった。




梨砂は眼光鋭く直樹を直視した。

梨砂の瞳にはうっすらと涙がうかんでいる。


「なんで、なんで私に当てなかったの!」

直樹は梨砂をみていない。


「直樹なら簡単に当てられたはずよ。情けでもかけたつもり?

そんなのいらないわよ。私は真剣勝負のつもりだったのに……どうしていつもそうなのよ!」

梨砂はうつむいてしまった。


「……当てられるわけないだろ」

直樹の体はふるえていた。


「例え、遊びだったとしても、

梨砂を傷つけられるわけないだろ!」

直樹は梨砂を見ずに叫んだ。


「だったら、どうして勝負なんて受けたのよ?」

「最初から負けるつもりだったんだよ。それで梨砂に謝るつもりだった。……でも、梨砂と投げあってるのが楽しくて、このまま投げ続けたかった。でも梨砂が倒れた時にこのままじゃいけないと思ったんだ。だから」

直樹はうつむいている梨砂の頬に触れた。


「今まで、ごめんな。梨砂」

「どうして、いつも先に言っちゃうのよ。私だって、ごめんなさいって、謝りたかったのに!」

梨砂は直樹の胸の中で幼い子供みたいに泣きじゃくっていた。


直樹は黙って優しく梨砂の頭を撫でた。


とりあえず、仲直りできたみたいで、僕達は肩にのっている重たい荷を下ろすことが出来た。


めでたしめでたし。




とは行かなかった。


次の日。

「ねぇ正哉。みか。聞いてよ。直樹が私の悪口言ってたんだよ」

僕とみかは顔を見合わせて、深いため息をついた。


梨砂の三、四メートル後方で直樹が手を合わせていた。

「あとは頼んだ」

という意味だ


僕達の肩の荷はしばらくおりることは無さそうだった。

こんなぐだぐだな文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。

出来れば、ダメだしなど宜しくお願いします。

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